第二部 第一章 鼓動
「どうだい様子は?」
カスガは微笑んで、手に持っていた料理の皿をシンに渡す。
ガーディアルの一見以来、レキは眠ったままだ・・外傷自体はそんなに無いそうだが、どうしてレキが目を覚まさないのかはカスガにもわからないらしい・・。
「ほらちゃんと食べな、最近ほとんど食べてないだろ?レキが目覚めてもあんたが倒れたら意味ないんだから」
カスガは近くにある椅子に座り、レキの状態を簡単に確認していく。
「何してるんだろうね・・」
「え?」
「こんなに思ってくれる人がいるのに、悲しませて・・ったく」
「カスガさん・・・・」
「そう言えば、シン・・あんた昔の記憶が無いって言ってたよね?どこから来たか・・・」
「はい・・それが何か?」
「いや、何でもないよ」
カスガはしばらくレキを見てから、部屋から出て行った。部屋にはレキと2人っきり・・辺りは静か・・だけど・・。
「・・レキ・・」
そっと触れたレキの頬はかすかなぬくもりがあるだけで冷たかった・・。
レキは深い眠りの中で、昔の幻影を見ていた・・。
機械を憎み、戦争を起こす人間達を憎み、何もできない自分を憎んでいた昔・・。
毎日毎日・・機械と人間を殺し・・虚ろに横たわるもの達の中に立ち尽くして・・。
自分が一体何なのか・・自分こそが・・いらないものなのに・・・。
『このまま眠りたい・・・もう何も見たくない・・』
安らかな浮遊感の中、眠りに落ちそうになるレキの耳に羽ばたきの音が聞こえる・・。
眩しいほどの光・・羽ばたきの音が近付いてくる。
『・・・誰だ・・?』
窓からさしこむ月明かり・・。現実に帰ってきたのかと思うと自分の片手に温もりがあるに気づき、ベットから起き上がるとシンが手を握ったまま眠っていた。
「・・・・・シン」
こう眠っている姿はまだ自分より幼さが残る。シンの髪も、手で触ると柔らかい・・。
「・・ん・・・・レ・・キ?」
シンが眠そうに顔を上げレキの姿をみると・・表情が一層に幼くなる。
「心配かけたな・・」
「・・・レキ!」
抱きつかれて、レキは言葉を失った。シンの顔は見えないが、レキはそっとシンを抱きしめた・・微かに震えるシンの体・・。
「ゴメン・・」
謝罪の言葉をもらしシンの背中を軽くたたく。そのシンの温もりがよりこちらに帰ってきたのかという実感を感じた。
それから、少しの間照れ笑いをしながら、カスガ達に目覚めた事を伝えた。カスガはレキを抱きしめ涙を流していた・・。
「まったく・・いつまで私を心配させるんじゃないよ」
「あぁ・・すまないカスガ・・皆も迷惑を掛けた」
騒ぎを聞き付け、部屋にやってきたメグ達にレキが言う。
「レキ・・・良かった気がついて・・」
メグも目に涙を溜めている。ひときしりの再会を喜んだが、夜も遅いので一先ず明日に話と言うことになった。
先ほどレキが眠っていたベットにシンは座り、レキは窓辺の椅子に座る。
「レキ・・・」
「何だ?」
「・・・・・・ううん、何でもない・・」
「そうか?それじゃもう寝ろ・・・疲れてるだろ」
「・・うん・・お休み・・・・」
しばらくするとシンの静かな寝息が聞こえ・・レキは月の出ていない漆黒の夜空を見つめる・・・。
レキはシンに気付かれないように震える手をもう一方の手で押さえ・・・・。
「・・・まだだ・・まだ・・俺は」
「シュセイ」
シュセイは多くのコンピューターの前に腕を組み座っている。
「セラか・・」
薄い色の青い髪をした女性をセラと呼ぶと、セラはシュセイの側に静かに近付く。
「準備の方は順調に進んでおります」
「そう」
次に入ってきたのは、ライメイと知らない数人の人物。
「どうだい調子の方は?」
「はい、同士もちゃくちゃくと集まって来ております」
どの人物も人間と間違うほどで、見た目的にはドールと違いないのかもしれない。状況や連絡を聞き終えると、他のものはシーンと静まりかえる。
「ライメイ、君はどうだい?何か意見でもあるかな?」
「・・・・・いえ別に」
そう答えるとシュセイは軽く笑い、帰っていいと皆に言うと、皆部屋から出て行った。
「ねぇねぇ、シュセイ様!アイツと遊びたい~」
窓辺にいつの間にか現れていた内の1人、緑のクルクルの髪を揺らしながら言う少年。
「リンジェ」
鋭い口調で言うのは、窓辺に立つもう1人で、青い髪に長身で無表情な青年だった。
「む~だって~」
「そう言えば、シトの件はどうなった?」
シュセイは姿勢を崩さず、2人の方へ椅子を向ける。
「シト?あ~うん、ちゃんと命令通りにしたよ~」
「はい、その後ももちろんその通りに・・」
シュセイは楽しそうにクスクスと笑う。
「・・・さて僕はしばらくココを離れるからセラ、後をよろしくね」
「はい」
「え~僕達は?」
リンジェはシュセイだけが遊びに行くと思い、文句口調で言う。
「ん~そうだね、今まで我慢させちゃったし・・それじゃリンジェ達には狩りを頼むよ」
「狩り・・ですか?」
「うん、愚かな人間達の狩りタイムだ」
「ライメイ」
長く冷たい石段を敷き詰めた廊下を歩くライメイに、柱の影から声を掛ける。
「リラ」
黒い髪を短く切り、男勝りの顔つきの女性リラ。
「他の皆は?」
「皆与えられた場所で静かにいます・・これから本当に?」
リラは詳しくは言わなかったが、ライメイにはその質問の意図がわかっていた。
「あぁ・・もう後戻りなどできないさ・・皆には心配するなと言っといてくれ」
「・・・わかりました・・・どうかお気をつけ下さい・・」
「あぁ」
ライメイはいつもとは違う表情で前だけを向いて歩いていく。リラはその後姿を複雑な表情で見ていた・・。
「レキ様!!」
助かりレキ達と共にシリウスの町に一度退却してきた、機械人形や人間兵士達が屋敷に入ってくる。
「レキ?」
兵士達が何も言わずとも、レキは表情を変えなかったがどこか違う気がシンにはした・・そしてレキはそのまま外へ向かう。
空は厚い雲が多い被さり、夜のように暗い。
『お前は消して、安静の地など有り得ないモノだ・・お前は永久の生の中苦しむモノ・・』
再び脳裏に浮かぶ声が聞こえる。
レキはただそこに立ち尽くしていた・・・。
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