第十一話・進化する者たち
少年達の、自転車への想い。
孝『こりゃ、練習に性が出るな!』
翔太『全員で完敗させてやろう。剛、頑張ろうな!』
剛『おう!』
典子『剛ー!』
典子が走ってきた。
剛『石田、下の名前で呼ぶの止めろよー。』
典子『さっきの自転車捌き、ホントにあんたなの!?』
剛『あ、あぁ。そうだけど。』
孝『剛はチャリドリのスペシャリストなんだぜ!』
典子『スペシャリスト!?剛、自転車の才能あったのね!』
剛『ス、スペシャリストって程でも無いけど…。』
典子『あんな走りを見てたら、アタシも興味出てきちゃった。』
翔太『面白いよ!自転車は。』
孝『何てったって、誰でも手軽な価格でできるからな!』
翔太『ただ、その自転車じゃ…』
孝『流石にママチャリじゃ難しいかな…』
典子『そっかー…まぁ、そうだよね。
見てるだけでも楽しいから、アタシはそれでもいいかな。』
剛達に向かって歩きながら、健吾が言った。
健吾『いや、意外といたりするぜ、ママチャリでバトる奴って。』
翔太『えー、以外!』
孝『ママチャリで攻める…凄い発想だな。』
健吾『ママチャリは、スポーツ走行もカスタムもかなり難しい。
その難易度に惹かれて挑む物も、少数派だが居るには居るんだ。』
剛『へぇー。』
健吾『まぁ、何もママチャリに乗ってるからできないって訳じゃない。
オレ達みたいにやりたいなら、相応しいマシンを買えばいいだけさ。』
健吾は、宝野公園の出口の方に視線をやった。
健吾『しかし、全くキザな奴だ…義明は。』
市雄『ぜ、絶対に負けられないぞ!』
健吾『義明は西名インペリアルズのナンバー3だが…
実際の所、ナンバー2の卓夫と実力の差は殆ど無い。』
市雄『荷重マスターと呼ばれている程
ブレーキング荷重を上手く利用する男だからな…。』
健吾『ブレーキを頻繁に使うコーナリングセクションでは
オレでもあいつに付いて行くのはキツいぜ。』
市雄『それで、その義明に勝つ為のトレーニングは…』
健吾『ジムカーナだ。』
孝『ジムカーナ!?』
翔太『狭いコースを蛇行する、スラローム競技ですね!』
健吾『駐車場や公園みたいな場所に、パイロンを置いて
作られたコースを二回走り、いい方のタイムを競う競技だ。』
市雄『自転車競技としては、まだマイナーなんだよな。』
健吾『ジムカーナの練習もスケジュールに組んでおくか…
ま、とりあえず…今日は徹底的に宝野を走り込むぞ。』
孝『分かりました!』
翔太『了解ですー!』
剛『頑張るぞー!』
典子『じゃ、アタシはあっちで見とくからね。』
剛達は何時も以上に宝野を走り込み、その日の練習が終わった。
健吾『お疲れ、確実に速くなってきたな!』
剛『ありがとうございます!』
市雄『お疲れさん!』
翔太『お疲れ様でーす!』
市雄『翔太、ホイールスタビライザーの効果…凄いなぁ!』
翔太『でしょ!めちゃくちゃ最高ですよ!』
孝『明日はジムカーナだな、淳平!』
淳平『あぁ!ジムカーナかぁ!』
孝『ジムカーナなら、フルリジットでも活躍できそうだな!』
淳平『そりゃまるで、普段オレが活躍してないみたいな言い方だな。』
西脇順平。
カミカゼのチームメンバー。
フルリジットMTBの使い手。
シンプルなマシンを好み、ダイレクトなバトルが得意。
反射神経や運動神経が高く、武道の様な感覚で
バトルに挑む為、カミカゼの武道家の異名を持つ。
孝『そゆ訳じゃねーよ。』
淳平『まぁ、きびきびと動く技術が要求される
ジムカーナは、オレにはぴったりだな!』
孝『お前のマシン…TAKAMATSUだっけ?』
淳平『あぁ、オレのマシンは、TAKAMATSU社唯一のフルリジットMTB…
TAKAMATSU・ThunderKnuckleだ!』
孝『唯一…と言うか、フルリジットMTB自体がマイノリティなんだけどな。』
淳平『衝撃吸収なんて、乗り手の技術だけで何とでもなるもんだ。』
孝『まぁ、それがお前の信念だからな…。
オレは、乗り手とマシン両方で十分に衝撃吸収する派だ。』
