【番人の記憶】
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ノクスが動きを止めた。
「……理解する、だと?」
「お前はこの世界を守っている。閉じ込めているんじゃない、守っているんだ。──違うか」
ノクスのフードの下から──目が見えた。
ギラリとした獣のような視線、でもその奥の瞳には一抹の迷いが窺える。
「……なぜ、そう思う」
「お前が本当にこの世界を閉じ込めたいなら、俺たちを追い出せばいい。【Lv???】のお前なら、それは簡単だろう。でも、お前は追い出さなかった。俺が穴に落ちた時も、仲間が来た時も、排除する力があるのに、しなかった」
長い沈黙の後、ノクスがフードを下ろした。
そこから露わになったのは──若い男の顔だった。
疲れた目、長い黒髪、旅人であった古びた初期装備の名残。
「……お前は、よく見ている。旅人らしい目だ」
ノクスが武器を下ろした。
「私は──ソルシアの最後の王ではない。ソルシア最後の【旅人】だ」
セレスは恐る恐る、トワの肩から顔を出しながら、
「さいごの……たびびと?」
「ソルシアが滅びる時、私だけが残った。守護精霊のセレスティアが表の世界に逃げた後──私一人で、この壊れゆく世界を歩き続けた」
ノクスは、虚ろな視線で天井を見つめている。
「歩いて、歩いて、歩き続けた。だが──世界は壊れ続けた。修復できなかった。私一人では、記憶断片を集めても……地形は崩れ、色がなくなり──」
──一人で歩いていた。
冬夜と同じだ。一人で世界を歩き、一人で全てを背負おうとした。
「だから私は、この世界を閉じた。これ以上壊れないように。誰も来なければ、これ以上傷つかないと思った」
冬夜は一歩、前に出た。
「お前は間違っていない。一人で歩いて、一人で守って、それは……【旅人】の仕事だ」
「……」
「だがもう、一人じゃない。俺も、仲間も、セレスもいる」
セレスがノクスに向かって飛んでいった。小さな妖精がノクスの前で、ぺこりとお辞儀をした。
「ノクス。セレス、にげて、ごめんなさい。あのとき、いっしょにいられなくて。ごめんなさい」
ノクスの目が、僅かに潤んでいた。
「セレスティア……お前は、生きていたのか」
「うん。トワがみつけてくれた。セレスは、もうひとりじゃない」
「……そうか」
ノクスが天井を見上げた。壊れかけた天井から、微かに光が差し込んでいる。
「旅人よ。──お前に、最後の記憶を渡す」
ノクスが懐から、光の結晶を取り出した。
【ソルシアの最後の記憶を入手しました】
【全ての記憶断片が揃いました】
ノクスの身体が、少しずつ消えかけ始めた。
「ノクス!?」
「いいのだ、セレス。私は、この世界の【記憶】だ。記憶が完成すれば、番人は不要になる」
「消えちゃうの!? やだ! セレス、やだ!」
「消えるのではない。──世界の一部に戻るだけだ」
ノクスがトワを見つめた。
「旅人。──この世界を、頼む。歩いてくれ。私が一人で守れなかった世界を、お前たちで、賑やかにしてくれ」
「約束する」
「……ああ。──よい旅を」
ノクスが光の粒になって、壊れかけた壁に溶け込んでいった。
壁画に、色が戻った。ノクスの姿が壁画の中に現れた。
旅人の姿で、世界を歩いている。笑みを浮かべて。
セレスは声を上げて泣いていた。
冬夜はセレスを両手で包んだ。何も言わず、ただ温かくした。
ハルが目をこすっていた。タマキも泣いていた。ゼクスだけが黙って立っていたが、目が赤かった。
【裏世界「ソルシアの残滓」──全記憶断片復元完了】
【ソルシア王国が復元されます】
その瞬間、世界が変わった。
セピア色が消えていく。色が戻る。空が青くなる。草が緑になる。花が咲く。水が流れる。建物が修復されていく。
ソルシア王国が──蘇った。
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