追いかける旅人
密林の探索を終え、始まりの町に戻った。
消耗品の補充とマーサへの報告。それから──グランに会いに行く。
裏路地の扉を開けた。旅人専用の秘密の部屋、暖炉、壁一面の地図。
「来たか、旅人」
グランが椅子から立ち上がった。
「欠片が増えたようだな」
「五つ目まで集めた。残りは、あと二つだ」
「ふむ、順調なようだな。──しかし、お前さんに一つ教えておきたいことがある」
グランが壁の地図を指差した。地図の東端──海。
「六つ目の欠片は海の向こうにある。お前さん、船は持っているか?」
トワは少し面食らった。船なんて、当然持っているはずがない。
「すまないが、流石に船は持ち合わせていない」
「だろうな。BCOに船を持つプレイヤーは少ない。――海は、歩けないからな」
歩けない場所。旅人にとって、それは致命的だ。【旅路の極意】は移動距離でステータスが上がる。でも、海の上では歩けない。船に乗っている間は、【移動距離】が加算されない可能性がある。
「しかし、方法がないわけではない。旅人には──旅人の海の渡り方がある」
グランがもう一つ、アイテムを差し出した。
【旅人の渡し船の設計図を入手しました】
アイテム名:【旅人の渡し船の設計図】
種別:旅人専用クラフトアイテム。
公式説明文:旅人が自ら造り、自ら漕ぐ、小さな船。
効果:素材を集めて船を建造できる。旅人専用の船は「漕ぐ動作」が移動距離に加算される。
必要素材:翡翠の密林の巨木材×20、星砂の廃都の赤鉄鉱×10、霧底の森の防水苔×30、天蓋の遺跡の浮遊石×5
──旅人専用の船。漕ぐ動作が移動距離に加算される。つまり、海の上でも【旅路の極意】が成長する。
そして素材は、これまで歩いてきた全エリアから集めるものだった。密林の木、砂漠の鉱石、霧底の苔、天蓋の浮遊石。旅の蓄積がそのまま船になる。
「お前さんが歩いてきた場所の全てが、この船の材料になる。旅の結晶だよ」
「……グラン。お前はいつも、いいタイミングでものをくれるな」
「わしは何もしておらんよ。お前さんが歩いてきた結果が、ここにあるんだ」
セレスがグランに向かって小さくお辞儀をした。
「グラン、ありがとう」
「おお、かわいいお嬢ちゃんだ。──旅人よ、良い連れを見つけたな」
「セレスは、トワの!」
「はいはい」
「ほっほ。実に、微笑ましい光景だな」
◇
始まりの町を出て、素材集めに向かう。四つのエリアを回る必要がある。セレスの【星渡り】があれば、全エリアを一日で回れる。
密林で巨木材を伐採。砂漠で赤鉄鉱を採掘。霧底の森で防水苔を採取。天蓋の遺跡で浮遊石を回収。
それぞれのエリアで、すでに知っている場所を回る。新しい発見はないが、懐かしさがある。マーサに寄ってスープを飲み、泉の鯰に挨拶し、砂漠の遺跡の壁画を眺め、天蓋の空を見上げた。
「トワ、なつかしい?」
「ああ……全部、自分の足で歩いてきた場所だ」
「セレスも。トワといっしょに、あるいてきたばしょ」
素材が揃った。始まりの町の港──BCOの海岸エリアで、船を建造する。
クラフトシステム。素材を組み合わせて、設計図通りに船を作る。
出来上がったのは、小さな帆船だった。一人が乗れる大きさ。帆は白く、船体は翡翠の木材で緑がかっている。船首に旅人のマークが彫られていた。
【旅人の渡し船「ペレグリナ」が完成しました】
「ぺれぐりな?」
「巡礼者、という意味だ。──たぶん、旅人にちなんだ名前だろう」
「かわいいなまえ。セレス、すき」
船を海に浮かべた。小さな船が、波にぷかぷかと揺られている。
乗り込む。帆が風を受けてぶわっと膨らんだ。
──海だ。
初めて見る景色。BCOの二年間で、山を越え、森を抜け、砂漠を横断し、空を飛んだ。
でも海だけは、初めての景色だった。
セレスが船の舳先に立った。銀色の髪がなびいて、角が夕日を反射して、虹色に光っている。
「トワ。うみ! ひろい! すごい!」
「俺も、初めて見る景色だよ」
「トワが、はじめてっていうの、ひさしぶり! うれしい!」
「そうか。それは、良かった」
冬夜はオールを握った。力を入れて、両手で漕ぐ。
【移動距離が加算されています。旅路の極意:+0.05/ストローク】
一漕ぎごとに、ステータスが上がる。海の上でも──旅は続いている。
トワとセレスは、知らない場所へ出航した。




