【二つの声】
【封印の楔】を探すため、ソルシア南部の重度侵蝕地帯に向かった。
トワ、セレス、タマキ、ゼクスの四人。タマキの浄化薬がなければ侵蝕地帯に入れないので、タマキは必須だ。
黒く染まった地面を進む。タマキが浄化薬を地面にまきながら道を作り、三人がその後を歩いていく。
「タマキが歩いた道だけ色が戻るの、なんか絵になるな」ゼクスが横で言った。
「えへへ。わたし、人間浄化装置みたいですね」
「浄化装置は言い方が悪くないか?」
「タマキ、えらい。みちをつくってる」セレスがトワの肩から言った。
侵蝕地帯の奥に進むと──また闇に堕ちたNPCが現れた。今度は三体同時。
トワが前に出る。三体を同時に相手取りながら、殺さないように動きを止める。記憶干渉を一体に使い、残り二体は純粋にこれまで培ってきた戦闘技術で捌く。
タマキが浄化薬を三体に投与。セレスが精霊の力を使う。
しかし、セレスが精霊の力を使った瞬間──変化が起きた。
セレスの身体が光に包まれ、【覚醒形態】に変わった。巨大な白金色の鹿の姿だ。
「──ルミナリアの封印の残滓が強い。このNPCたちは、長い間侵蝕されていた。浄化薬だけでは足りない、わたしの力を使う必要があるだろう」
完全に流暢な、大人の女性の声は――あのセレスから。
いつものかたことではない喋り方に、トワを含めた全員が固まっている。
「セレス──ちゃん?」
「いま、すごい流暢に喋ってなかったか……?」ゼクスも珍しく驚いている。
「セレス……お前……」
もちろん、トワも驚いていた。でも、【覚醒形態】のセレスを見て思い出した。過去のソルシアで見た『昔のセレス』。今よりも大きく、流暢に話していた頃の姿だ。
【覚醒形態】になると──力が戻るのか?
でも、今まではそうではなかった。
ソルシアの浄化によって、セレスの力も戻っていっているのかもしれない。
セレスがNPCたちに銀色の光を注いだ。瘴気が抜けていく。三体のNPCが正気に戻った。
治療が終わると、セレスはまたいつもの小さな姿に戻った。
「──ふう。セレス、つかれた」
そして、かたことに戻っていた。
「セレス……いま、いつもよりハッキリと喋っていなかったか?」
「え? セレス、いつもどおり、しゃべってたよ?」
自覚がない。覚醒形態の時の記憶はあるが、喋り方が変わっていた自覚がないらしい。
「覚醒形態の時だけ、言葉が戻るのか……?」
「よくわかんない。でも──おっきいすがたのとき、あたまがすっきりする。いろんなことば、でてくる」
ゼクスがじっとセレスを見つめていた。
「つまり、小さい姿の時は力がセーブされていて、覚醒形態になると全力が出る。言葉もその一部か」
「そういうことだろう。──セレス、無理に覚醒形態を維持する必要はない。普段は今のままでいい」
「うん。セレス、ちっちゃいの、すき。トワのかたに、のれるから」
「ああ、俺もそっちの方がいい」
「えへへ」
タマキが横で微笑んでいた。
「普段は可愛い片言のセレスちゃんで、戦闘時は頼れる覚醒セレスさん。──二つの顔があるんですね」
「セレス、かおはひとつだよ?」
「比喩だよ、セレスちゃん」
「ひゆ、むずかしい」
自分たちと一緒に、セレスも成長しているのか。
「トワ、どうしたの?」
「いや……気にするな、何でもない」
トワとタマキは顔を合わせて、そして笑った。
セレスだけは分からないみたいで、不思議そうな顔をしていたが。
◇
治療したNPCの一人が──重要な情報をくれた。
「南の楔は──この先の渓谷の底にある。気をつけろ……楔の周りには、【守護者】がいる」
「守護者?」
「ルミナリアが楔を守るために設置した番人だ。──聖騎士の姿をしている」
聖騎士。アストレアと同じ──ルミナリアの系譜。
「その番人は、生きているNPCではない。封印の術で作られた【光の幻影】だ。……強いぞ。ソルシアの旅人たちが、束になっても勝てなかった」
ゼクスの視線に鋭さが増した。
「光の幻影──つまり、実体がないのか?」
「実体はある。だが……光属性の攻撃は一切通じない。光で作られた存在に、光は効かないんだ」
「物理攻撃はどうだ?」トワの問いに、NPCは、
「通じないこともないが、相性は良くないだろう。通じるのは……影だ、影の力が効く」
「だったら、問題ないな。光が効かないなら──影が効く。俺の出番だ」
暗殺者の影の技術。ソルシアが生んだ【光に対抗する力】。
ゼクスが自信に満ちた笑みを浮かべていた。




