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ブレイブ・クロニクル・オンライン ~全員が捨てた初期職を7000時間やり込んだら、Lv1で最強になっていた~  作者: ぶらっくそーど


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【太陽】

面白いと思っていただけたら、ブクマ・評価・感想・リアクションなど、お願いします!


 タマキのソルシアでの活動は、独特だった。



 裏世界の復元は進んでいるが、完全ではない。一部のエリアは【病んだ地形】と呼ばれる状態で、地面がひび割れ、植物が枯れ、NPCが体調不良を訴えている。



 記憶断片では治らない。記憶は【過去を取り戻す】力であり、【現在を癒す】力ではない。


 でも、タマキがとある方法を見つけた。



「トワさん。この地面、わたしの【浄化の調合薬】で治せるかもしれません」

「浄化の調合薬?」

「マーサさんに教わった新しいレシピです。状態異常を治す薬を、フィールドに使うんです」

「なにっ……フィールドに、だと?」

「薬師ギルドのNPCが言ってました。ソルシアの大地は『生きている』って。生きている地面が病んでいるなら──薬で治せるかもしれないって」



 ソルシアの大地は生きている。ゲーム的な比喩ではなく、ソルシア王国の大地には精霊の力が宿っている。精霊の力が弱まると、大地が病むのだ。



 タマキが調合した【浄化の調合薬】を、ひび割れた地面に振りかけた。




 ──地面が光った。




 ヒビが修復されていく。枯れた草が緑に戻る。空気が清浄になる。NPCが「あれ、楽になった」と驚いている。




【地形回復:「病んだ地形」が「健全な地形」に変化しました】




「治った! わたしの薬で、大地が治りました!」

「これは……驚いたな」



 二年間BCOをプレイしてきて、フィールドを回復させる経験は一度もなかった。でもタマキが、見事にそれをやってのけた。旅人が歩いて地図を作るのなら、薬師は歩いて世界を治すのかもしれない。



