「二人目」
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海へ出航し、町に戻ってきた翌日のこと。
始まりの町の港で、アイテムを調達していると──一人のプレイヤーが声をかけてきた。
「あの、トワさん」
振り返ると、Lv1の旅人が立っていた。旅人の集いのメンバーだ。でも、初めて見る顔じゃない。密林の根切りの時、最も多くの根を断っていた旅人。
名前は「ハル」。小柄な女の子のアバター。くりっとした目に、肩で切り揃えたオレンジ色の髪。トワやレナと比べるとかなり小柄で、年齢設定は……中学生くらいだろうか。
「密林の時は、ありがとうございました! それで──あの、一つだけお願いがあるんですけど」
「なんだ」
「わたしを、【弟子】にしてくれませんか」
「なに……?」
冬夜にとって、それは意外な言葉だった。
弟子……このBCOをやってきて、初めて言われた言葉だ。
「旅人の集いに入って、半年ほど経ちます。Lv1のまま、ずっと旅人を続けてきました。踏破率は……42%です」
42%。トワの半分以下だが、半年で42%はかなりのペースだ。冬夜が一年目に達成していた踏破率とほぼ同じ。
「トワさんが歩いてきた道を追いかけてます。旅人のスキルも、少しずつ熟練度を上げてます。でも……一人で歩いてると、わからないことが多くて……」
「何がわからない?」
「【見聞録】の使い方です。トワさんがゼクス戦で使ったって聞いて、試してみたんですけど、情報量が多すぎて、頭がぐるぐるしちゃって……」
至極まともな質問だった。質問の内容が具体的で、自分で試した上で聞いている。
やる気はある、と見て取れるが……。
「弟子は取らない」
ハルが、悲しげに顔を曇らせたその時、
「だが、一緒に歩くことは構わない」
「え……?」
「教えることはできない。俺は、自分で自分の旅を見つけてきたからだ。それでも、俺の隣で歩いていれば、見えるものがあるかもしれない」
ハルの顔が一転して明るくなった。
「一緒に歩いてくれるんですか?」
「邪魔にならなければな」
「なりません! 絶対、なりません!」
セレスがトワの肩からハルを覗き込んだ。じーっと見つめている。いつもより長い。
「トワ。このひと、だれ?」
「ハル。旅人の後輩だ」
「おんな?」
「女だ」
セレスの目つきがじとーっと細くなった。ミコトの話をした時と同じ反応だ。
「……セレスのこうはい?」
「お前の後輩ではない」
「じゃあ、トワのいもうと?」
「それも違う。仲間、でいいだろ」
ハルがぺこりと頭を下げた。
「よろしくお願いします! ──あ、セレスちゃんも、よろしくです!」
セレスがハルを見つめている。値踏みするような目、さっきより厳しい。そして数秒後──
「おやつ、くれる?」
「え?」
「おやつくれたら、なかま」
「セレスちゃん、おやつが判断基準なの……?」
ハルが慌ててアイテムストレージを開き、果物を差し出した。セレスがそれを一口齧って、うなずいた。
「おいしい。ハル、なかま」
「やった……?」
冬夜は苦笑いした。セレスの審査基準は相変わらず食べ物だ。
◇
ハルと一緒に船に乗ることにした。ペレグリナは一人乗りだが──ハルが自力で泳ぐわけにはいかない。
「ハル。お前、船は持っているか」
「持ってません。設計図も……」
「グランから設計図をもらえ。始まりの町の裏路地に、旅人にしか見えない扉がある」
「旅人にしか見えない扉……!? そんなのあるんですか」
「踏破率42%なら、条件は足りていないかもしれない。だが、グランは踏破率以外の条件も見ている。NPC友好度や、旅人としてのプレイ時間。──試してみろ」
ハルが走っていった。十分後、メッセージが来た。
ハル:「扉、開きました! グランさんに会えました! 設計図、もらいました!」
開けたということは、グランの条件を満たしていたということだ。半年の旅人で扉が開くのは、トワ以外では初めてかもしれない。
トワ:「素材は自分で集めろ。全エリアを回る必要がある」
ハル:「はい! やります!」
ハルの行動力は速かった。三日で全素材を集め、船を完成させた。踏破率42%でも、行ったことのあるエリアの素材は集められる。
ハルの船は──トワのペレグリナより少し小さい、手漕ぎのボートだった。
「トワさん。準備できました」
「よし。──出るぞ」
二隻の小さな船が、港を出た。
セレスがペレグリナの舳先に立って、水平線を指差した。
「しゅっぱーつ!」
ハルが横で必死にオールを漕いでいる。
「ト、トワさん速くないですか!? わたし、全然追いつけないです!」
「旅人歴の差だ。追いつけ」
「がんばります……!」
二人の旅人が、海を渡った。
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