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魔性

 結界が完全に崩れると視線の先に女が二人佇んでいた。給仕服を着たそばかすの赤眼の女と杖を片手に持った琥珀眼の美しい女だ。

「こんな所に隠れてるなんて本当に臆病者ね? おかげで探すのに苦労したわ……奪い損ねたその力今度こそ頂かないとね!」

女は杖を前に出し狂喜に満ちた表情でアルツグリットを睨んだ。

「何故貴様が生きている!? キミたちではあの女には傷一つ付けられないだろう。ここは私に任せて逃げなさい!」

 朔玖達の前に立ち空間から鎌を取り出し両手で構える。

「あはははは! そんな出来損ないの雑魚共の為に時間を稼ぐなんておめでたい頭をしているわね? そんな雑魚を庇った所であの世に行くのが少し遅くなるかの違いしかないのに残念ね」

「そうならぬように刺し違えてでも貴様を討てばいいだけだ……」

 アルツグリットが疾走し女の下まで迫る。

「誰の首を掻っ切るって言ってるの? 笑えない冗談を言うのね? 貴方程度に私が直接相手をするまでも無いわ……行きなさいエマ」

 背後に控えていた給仕服の女エマが杖を持った女に対して一礼し前に出る。エマは鋭く敵を捉えゆっくりとアルツグリットの方へ歩いていく。

「かしこまりました……御老人の命を奪うのは忍びないのですが、出来る限り優しくするのでお許しください」

 エマは向かってくるアルツグリットの攻撃をいなし、その腕をひねって木の方へ投げた。投げられたアルツグリットは木を利用し反転し飛ぶと鎌でエマの首を刈り取ろうとする。

「年寄りの割には良い動きですが、脇が甘いですね」

 エマは最小限の動きで鎌を避け一言呟きアルツグリットの腹に掌打を叩き込む。苦しげに顔を歪めながらアルツグリットが後ろに飛び呼吸を整えると追撃とばかりに袖口から取り出した針を飛ばした。

「爺さんじゃ若者の相手は厳しいんじゃねぇか? 私が相手してやるよ」

 律が飛び出て針を全て掴み取りエマに投げ返す。

「逃げろといったはずだ……」

「弱いもの虐めを黙ってみてるほど腐ってねぇからな」

 エマは針を叩き落し太腿から匕首(あいくち)を引き抜き構える。

「二対一とは卑怯な事をしますね」

「いいや、二対一じゃないぞ?」

 後ろから聞こえた声にエマがはっと振り向いた瞬間真浦からの回し蹴りを喰らい吹き飛ぶ。更におまけの律の紫炎がエマの吹き飛んだ先に飛来し直撃する。

「あらあら流石に私も加勢した方がいいかしら?」

「……羽虫が増えただけです。アウル様の手を煩わせるまでもありません」

 傷だらけの身体にも関わらずエマは落ち着いた物腰で身体をぱぱっと払うと赤黒く濁った眼で相手を睨む。

「へぇー……羽虫扱いね? その喧嘩買ってやるよッ!」

「俺様を馬鹿にしたこと後悔させてやる……」

「いかん、早まるな」

 アルツグリットが声を張るが止まらずに律と真浦がエマに対して突っ込んでいく。真浦の前蹴りを両手で受け回転を加えて地面に叩きつけ続く律の肘打ちを後方転回しながら避け顎を蹴り上げる。

