出会いの日 2-Y
どういうつもりだか知らないが、アルトは最近はだんだん暖かくなって来ただとか、通りがかった飲食店を指差してここは何とかが美味いだとか、場違いな話ばかり話しかけてくる。黙している私に話しかけ続ける技術もないようで、その内に困ったような顔で黙りこくって歩き始めた。私たちは繁華街を離れ、近くへ見える丘の方へ向かっていく。遠目にも立派な家がいくつか立っているのが見える。こいつの家もあの一帯にあるのだろう。
しばらく歩いて到着したアルトの家は、やはり立派な館だった。家の大きさもさることながら、無暗にでかい門、馬鹿げた大きさの庭……
私を飼いならそうとしてきた男どもも、みな一様に無駄に大きな家に住んでいた。いったい何の必要があってここまで大きいのか、いや、大きいということ自体に意味があるのか……
私はてっきり勝手口のような門からこっそり入るのではないかと思っていたが、意外にもアルトは正面から堂々と入っていく。こんななりの女を連れて入って、いったい何と説明するつもりか、いや家族は出払っているのか。この家の大きさだと他の奴隷か使用人も雇わなければやっていけないはずだが、それも今はいないのだろうか。
アルトは自分で鍵を開けて玄関へ入った。やはり中も大層な造りだ。玄関は吹き抜け、豪華な照明。そして誰も出迎える様子はない。アルトは風呂に入れと言って私を誘導しようとする。
風呂か…… 私もそれは予想していた。私の身体を犯すにしても、この汚い状態では嫌だろう。それに私も風呂に入りたかった。どちらにせよ拒否権は無い……
私が家に上がろうとすると、アルトが素っ頓狂な声を上げる。「ユキ裸足だったの!?」
今さら何を言っているのか…… しかし、続けて彼が発した言葉は、またも私を困惑させた。痛くなかったか、怪我などしてないかと、まるで私を気遣うかのように、対等な人間に話しかけるかのように言う。私が奴隷に堕ちて以来、このような言葉をかけてくる奴はいなかった。
「このくらいで怪我などしない」思わず答えてしまう。こいつには困惑させられっぱなしだ、いったい何なのだこいつは……
アルトから説明を受け、これまた無駄に豪華な風呂に入る。見慣れない取っ手を捻ると、暖かい湯が降り注ぐ。ああ、これは…… 例えこの後はあの男の慰み者になるとしても、久しぶりの湯浴みは嬉しかった。奴隷に堕ちる前よりも、奴隷に堕ちた後の方が豪華な風呂に入る機会が多いとは皮肉なものだ。
暖かいお湯に包まれ、警戒心が解けそうになる。アルトは本当に、悪人ではないのではないかと、このまま、まるで対等な人間の様に私を扱い続けるのではないかと、微かな期待が湧きそうになったが、すぐにそれを打ち消した。私を都合よく扱うのでなければそもそもなぜ私を買ったのか? 本当に奴隷を人間扱いする慈善業者のような行いをしたいというのなら、買ったその場で私を解放するはずだ。それとも私が一人で生きられるようになるまで、ここで寝食まで与える? 夢物語だな……