「タマキ。お前──すごいな」

「えっ、トワさんにすごいって言われた……えへへ。──でもこれ、マーサさんに教わったレシピと、薬師ギルドのNPCの情報を組み合わせただけなんです」

「組み合わせたのはお前だ。俺には思いつかなかった」

「トワ。タマキ、えらいね」


 セレスがこそっと耳元で言った。


「ああ。えらい」

「セレスより、えらい?」

「比べるものじゃないだろ……」

「セレスもえらい、っていって」

「……セレスもえらい」

「やった」



 セレスの頭を撫でてから、二人は【病んだ地形】の探索を進めた。




    ◇




 タマキの「地形治療」は、裏世界の探索を一変させた。



 これまで病んだ地形のエリアは通行困難で避けていた。しかしタマキの薬で治せるとわかれば、病んだエリアも探索対象になる。



 タマキは旅人の集いのメンバーに調合法を教え始めた。薬師でなくても、素材さえあれば簡易版の浄化薬は作れるらしい。



「わたし一人じゃ、全部の地形は治せません。でも、みんなで作れば──ソルシア全体を治せます」



 ハルが率いる旅人の集いが、浄化薬の素材を集め始めた。探索と地形治療を同時に行う。



 これによって、裏世界踏破率が上がり始めた。病んだ地形が治るたびに新しい道が開け、新しい建物が復元され、新しいNPCが現れる。



 48%。55%。



 だが──踏破率が55%を超えた辺りで、異変が起きた。




    ◇




 それは、軽度の病んだ地形とは明らかに違っていた。


 ソルシアの南西部。街から離れた丘陵地帯に、【黒く染まったエリア】があった。



 地面がひび割れているのではない。地面が黒い。植物は枯れているんじゃなく、黒い結晶に変わっている。空気に──瘴気が漂っている。




【警告:【重度の侵蝕地形】に接近しています。侵入するとHP持続減少の環境効果が発生します】




「トワさん、これ──ただの病んだ地形じゃないです」タマキが顔を強張らせた。

「ああ。浄化薬だけでは治らなさそうだな」



 黒い地形の中に──ぬるりと、動く影が見えた。



【見聞録】が反応した。NPCの反応。だが──敵対状態。赤いネームプレート。




「NPC……なのに、敵!?」



 影が姿を現した。ソルシアの旅人の装備を着た人型のNPC。でも──その目は黒く染まり、身体から黒い瘴気が漏れ出している。口から言葉にならない呻き声が漏れている。




【闇に侵蝕された旅人 Lv88 ── 敵対NPC】




「闇に侵蝕された……旅人、だと?」

「トワ。このひと──ソルシアのたびびと。むかしの。──くらい、ちからに、のまれてる」

「暗い力?」

「うん。ソルシアがほろんだとき──くらいちからが、きた。そとから。ソルシアのひとたちを──のみこんだ」




 外から来た暗い力。ソルシアの崩壊は、自然崩壊ではなかったのか。

 何者かが、意図的にソルシアを闇に堕とした。



 闇に侵蝕された旅人が、黒い剣を振り上げて襲いかかってきた。



 トワが迎え撃つ。【果ての道標】で黒い剣を弾く。三連斬──しかし、NPCのHPをゼロにはしたくない。



 倒すんじゃなく、止める必要がある。




「タマキ! あのNPCを止めた後、浄化薬を使えるか!」

「やってみます! でも──浄化の調合薬だけじゃ足りないかも。もっと強い薬が必要です!」

「セレス、精霊の力を、タマキの薬に乗せられるか!?」

「やってみる。──タマキのくすりに、セレスのちから、のせる!」




 三人の連携。トワがNPCの動きを止め、タマキが浄化薬を調合し、セレスが精霊の力を注ぐ。



 トワは侵蝕された旅人の攻撃を全て回避しながら、【記憶干渉】を使った。NPCの行動パターンにノイズを入れ──2秒間の硬直を作る。



 その隙にタマキが駆け寄り、浄化薬をNPCの胸元に押し当てた。セレスが角から銀色の光を放ち、薬に精霊のエネルギーを注ぎ込む。



 NPCの身体から──【黒い瘴気】が抜けていった。

 そうして旅人のNPCが、目を開けた。黒かった瞳に、光が戻っている。




「……ここは……。私は──いったい、何を……」



 NPCが周囲を見回した。自分の手を見て、困惑している。



「あなた──大丈夫ですか?」タマキが声をかけた。

「あなたは──旅人? いや、薬師か。──私は……私は、ソルシアの──」



 NPCの目に、人らしい光が戻り始めた。



「思い出した。──あの日。【光】が来たのだ。白い、眩しい【光】が。ソルシアの空を覆い──全てを飲み込んだんだ」

「光? 闇ではなく……光なのか?」

「光だ。眩しすぎて、何も見えなくなった。──そして気がついた時には、身体が動かなくなっていた。闇に……堕とされたんだ」



 セレスは、いつになく真剣な顔で、



「トワ。このひとのいってること──セレスもおぼえてる。あのひ、しろいひかりがきて──ソルシアが、きえた」



 白い光。ソルシアが滅んだのが──光?



「あの光は──『聖なる封印』と呼ばれていた」NPCが言った。「遠い国から来た者たちが使った術だ。彼らは言った。『ソルシアの旅人は危険だ。【世界の記憶】を集めすぎた。封じなければならない』と」



「遠い国──名前は」

「──ルミナリアだ」




 ルミナリア。それがソルシアを滅ぼした、国の名前。



「待て……だということは、なるほど」

「トワ、どうしたの?」

「あの星砂の廃都で見た石碑は……そういうことだったのか」



 かつてトワが星砂の廃都を訪れた時、石碑には「太陽に焼かれて滅びた」とあった。

 太陽とは、おそらくゲーム内の何らかの災害だと考察していたが……。



 彼らが言っていた太陽とは、ルミナリアの【光】だったのだ。



 いったいセレスやノクスたちが何に逃げ、何故この世界を封印したのか。

 その全貌が、ようやく露わになりつつある。




「ルミナリア。【光の王国】を名乗る国。彼らの聖なる封印が──ソルシアを裏世界に閉じ込めた。大地を病ませ、住人を闇に堕とし、記憶を消した。──全ては、『光の秩序』のためだと」




