【守るということ】
PK問題は、一過性では終わらなかった。
〈翠蛇の牙〉が裏世界から追い出された翌日、フォーラムに声明が出た。
【〈翠蛇の牙〉ギルドマスター ヴェノムより全プレイヤーへ】
「裏世界ソルシアは全プレイヤーに開かれるべきエリアだ。旅人だけが独占するのはフェアではない。我々は裏世界の解放を求める」
──表向きは「エリアの公平な開放」を訴えている。だが実態は、旅人というカモへのPKと略奪だ。
フォーラムは意見が真っ二つに割れた。
──「ヴェノムの言い分も一理ある。旅人限定エリアは不公平だろ」
──「いや、裏世界はトワが見つけて復元した場所だぞ。旅人限定は、当然だ」
──「でも、ゲームのエリアを特定職業で独占するのはどうなんだ」
──「PKギルドが公平性を語るな」
──「だけど、裏世界は過去の世界で……誰でも入れるようになったら、世界観が……」
──「世界観なんかよりも、公平性の方が大事だろ!」
──「今は旅人じゃないと入れないないんだよな。早く条件緩和しろよ」
──「俺は別にいいと思うけどな。旅人って職自体、優遇されてるわけじゃないし」
──「難しい問題だな……」
冬夜はフォーラムを読んで、考え込んだ。
ヴェノムの主張は、PKの正当化だ。だが「旅人限定エリアの是非」という議論自体は、間違っていない。裏世界は運営が『旅人のみ入場可能』に設定した。だがBCOの全プレイヤーにとって、それは公平なのだろうか?
「トワ。どうするの」セレスが聞いた。
「……わからない。裏世界はお前の故郷だ。荒らされたくはないが……閉じた世界にも、したくない」
「トワ……」
「ノクスが一人でこの世界を守り続けた。……俺はノクスに言ったんだ。『忘れられるべき場所なんてない』──だったら、ここを旅人だけの場所にするのも、自然なことだ」
セレスは少し間を置いてから言った。
「……セレスも、そうおもう。ソルシアは──みんなのばしょ。でも、わるいひとがくるのは、やだ」
「ああ、だから守り方を考えないとな。閉じこもるんじゃなくて、開いたまま守る方法を」
◇
翌日。始まりの町の酒場。
臨時の会議を開いた。トワ、ゼクス、レナ、カイン、バルト、ミコト、ハル、タマキ、蓮。九人。
「議題は一つだ」バルトが切り出した。「裏世界のPK対策。──トワ、お前の考えを聞かせてくれ」
「裏世界を旅人限定のままにするのは、ゲームとして正しくない、運営に訴えて開放したい。ただし……PKには対処が必要だろう」
「仮に開放して、どうやって守るんだ?」カインが聞いた。
「旅人の集いを──正式な組織に変える」
一瞬の静寂が、全員の間に流れた。
「旅人の集いを? あのLv1の旅人たちで?」レナが驚いた。
「Lv1で防衛なんてできるのか?」蓮が首を傾げた。
「できる。密林のジャガーノート戦で証明した。──旅人は、戦闘力がなくても世界を守れる。地形を知っている。NPCとの繋がりがある。情報網がある。PKが来たら、即座に位置を特定し、仲間に知らせ、地形を安定させて、味方が戦いやすい環境を作るんだ」
「つまり──旅人の集いが索敵と環境整備を担当して、戦闘はトワや俺たちがやる、ということか」
ゼクスが整理した。
「ああ。旅人は目と耳になる。戦うのは、俺たちでいい」
ハルが手を挙げた。
「わたし──旅人の集いの代表として、防衛隊を組織します。師匠──じゃなくて、トワさんに教わった見聞録の使い方を、みんなに広めます!」
「頼んだ」
「あと──裏世界の入場条件を、運営に要望出しませんか? 旅人限定ではなく、全職業開放。ただし、PK行為には裏世界からの追放ペナルティを設ける。とっても、フェアな条件だと思います!」
冬夜はハルを一瞥した。
開くと守るを両立させる、具体的な方法だ。
「いい案だな」
「えへへ……だって、師匠の教え子ですから」
「もう弟子ではないと言っただろう」
「仲間ですよね。──でも、たまには師匠って呼んでもいいですか?」
「……好きにしろ」
ミコトは配信を……していなかった。今日は配信オフだが、メモを取っていた。
「この会議の内容、まとめ配信にしていいですか? 旅人の集いの防衛隊構想、プレイヤー全体に知らせた方がいいと思います」
「頼む」
タマキがおずおずと手を挙げた。
「あの、わたしは薬師なので──防衛隊の回復担当をやりたいです。裏世界でPKに襲われた人の治療とか」
「ありがたい。お前の【陽光のポーション】は状態異常全解除だ。PK対策に最適だ」
「がっ、頑張ります!」
蓮は腕を組んで考えていた。
「俺は風来坊に転職したばかりで旅人スキルはまだ未熟だが──現実側のことなら任せろ。SNSでの情報拡散とか、運営への要望書の作成とか」
「蓮。お前、いつの間に有能になったんだ」
「失礼だな。もともと有能だ。お前のゲーム外マネージャーを自認してるぞ」
「いつ自認したんだ」
「今だ」
トワはあえて突っ込まなかった。
セレスはトワの肩の上で、全員を見回している。
「トワ。みんな、ソルシアをまもってくれるの?」
「ああ、みんなでな」
「セレス、うれしい。──ソルシアは、セレスのおうち。でも、みんなのおうちにもなる。それが、いちばんいい」
冬夜は──うなずいた。
閉じこもるんじゃはなくて、オープンにした上で、みんなで守る。
ノクスが一人でできなかったことを──みんなでやるんだ。