淳平『ジムカーナ…ワクワクするぜ!』
健吾『おーい!集合、集合だ!』
カミカゼのメンバーが健吾の前に集合した。
健吾『みんな知ってると思うが、明日はジムカーナだ。
場所は…ここから西にある、第三駐車場跡でやる。』
市雄『第三駐車場跡…通称三駐は、ジムカーナ専用のコースだ。
チーム・三駐サラブレッズのホームコースでもあり
三駐で練習する事によってバトルに発展する事もある。
相手は当然、ジムカーナのスペシャリストだから
いつも以上に気を引き締めて対応しないとな!』
翔太『三駐サラブレッズ!チームリーダーがミニベロ乗りの…!』
健吾『ミニベロは取り回しが利くから、ジムカーナでは猛威を振るうぞ。
さて、もう遅い。明日はハードになるから、帰ってゆっくり休めよ。』
●別府宅前●
剛(ふー、疲れたな…早く寝たいぜ。)
剛はふと自分の自転車、ABISEEDを見つめた。
そして、ABISEEDから降り、家の門に立て掛けた。
剛(すっかり汚れちまったなぁ…
家に入る前に、綺麗にしてやるか。)
月明かりがABISEEDのフレームを照らし
暗い紫のメタリック塗装を幻想的に輝かせている。
剛(やっと終わったー!…にしても、綺麗な色だな。
タイヤも、野原先輩から貰ったお駄賃で新しくしたし…)
剛はABISEEDの前に屈んだ。
剛(こいつを買った瞬間は、他の奴と同じ事がしたい。
たったそれだけの理由だったけど、クロスバイクを持った事で
孝に誘われて、カミカゼの練習風景を見て、感動したんだったなぁ。
そこからは、自転車にまっしぐらになって…
森田先輩の走りを見たあの時、西名通りでの交流戦、一号店へのお使い。
そして、今日の出来事…全部が、オレを動かしてる…。)
剛はしばらくABISEEDを眺めて、ボーっとしていた。
遠くから、自転車のヘッドライトが近づいてくる。
典子『忘れ物ー!』
剛『典子!?』
キキーッ
典子『鞄を忘れるなんて、どういう神経してる訳!?』
剛『あっ!あー!』
典子『しかも、置き勉してるし!』
剛『重たいし…家じゃ勉強しないし…』
典子『全く…さっきの自転車裁きとは、大違いじゃない!』
剛『わ、悪い悪い。鞄、ありがとな。』
典子『気を付けなよ。』
典子はABISEEDに視線をやった。
典子『これが剛の自転車!』
剛『初心者向けの安い奴だけどな。』
典子『綺麗だねー。まだ新しいじゃん!』
剛『まぁな…。』
少し間を置いて、典子が口を開いた。
典子『ねぇ、明日の練習も見に行っていい?』
剛『いいけど、第三駐車場跡って、遠いらしいよ?』
典子『大丈夫!移動はそんなに
飛ばさないと思うし、私だって自転車持ってるもん!』
剛『まぁ、練習の邪魔にならなかったらいいと思うよ。』
典子『ありがとね。じゃ、そろそろアタシは帰るから。』
剛『おう、気を付けてな。』
典子は帰って行った。
剛(鞄を忘れるなんて、全く…どうかしてるぜ。
…自転車が楽しすぎるからかな…ABISEED。)
●翔太の家●
翔太(ボクのBlueMagnumは、小さくても立派なマシンだ!
何時かきっと…あの忌々しい刻斗に分からせてやるぞ!)
●孝の家●
孝(ジムカーナに向けて、V20をカスタムしないとな。
加速のトラクションに耐えられる様に
リヤサスをそのままに、ブレーキング荷重を扱いやすい様に
フロントフォークだけリジットにしよう。
少々、滑稽な見た目になるけど、これがオレのカスタムだ!)
自転車少年達の進化は続く…!
☆マシン図鑑☆
シティサイクル
俗にママチャリと呼ばれる実用自転車。
さまざまなタイプがあり、ここでは説明しきれない。
価格帯も低く、特に安い物は一万円を下回る程。
搭乗者・石田紀子
カラー・マゼンタソリッド
紀子仕様…アップライトハンドルで、リアキャリアが付き、
前カゴが大きく、両立スタンドなので、婦人車と呼ばれる。
ハブダイナモと内装3段変速のちょっといいモデル。
※自転車、およびメーカーは全て架空の物です。




