【壊れた星図】
裏世界の探索は──これまでのどの旅とも違った。
地形が五分で変わる。さっきまであった道が消え、なかった壁が現れる。マップを塗る意味がない。踏破率というシステムが機能しない。
旅人としての最大の武器──【全ての地形を知っている】が通じない世界。
「セレス。ここは──地図が壊れている」
「うん。ソルシアは、こわれてるから。せかいも、こわれてる」
だからこそ、面白い。
二年間、地図を全て塗ることに喜びを見出してきた。知っている場所が増えることが嬉しかった。でも裏世界では──「知らない」が永遠に続く。五分ごとに知らない景色が現れる。
「こんな場所があったのか」
「トワ、たのしそう」
「楽しい。──ああ、すごく楽しい」
セレスが嬉しそうに角を光らせた。
「トワが、たのしいって、いってくれるの、すき」
裏世界を歩きながら、ソルシア王国の痕跡を辿った。壊れた図書館。崩れた天文台。枯れた庭園。
天文台の残骸から──アイテムを見つけた。
【ソルシアの星図を入手しました】
【効果:裏世界の地形変化パターンを部分的に予測できる。予測範囲は所持している星図の数に依存する】
地形変化のパターンを予測する道具。完全な地図は作れないが、次の五分間でどのエリアが安定しているかを読める。
──ソルシアの旅人たちも、この難題と戦っていたのだろう。壊れた世界を歩くために、星図を集めて地形を予測した。
「トワ。これ、むかしのたびびとが、つかってたもの」
「ああ。──俺たちも使おう」
ハルにメッセージを送った。
トワ:「裏世界を見つけた。来るか」
返信は即座に。
ハル:「行きます!!! どこから入れるんですか!?」
ゼクスにも送った。
トワ:「裏世界がある。来い」
ゼクス:「『来い』って命令形か。──まあ、行くがな」
レナにも。カインにも。ミコトにも。
そしてタマキにも。
トワ:「裏世界を見つけた。まだお前には早いかもしれないが、見るだけでも来ないか」
タマキ:「行く、絶対!」
一時間後。世界の果てのガラスの穴の前に、仲間が集まった。
トワ、セレス、ゼクス、レナ、カイン、リゼ、マルク、ミコト、ハル、タマキ。十人。
レナが穴の中を覗き込んだ。
「うわ、暗い……。ここに飛び込むんですか?」
「飛び込む」
「怖い……」
「怖がるな。俺が先に行った。安全は確認済みだ」
ゼクスが言った。
「ゼクスさんが先に行ってくれるなら安心です。──って、ゼクスさんまだ行ってないですよね?」
「これから行く」
「今言った! 今安全って言った! 嘘じゃないですか!」
カインが無言で穴に飛び込んだ。三秒後に下からメッセージが来た。
カイン:「安全だ。来い」
「カインさんが本物の確認班だった……」
全員で飛び込んだ。タマキは最後まで怖がっていたが、トワが手を差し出した。
「一緒に行こう」
「うん……飛ぶね」
手を繋いで──飛んだ。
セレスがトワのもう一方の肩で「てをつないだ」とぼそっと呟いたが、冬夜は聞こえないふりをした。
◇
裏世界に十人が降り立った。
セピア色の空。ひび割れた大地。崩壊した建造物。
「……きれい」タマキが呟いた。「壊れてるのに、きれい」
「壊れかけの世界って、こういう感じなんですね……」
ハルが目を見開いている。
ミコトが配信を開始した。
『皆さん、今日は特別配信です。BCOの裏世界──【ソルシアの残滓】に来ています。ここは壊れかけた、忘れられた世界です』
地形が変化した。さっきまであった道が消え、新しい道が現れた。
「あ、道が消えた!?」
「なにこれ!? 五分で変わるの!?」
「これが裏世界だ。地図が通じないんだ、面白いだろ?」
「トワさん、楽しそうですね……」ミコトが苦笑した。
「師匠、この世界でも踏破するんですか?」ハルが聞いた。
「踏破率が反映されないから、踏破という概念がない。ただ、歩くしかない」
「歩くしかない……原点回帰ですね」
「ああ、これが旅だ」
十人で裏世界を歩き始めた。壊れた世界を、変わりゆく地形を、予測できない道を。
トワの肩にセレスがいて、隣にゼクスがいて、後ろにレナとカインがいて、ハルが質問しながらついてきて、タマキがきょろきょろしながら歩いていて、ミコトが配信しながら笑っていて、リゼとマルクが後方を守っている。
――旅の始まりだ。