「口だけじゃないって事か……少なくともあの剣士と同等以上の強さはあるな……仕方ねぇな」

「あれを使う気か? それならここじゃ巻き込まれるか……おい、爺さん一緒に離れるぞ!」

「娘一人では無理だぞ!?」

「いや、十分だ! ほら、行くぞ!」

 真浦がアルツグリットを抱え朔玖の方まで離れる。

「ぐぁぁぁぁぁああぁぁぁああああ!」

 律が唸り赤い瞳には五芒星を模した文様が現れ、周囲には紫炎が巻き上がっている。

「真浦さん、あれは一体何なんですか?」

 朔玖が驚いた表情で視線を律に定めたまま真浦に問いかける。

「律の改造刃核(アルマアニマ)だ……とりあえず付けられるだけの処置をしたもので反動が酷い上に精神が不安定になるという欠点もある……だが、その分出力は桁違いだ」

 異様な雰囲気を纏いながらエマに向かって駆け出し、その腹を腸を抉り出すように拳で貫く。エマが錐揉みしながら吹き飛び地面を弾む。

「ぐふっ……これは厄介ですね……アウル様、許可をお願いします」

「あらら、まだたった一撃喰らっただけじゃない? まぁいいわ……武装の許可を出します」

「ありがとうございます。術式展開……我が手に息吹この世のあらゆるものを切り裂きなさい……空裂(くうさき)ッ!」

 エマが両の眼を閉じ唱える。すると両手に帯電してる円月輪が生み出され、ゆっくり眼を開くと左眼だけが()()()に変わっていた。

「あれは相当やるぞ? あの娘だけで本当に大丈夫なのか?」

「ああ、律なら大丈夫だろう」

「それなら邪魔の入らぬ今のうちにどうにかアウルを討ち取らなければ……」

 そう言ってアルツグリットが様子を窺っていると忽然とアウルの姿が消える。

「ねぇ、何の話をしているのかしら? 私も混ぜてくれない?」

 不意に現れたアウルに対して真浦は即座に反応し前蹴りを放とうとするが見えない何かによって押し潰され蛙の如く地を這う。

「ぐぅぅぅぅぅ!?」

「真浦さん! 一体何をした!」

「私に対する不敬の罰として彼の感じる重力を十倍にしてあげただけよ? ところで、貴方面白い身体をしているわね」

朔玖と話してる隙をついてアルツグリットが鎌で背後からアウルの胴体を切断しようと試みるが、金属音が鳴り響き刃は通らない。アウルはアルツグリットの首を掴み放り投げた。

「話の途中で邪魔をするなんて、そんなに早く死にたいのかしら?」

「くっ……以前より力を増しているか」

「ねぇ、可愛い坊や……お姉さんと一緒にイイコトしましょうか?」

 そう言ってアウルはおもむろに朔玖に手を伸ばす。朔玖がそれを避けようと身体に力を入れるが全身を地面に縫い付けられたような重さを感じ動けないでいた。

「やらせるか!」

 律が朔玖とアウルの間に割って入り対峙する。

「あら、エマは何しているのかしら……?」

 アウルが視線を左右に揺らすと全身が傷だらけでよろめくエマが視界に入る。

「申し訳ございません……この娘、想像以上にやるようでして……」

「言い訳はいいの……もう私がやるから貴女は下がってなさいッ!」

 アウルが癇癪(かんしゃく)を起こしエマを下げさせ杖を掲げる。

「お前一人で何とかなると思ってんのか……?」

「エマに勝てたくらいで勘違いして欲しくないわね……先ずは目障りな貴女から死になさいッ!」

 アウルの周りには無数の剣が現れ浮かび上がっている。杖を振り下ろすのを合図としてそれらは律へと一直線に向かっていく。弾き、避け、燃やし何とか凌ぐとアウルの姿は既に消えていた。

「あのクソビッチどこへいったッ!」

「上です律さん!」

 律が上を向くと先程の倍を越える数の剣が浮かんでおり律に対して降り注ぐ。アルツグリットも剣の雨の中に入って鎌で薙いで数を減らすがその効果は全体から考えても微々たる物だ。

「こん……な……もんでわ……たしは…」

 律がぼろぼろの身体で立ち上がろうとするがその思いは虚しく意識は手放された。アルツグリットも既に満身創痍といった有様で戦う事は困難だろう。

「あははははッ! おまけで馬鹿まで釣れるなんて儲けものね? エマ、止めを刺しておきなさい」

「かしこまりました」

 エマが律の方へと向かおうとした、その時夜の帳が下りたように全てが黒で塗りつぶされた。

Data

エマ

Age Unknown

Blood Unknown

Weapon 空裂

Capa 1360

Speed 750


日斗辺律 終人 刃核

Age 24

Blood AO

Weapon 紫炎

Capa 1480

Speed 900

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