15-Y
私はアルトと武具店へやってきた。実際に来てみると結構な店構えだ。
店内に入るとアルトは物珍しいのかきょろきょろと店内を見渡して楽しそうだ。派手な武器を目を輝かせて眺めている。そういうのが好きなのは流石に年頃の男の子と同じということか。なんだか少しだけ安心する。彼が楽しそうにしていると、私も嬉しい。
「すごいねえ、いっぱいあるね!」
彼にしては少し珍しくはしゃいだ様子で店内を物色していたかと思うと、今度は立ち止まって興味深そうに商品を眺めている。刃が極端に湾曲して、ほとんど半円状になっている剣だ。
「へんな形……」
「これは多分、敵の盾なんかを迂回して攻撃するためのものだよ」
「なるほど……!」
アルトは何度も頷く。
「あれもぐにゃぐにゃ!」
彼が指差した、壁に掛かっているのは刀身が波打っている剣。
「ああ、あれは斬った傷の治りを遅くさせるための形だ。肉を抉るんだよ」
「うわあ…… 痛そう……」
その後も彼の質問に知っている範囲で答えていく。私の説明に一つ一つ真剣に聞き入り、興味深そうな反応をするアルト。冒険者時代の知識がこんな形で役に立つなんて……
「ユキすごい! なんでも知ってるね!」
「ふふっ、大げさだな。そんな大した知識じゃないさ」
こんな私でも多少は彼を楽しませられたようで、それは少しだけ私を安心させる。
「僕は全然分かんないよ。ユキが選んで」
「私がか……? うーむ」
太刀が売られている区画へ来た私たち。アルトは私に選べと言う。本当は私の得意な武器はもっと大きなものなのだが…… 別に何でもいいだろう、どうせ実際に使うことはない…… 私は一番安い商品を手に取る。
「これを買ってもらえるだろうか……?」
「ええ! 何でそんな…… 遠慮とかいいから!」
やはりそう来たか。しかし私は…… 私はちらりと隣の区画、野太刀を見てしまう。ダメだダメだ、使わないんだから……
「そうか…… では、あれを」
私は入門者向けのセットを指し示すが、やはりアルトは首を縦に振らない。
「いやいや、あれは初心者向けのやつじゃん! ユキはそうじゃなくて…… もういい、僕が選ぶ!」
「ご主人様が……?」
アルトは商品を色々と眺めていたが、意を決したように脚立を取ってきて登りだす。見ているだけで危なっかしい、そのうえ彼が手を伸ばしている先は……!
「ちょ、そんなに高いのは…… こっちで十分だよ……!」
「だめ! これにするのっ! 僕が買うんだからっ!」
一番上の段で背伸びしているアルト、私が取るから、危ないから降りてきてくれと言おうとした矢先、横合いに急に気配が現れる。店員……!? いつからそこに……!
「待ちたまえ」「わあっ!!」
アルトは驚いてバランスを崩す。
「アルト!」
大丈夫だ。間に合う…… 私は即座にアルトの足元へ身を寄せ、彼を抱きとめる。ついでに脚立が倒れないように足で地面に押さえつけた。
「大丈夫か……?」
「あ、う、うん…… ありがとう……」
怪我などはしていないようだ。私は心の中で胸を撫で下ろし、彼を下ろしてやると店員に向き合う。
「おい、驚かすな」
アルトを守るため前に出る。敵意は感じていないが、気配を殺していたとは趣味の悪い店員だ。
「いや失敬、あまりにも見ていられなくてな……」
「何がだ」
思わずつっけんどんな返答をしてしまう。
「遠慮するなと言ってくれているのにこんなのを選ぶ貴方もそうだが、そっちの少年もな…… まず根本的に選択を間違えているぞ」
「間違っているだと? お前に何が分かる」
なんなんだこいつは。私のご主人様の選択が間違っているだと? お前ごときが、アルトがどんな気持ちで私のために武器を選んでくれようとしたのか分かるものか。
「分かるさ…… 貴方の本当の得物はこれじゃない、だろう?」
なに……? 私の遣っていた武器が違うと見抜いたというのか……
「ほう……? では何なのだ」
「こっち」
「…………」
出鱈目を言っている可能性も考慮して聞いてみたが、あえなく正解を示されてしまった。なるほど、単なる嫌味な店員という訳では無さそうだ。
「あれ? そうなの?」
アルトに聞かれては答えざるを得ない。
「まあ、私が振り回していたのは…… そうだな、そのくらいの大きさだった。しかしなぜ……」
「さっきの持ち方とか…… まあこの商売長くやっているとな」
「お前を…… 敵には回したくないな」
「もう引退した身だよ」
私は奴の腹を探っていたが、アルトはお構いなしにとんでもない爆弾をぶち込んできた。
「すみません、彼女が使う武器で一番良いものはどれですか?」
「ちょ……!」
店員はニヤリと笑う。手振りでついて来いと示し、店の奥へ……
「待ってくれ、一番良いものなんていくらするか分かったものではないぞ。恐らくご主人様が思っているよりずっと……」
「まあまあ、見るだけでもさ」




