第三章 もうひとりの母
カスガは1人屋敷の自室にあるお気に入りの古い椅子に座っていた・・。
フェイには使いを頼み、明日にならないと帰ってはこない。町にも人の姿はない。
シリウスの町はどんなに世の治安が悪くても、ほとんどその影響は受けなかった。それは軍や政府の勢力に力を持つドール製作者のカスガの力の影響もあったが、それを自分が望んでかは関係なく・・だがそれでも誰かの幸せを守れるならとそう思っていたけど・・・。
「・・どうやらそれも今日で終わりかね・・まったく言うことを聞かない子だよ・・」
静かに開いた扉の横には、柔らかく笑う銀髪の少年シュセイが立っていた。
「初めまして、我が母なる人・・あなたの事ですから僕がなんのために来たか・・わかりますよね?」
カスガは深い溜息を付きシュセイの方へ向く。
「・・それで私がどうするかもわかってるんだろ?」
「えぇ、けれどあの人はどう思いますかね・・」
けれど、カスガは一度目を瞑り開いた時にはいつものようにまっすぐな表情をしていた。
「・・・・もう私は必要ないさ」
「そうは僕は思いませんけど・・まぁ僕達の計画に醜い人間は必要ない・・けれどあなたは違う・・他の人間どもとは違い優秀な人間・・どうです?僕達と一緒に新世界を作ってみては?」
「新しい世界・・か、お断りだね」
カスガは笑顔ではっきりそう答えたことにシュセイの顔から笑みが消える。
「あなたも醜い無能な人間の1人ということですか・・」
「そう言うことだ・・お前達の思い通りになんてごめんだね」
首元に静かに向けられた剣にカスガは静かに目を閉じた。
バタバタと足音をさせながらレキは部屋に飛び込む。後ろから付いてきたシンは部屋に様子を見て、一歩後ろに下がる。
血と機械オイルが部屋中の壁や床を汚し、その部屋の中央にはカスガが・・正確にはカスガと思われるモノがうつ伏せに倒れていた・・。
しばらくレキはただソレを傍らで見つめていただけで・・何も言わなかった。
「カスガ様!!」
フェイが遅れて入ってきて・・それを知ったレキは無言のまま部屋から出て行ってしまう。
レキが物音に惹かれるように入った一室は、カスガの部屋の様だった。数え切れないほどの本は、本棚だけでなく床や机などにまで置かれている・・その中に一冊の古びた日記帳を見つけた。
日記帳のページをめくり読んでいくと、そこにはカスガが語ることのなかった苦悩と苦しみが綴られていた。
『戦争が悪化しつつある。研究室で戦争を一時も早く終わらせるための兵器【ドール】を造っているが、果たしてそれがうまくいくのだろうか・・平和な世が早く見たい。』
『研究の成果が上がり始めたが、戦争はまだまだ続くようだ。シリウスの町に人々が集まりつつあるのを見て、他の地区がどのようなのか気になる。しかし研究が完成すれば・・』
『悪夢に思っていたことが現実に起こり、シリウスの町にも戦火の足が伸びてきた。レキの母親キサラもその戦火に巻き込まれ亡くなった・・生き延びたレキもまた瀕死の状態・・私はレキに完成したドールの手術を施した、けれど私は間違っていたのかもしれない・・』
それからの日記は、カスガ自身を呪う文章で綴られている。レキは静かに日記を机に片付けると、屋敷から出て行った・・・。
嘆き悲しむ人々の群れを離れ、レキを探していると・・レキは町から少し離れた所で砂漠を見つめていた。
「・・・シン、カスガどうした?」
「あっ・・うん・・フェイ達と一緒に裏庭に埋葬したよ・・」
レキは一呼吸をおいてそうかと一言言ってまた重い沈黙が続いく。東の方からうっすらと砂漠の地平線に盛り上がるように太陽の光が見える。
「またこの手で何も守れなかった・・・」
「レキ・・・」
「俺は何のためにこうまでして生きているのか・・何故俺は自分の行き方に迷いを感じるのか・・・・」
初めてだった・・レキが自分に弱音を吐いたのは・・多分他の人でもレキの弱音を聞いたものなんてほとんどいないと思う・・・。
シンは黙っていた・・慰めの言葉、励ましの言葉・・それらは無駄なことだとわかっていたから・・・。
「レキ」
虚ろな瞳で太陽を眺めるレキがすごくはかないものに見えて・・・頭より勝手に口がレキの名を呼び腕でレキを抱きしめていた。
人間の温もりではないレキの体。だけどその胸に残る鼓動は人間と同じ・・この感情だって・・レキの存在だって、人間となんら変わりないのに・・・。
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