【開かれた世界】
運営がハルたちの要望を受け入れた。
【緊急アップデート:裏世界「ソルシア王国」の入場条件を変更します】
【変更前:旅人系職業のみ入場可能】
【変更後:全職業入場可能。ただし、PK行為を行ったプレイヤーには48時間の入場禁止ペナルティが課されます】
全職業開放。PKペナルティ付き。ハルたちの提案がそのまま採用された形だ。
フォーラムは、意外なほど好意的だった。
──「やっと全職業で入れる!」
──「マジでトワナイス」
──「PKペナルティ付きなのが賢い。荒らし対策がある」
──「この提案、旅人の集いから出たんだって?」
──「トワの弟子が発案したらしい」
──「弟子じゃなくて仲間だぞ(本人談)」
──「トワ周りの人材がどんどん有能になっていくな」
開放初日。裏世界に大量のプレイヤーが流れ込んできた。剣士、魔法使い、僧侶、弓使い。あらゆる職業のプレイヤーがソルシアの街を歩いている。
蘇った白い街に、旅人以外の人たちが加わった。赤い鎧の騎士、青いローブの魔法使い、緑の僧侶服──ソルシアが、表の世界と同じくらい賑やかになっている。
セレスがトワの肩から街を見た。
「トワ。いっぱいひとがいる。むかしのソルシアみたい」
「お前が見た、昔のソルシアと同じか?」
「うん──でも、むかしのソルシアは、たびびとだけだった。いまは、いろんなひとがいて、きれい」
セレスの角がぽわっと光った。嬉しい時の光り方だ。
「ノクス、みてるかな。ソルシア、にぎやかだよ」
壁画のノクスが、笑っている気がした。そう見えるのは、きっと気のせいではない。
◇
開放されたソルシアを歩いていると、ゼクスからメッセージが来た。
ゼクス:「トワ。ソルシアの東地区に来い。面白いものを見つけた」
珍しい。ゼクスが「面白い」と言うのは滅多にない。
セレスの星渡りで東地区に転送した。
ゼクスがある建物の前に立っていた。古い道場のような建物。看板に文字が書かれている。
「この建物だ。──読んでみろ」
【「影歩きの修練場」──ソルシア王国暗殺術の発祥地】
冬夜はゼクスを見た。
「暗殺術の発祥地。──お前の職業のルーツが、ここにあるのか」
「そうらしい。BCOの暗殺者クラスは、ソルシアの暗殺術を元にしていた。──入るぞ」
道場の中に入った。壁には暗殺術の型が描かれた壁画。影に潜る術、気配を消す術、急所を突く術。ゼクスが使っている【影潜り】や【先制の絶技】の原型だ。
「俺のスキルは──ソルシアの旅人が編み出した技だったのか」
「旅人が、暗殺術を?」
「ソルシアは旅人の王国だ。旅人が様々な戦闘技術を研究していた。暗殺術もその一つだ。──つまり」
ゼクスが、にやりと不敵に笑った。珍しく、嬉しそうな笑み。
「俺は──元を辿れば旅人の系譜なんだ。お前と同じところから出た枝だ」
「……皮肉だな。PvPランキング一位の暗殺者が、旅人の末裔だったとは」
「皮肉じゃないぞ。──今は、気分がいい」
ゼクスが道場の奥に進んだ。奥には──NPC。影歩きの師範。
「おお、暗殺者の旅人か。珍しいな。──お前、【影潜り】が使えるか」
「使える。あんたが、これの原型を作ったのか」
「わしではない。わしの師が──いや、その先代が。何百年も前にな」
ゼクスがNPCと会話を続けた。冬夜は横で見ていた。ゼクスがNPCに話しかけるのを見るのは初めてだった。普段のゼクスは無口で、NPCとの会話は最低限だ。
でも、ゼクスは楽しそうに暗殺術のルーツについて聞いている。自分の技のルーツを知ることが、嬉しいのだろう。
【ゼクスの友好度が「影歩きの師範」に対して開放されました:1/10】
「友好度が。──俺にも、こういうシステムが動くのか」
「NPCと真剣に向き合えば、誰にでも開く」
「お前に言われると説得力がある。──通ってみるか。この道場に」
冬夜は少し嬉しかった。ゼクスが、自分と同じようにNPCとの関係を築こうとしているのが。
セレスがゼクスの元に飛んでいった。
「ゼクス。ソルシア、たのしい?」
「……悪くない」
「トワとおなじこと、いう」
「同じ根から出た枝だからな」
「つまり、にたものどーし?」
「おい、セレス。俺とゼクス、一緒にするな」
「全くだ。俺は未だに、こいつの首を狙っているからな」
「んー、わかんない。これ、ゼクス、つんでれ?」
「ちがう! ふざけたことを言うな!」
ゼクスが顔を赤くして抗議する中、トワは笑いが止まらなかった。
セレスもつられて笑っていた。




