15-A
僕たちは地図を頼りに武具店へ向かった。この街にはいくつかその手のお店があるみたいだ。刀剣の部類が一番充実してるのは多分ここかな。
「おお~……」
お店の中に入って、僕は思わず感嘆の声を上げてしまう。壁一面に備え付けられたフックのような突起に、たくさんの剣が掲げられている。もちろん床に置いてある棚にも種々の刀剣が、オーソドックスな長剣を始めとして、目立つのはめちゃくちゃ大きいクレイモアみたいな剣、反対に簡単に折れてしまいそうな細いのも、なんだかぐねぐねした変わってるのも…… こんなに剣がたくさんある空間なんて初めてだからなんだか楽しい。なんとなくだけれど、上に掛けられているものはどれも高級そう。下に置いてあるのはお手頃価格な傾向だ。そして少し進んだ一画には、反りのある片刃の剣のコーナー、僕らが求めているもの。
「いっぱいあるねえ…… 僕は全然分かんないよ。ユキが選んで」
「私がか……? うーむ」
ユキはざっと売り場を見渡すと、“在庫一掃セール! この棚どれも700シヴ!! ※鞘付属しません”と書いた紙が貼られた棚、雑多に置かれた内から一振り手に取って、「これを買ってもらえるだろうか……?」
「ええ! 何でそんな…… 遠慮とかいいから!」
素人目にはそこまで違いが分からないけれど、良い品であるはずがない。
「これで十分だよ」
「いや、お金なら大丈夫だから…… もっと良いのにしようよ」
「そうか…… では、あれを」
ユキが指差したのは“刀スターターセット! 必需品5点セットで1980シヴ!! 初心者にオススメ!!”
「いやいや、あれは初心者向けのやつじゃん! ユキはそうじゃなくて…… もういい、僕が選ぶ!」
「ご主人様が……?」
言ってはみたものの、刀剣の良し悪しなんて僕にはわからないから、判断基準は値段しかない。とりあえず一番高いやつを選んどけばそこまで間違いはないはず…… しばらく売り場を検分した結果、壁の一番上に掛かっているやつが一番値段も高いと分かった。
僕は近くにあった木製の脚立のようなステップを持ってきて、目当ての刀を取ろうとした。一番上の段から手を伸ばして…… くうう、届かない……! あとちょっとなんだけど……!
僕が取ろうとしている刀を見て、ユキが止める。
「ちょ、そんなに高いのは…… こっちで十分だよ……!」
「だめ! これにするのっ! 僕が買うんだからっ!」
僕はむきになって取ろうとして、爪先立ちになって……
「待ちたまえ」「わあっ!!」
急に横合いから掛けられた声にびっくりして、僕はバランスを崩して、あ、やば――
「アルト!」
落ちる……! 反射的に身を固くするけれど、来たるべき衝撃はなく、むしろ柔らかな感触…… ユキに抱き留められていた。
「大丈夫か……?」
「あ、う、うん…… ありがとう……」
驚きと入れ替わりに羞恥がやってきた。ユキはゆっくり僕を下ろして、いつの間にか接近してきていた店員さんに向き直る。
「おい、驚かすな」
ユキはさりげなく僕と店員さんの間に入る。この人ぜんぜん足音がしなかったぞ、男の人、背が高い、エルフだ……
「いや失敬、あまりにも見ていられなくてな……」
「何がだ」
「遠慮するなと言ってくれているのにこんなのを選ぶ貴方もそうだが、そっちの少年もな…… まず根本的に選択を間違えているぞ」
自分のお店の商品を“こんなの”って……
「間違っているだと? お前に何が分かる」
あれ? なんかユキ怒ってる……?
「分かるさ…… 貴方の本当の得物はこれじゃない、だろう?」
「ほう……? では何なのだ」
ユキの声のトーンが、すっと低くなった気がした。本当の得物が違う? ユキが使ってたのは刀じゃないってこと? ていうか何でそんなこと…… 店員さんは隣のコーナーに歩いていく。
「こっち」
「…………」
店員さんが指し示したのは、やっぱり刀なんだけど、僕たちが見ていたのよりはるかに長い、大太刀…… 野太刀……? のような刀だった。
「あれ? そうなの?」
僕がユキに聞くと彼女はばつが悪そうな顔で頷く。
「まあ、私が振り回していたのは…… そうだな、そのくらいの大きさだった。しかしなぜ……」
「さっきの持ち方とか…… まあこの商売長くやっているとな」
「お前を…… 敵には回したくないな」
「もう引退した身だよ」
なんか、強者の会話って感じなんですけど。何を引退したんですか? と聞きたい気持ちを抑え、代わりに、「すみません、彼女が使う武器で一番良いものはどれですか?」
「ちょ……!」
ユキは絶句、店員さんはニヤリと笑い、僕たちを奥へといざなう。
「待ってくれ、一番良いものなんていくらするか分かったものではないぞ。恐らくご主人様が思っているよりずっと……」
「まあまあ、見るだけでもさ」