 冬夜の中で、全てが繋がりつつある。

 BCOの表の世界にある【光の神殿】。聖騎士アストレアの「聖」スキル。聖属性──光の力。


 それらのルーツが──ソルシアを滅ぼした国、ルミナリアにあるのだとしたら。



「ルミナリアは──今も存在しているのか」


「知らぬ。──だが、封印が今も続いているということは、術者はまだ生きているか、あるいは──」


「じゅつが、じどーでうごいてる」セレスが口を挟んだ。「ソルシアのやんだちけいは──いまも、ルミナリアのふういんが、つづいてるから」



 病んだ地形の正体。原因は──ルミナリアの封印術。

 それが今も裏世界に残り、大地を蝕み続けている。薬師のポーションでその侵蝕を払えるのは、マーサがソルシアの出身だからか、それとももっと特別な何かが隠されているのか。




「タマキの薬は症状を抑えているが……根本治療にはなっていない、ということか」

「でも──症状を抑えれば、NPCは正気に戻れます。少なくとも、この人みたいに」タマキが侵蝕から解放されたNPCを支えながら言った。

「ああ、治療を続ける意味はある。──だが、根本的な解決には、ルミナリアの封印を解く必要がある」



 ノクスが一人で裏世界を「閉じていた」理由が、やっとわかった。ノクスは封印に抵抗していたのだ。ルミナリアの封印が裏世界を蝕むのを、一人で食い止めていた。



 ノクスが言った「この世界を外に開けば、表の世界が不安定になる」の真意も見えた。裏世界を開放すれば、ルミナリアの封印が表の世界にも影響を及ぼす可能性がある。



 ──だが、もう開けてしまった。後戻りはできない。



「セレス」

「うん」

「ルミナリアについて、何か知っているか」

「すこしだけ。──ルミナリアは、ひかりのくに。ソルシアとは──むかし、ともだちだった。でも、ある日──ルミナリアが、かわった。『せかいのきおくを、あつめすぎるな』って。それが、はじまり」



 世界の記憶を集めすぎるな。──旅人が知りすぎることを、ルミナリアは恐れた。



「ルミナリアの王は──聖王カレンっていう」



 聖王カレン。



「カレンは、『ひかりのちつじょ』をまもるって、いってた。でも──セレスからみると、それは──」

「記憶の消去だ。都合の悪い歴史を封じて、自分たちの秩序を守る」

「うん。──トワ。ルミナリア、こわい?」

「怖くはない。──だが、慎重にいく必要がある。表の世界に存在する国が相手だ。ゲーム全体に関わる話になる」



 裏世界ソルシアの病んだ地形。その根源がルミナリアの封印にある。封印を解くには──ルミナリアと対峙しなければならない。


 新しい旅の輪郭が──見え始めた。




    ◇




 侵蝕から解放されたNPCは、回復した後にトワたちに情報を提供してくれた。



「ルミナリアの封印は、ソルシア各地に『封印の楔』として打ち込まれている。楔を全て抜けば、封印は解ける。──しかし、楔は重度の侵蝕地形の最深部にある。近づくだけでも危険だ」

「楔は何本ある」

「五本。ソルシアの東西南北と──中央に一本。中央の楔が最も強い」



 五本の封印の楔を抜く。それが──裏世界を完全に解放する条件。



「トワさん。わたし──もっと強い浄化薬を作れるように、修行します。重度の侵蝕地形に入れるくらいの」タマキが拳を握った。

「頼む。──お前の薬がなければ、楔には近づけない」

「はい。これが、わたしの旅ですから」



 裏世界踏破率は62%。残りの中に──五本の封印の楔がある。



 そしてその先に、【聖王国ルミナリア】が待っている。

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