【それぞれの道】
地下水路。
トワとセレスは水路を進み、ノクスのいる場所に近づいていた。
壊れかけた大広間に出た。天井が高い。かつてはソルシアの中枢だったのだろう。壁には壁画があって、しかし全て消えかけている。色彩を失い、輪郭だけが残っている状態だ。
広間の中央に──ノクスが立っていた。
「来たか。旅人」
「落ちてきたんだ。来たかったわけではない」
「嘘をつけ。お前はここに来たがっていた。記憶断片を集めて、この場所に辿り着くために」
「偶然だ。それ以上でも、それ以下でもない」
ノクスはトワの背後を睨みながら、
「仲間はどうした? お前の旅は、仲間と歩く旅ではなかったのか」
「はぐれた、地形変化のせいでな」
「はぐれた旅人は、弱い。仲間がいなければ、お前にいったい何ができる?」
それは安直な挑発ではない、純粋な質問だ。
冬夜は考えた。
仲間がいなければ。セレスの【月光の目】が使えない。回復がない。支援がない。
残るのは自分一人の足と、自分一人の目と、旅立ちの剣。
最終試練と同じだ。
「一人でも歩ける。でも、一人では辿り着けない場所もある。お前の前に立つには、仲間が必要かもしれない」
「正直だな。──では試そう。お前一人で、ここに立てるかどうか」
ノクスが手を上げた。暗黒の魔力が渦を巻く。
【ソルシアの管理者ノクス HP:800,000 ATK:25,000】
HP八十万。ATK25,000。──アストレアを超える火力。
「セレスは下がれ」
「やだ! セレスもたたかう!」
「お前のスキルはここでは不安定だ。戦闘中に消えたら──」
「きえない。セレスは、ぜったい、きえない。トワのそばにいる!」
冬夜は少しだけ迷い、うなずいた。
「……わかった、そばにいろ」
まず先に、ノクスが動いた。
闇の剣。黒い光が弧を描いてトワに襲いかかる。
見聞録がない。温度センサーもない。視覚だけで──避ける。
紙一重。闇の刃がすぐ横を通過した。
反撃。【果ての道標】が剣の形に変わり、三連斬。
──弾かれた。ノクスの周囲に【闇のバリア】がある。物理攻撃が通らない。
「無駄だ。私は【記憶の番人】。記憶を持たない攻撃は、私には届かない」
記憶を持たない攻撃は届かない。──どういう意味だ。
「トワ! きおくだんぺん! きおくをつかって!」
記憶断片。十二個持っている。これを──武器に使えるのか。
冬夜はアイテムストレージから記憶断片を取り出した。光る結晶。ソルシアの幸福な記憶。
【果ての道標】に記憶断片を装填した。武器が──光を帯びた。ソルシアの記憶の光。
「……っ!」
斬った。
今度は──通った。
ノクスを覆う【闇のバリア】が、記憶の光に触れた瞬間に消滅した。
剣がノクスの身体に到達する。
32,000。
「──やはりこの旅人は、一筋縄ではいかないようだな……面白い」
ノクスが反撃。闇の槍が五本、同時に飛んでくる。
見聞録なしで五本を避ける。三本はかわし、一本は剣で弾き──五本目が左脚をかすめた。
HPが100削れた。残り160。回復手段がない。マルクも、レナもいない。
──いや。
どこかで──足音が聞こえた。
水路の入口から、三つの影が飛び込んできた。
「師匠!!」
ハルが飛び込んできた。温度センサーで暗い水路を走り抜けてきたのだろう。全身びしょ濡れだ。
「トワ、待たせたな」
ゼクスが短剣を抜きながら現れた。
そして──
「トワさん! 【ヒール】!」
タマキの回復魔法が、トワのHPを全回復させた。
「タマキ、来たのか!」
「来ました。だって、わたし──トワさんの回復担当ですから!」
怖がっていた。穴に飛び込むのも怖かったし、暗い水路も怖かったし、ノクスの姿を見て足が震えている。──それでも来た。
「ありがとう。助かった」
五人。トワ、セレス、ゼクス、ハル、タマキ。
ノクスが──五人を見た。
「仲間が来たか。──だが五人で私を倒せると思うな」
「いいや、倒すつもりはない」
「なに……?」
驚きを露わにするノクスに、トワは言い放った。
「俺はお前を──理解しに来たんだ」




