「翠蛇の牙」
翌日のフォーラム。
【注意喚起】翡翠の密林で〈翠蛇の牙〉が旅人狩りを繰り返している件について
──「旅人の集いのメンバーが、二十人以上もPKされたらしいぞ」
──「Lv1の旅人を狩るとか、最低のクズだな」
──「〈翠蛇の牙〉はもともと初心者狩り専門のPKギルド。今まで目立たないエリアでやってたけど、密林に移動してきたらしい」
──「通報しても、運営はPKをバンしない方針だからなぁ。PvPはゲームの仕様だし」
──「でも、初心者ばかり狙うのは倫理的にアウトだろ」
──「倫理じゃPKは止められない」
また、別のスレッド。
【速報】トワが〈翠蛇の牙〉のメンバー8人を5秒で壊滅させたらしい
──「マジ?」
──「旅人の集いのメンバーが証言してる。トワが木の上から弓で先制して、降りてきたやつらを5秒で5人倒して、残り3人は足元に矢を撃って追い返したって」
──「足元に撃つのがトワらしい。殺さずに逃がす」
──「でも、警告はしたんだよな。『次は足元じゃなくお前たちに当てる』だって」
──「かっけえ」
──「トワさん、マジ旅人の守護神」
──「だけど、〈翠蛇の牙〉は50人以上いるぞ。8人倒しても、ギルド全体は止まらないんじゃ」
──「トワ一人で、50人のPKギルドとやり合うのか?」
──「やり合うだろうな、あの人なら」
冬夜はフォーラムを読みながら考えていた。
〈翠蛇の牙〉は五十人規模のPKギルド。全員がLv80以上。個々の実力は大したことないが、数で押してくる。そして旅人の集いのメンバーは全員Lv1。戦闘力はほぼゼロ。
トワが一人で護衛するにも限界がある。密林は広い。同時に複数箇所でPKが起きれば、全部に駆けつけることはできない。
──仲間が必要だ。
レナにメッセージを送った。
トワ:「頼みがある」
三秒で返信がきた。
レナ:「私にできることなら、なんでも!」
トワ:「翡翠の密林で旅人の集いのメンバーがPKに遭っている。〈翠蛇の牙〉というPKギルドだ。護衛を手伝ってくれないか」
レナ:「もちろん! みんなに声かけるね!」
五分後、〈深紅の牙〉の主要メンバーが全員参加を表明した。
さらに、ゼクスからもメッセージが来た。
ゼクス:「PKギルドの掃除か。参加しよう」
トワ:「お前に頼んだ覚えはないが」
ゼクス:「お前の旅人仲間を守るために戦う。面白そうだから、俺も行く」
トワ:「まあ……それはそれで、ありがたいな」
ゼクス:「いつにもまして素直だな。気持ち悪い」
トワ:「じゃあ撤回する」
ゼクス:「するな」
さらに、ソラからもメッセージが来た。ギルド対抗戦で戦った〈蒼穹の翼〉のギルドマスターだ。
ソラ:「フォーラム見ました。初心者狩りは私も許せません。〈蒼穹の翼〉から十人、護衛に出しますわ」
トワ:「助かる」
ソラ:「あなたに借りを返す機会があって嬉しいですわ。──空から見張りますわね」
更に、アストレアからも。
アストレア:「〈聖銀の盾〉からも五人出します。初心者を守るのは、騎士の務めですから」
冬夜はメッセージの一覧を見つめた。
レナたち〈深紅の牙〉。ゼクス。ソラの〈蒼穹の翼〉。アストレアの〈聖銀の盾〉。
かつて敵として戦った人たちが、今は味方として集まる。
セレスが肩の上でぱちぱちと拍手した。
「トワ、おともだちいっぱい!」
「友達かどうかはわからないが、心強いのは確かだな」
「おともだちだよ。セレスがきめた!」
「お前が決めることじゃないんじゃないか?」
「んーん、セレスがきめるの!」
「そうか……」
「そ!」
トワは、しみじみこう思う。
最近、セレスと言い合いになって勝った記憶がない。
「まあ、いいか」
トワはセレスの頭を撫でながら、次の作戦に乗り出した。
◇
夜。翡翠の密林。
トワを中心に、護衛チームが編成された。
〈深紅の牙〉からレナ、カイン、リゼ、マルク。ゼクス単独。〈蒼穹の翼〉から弓使い十人。〈聖銀の盾〉からタンク五人。合計二十一人。
そして、旅人の集いのメンバーが四十人。
全員Lv1の旅人だ。密林の探索を続けたいが、PKが怖くて動けなかった者たちだ。
二十一人の護衛が、四十人の旅人を守りながら密林を歩く。
「すごい光景だな」カインが呟いた。「Lv1の旅人四十人を、ギルド対抗戦の上位メンバーが護衛してるんだぜ」
「トワさんのためなら、って感じだよね」レナが笑った。
「ああ、トワの人望だろうな」
「人望じゃない。みんな、『初心者狩り』が嫌いなだけだ」
「そこは人望って言っとけ」
「なぜだ?」
「ほら、すごい人脈を持ってるって思われるだろ?」
「あいにくと、見栄えは一切気にしていない」
「本当にぶれねえな……この旅人さんは」
旅人の集いのメンバーたちは、護衛付きで安心して探索を進めていた。密林の石碑を回収し、モンスターを避けながら地図を埋めていく。
「うわー、密林って綺麗ですね! 木が大きい!」
「あ、旅人の石碑発見! 手記ゲットです!」
「トワさん、ここ通れますか?」
「通れる。蔦を掴んで登れ」
「はい! ──うわ、滑った!」
マルクが回復魔法で落下ダメージを治療した。旅人たちの冒険はドタバタだが、楽しそうだ。
セレスが旅人たちの上をふわふわ飛び回っていた。
「がんばれー! もうすこしー!」
「セレスちゃんだ! 本物は、とっても可愛いんですね!」
「触っていいですか!?」
「さわっちゃダメ! セレスは、トワの!」
セレスが旅人たちに人気すぎて、トワの肩に戻ってこなかった。旅人の一人に頭を撫でられて、嬉しそうにぴかぴか光っている。
「……俺以外に撫でられても光るのか」
「え? トワ、やきもち?」
「やいてない」
「やいてるー。トワ、セレスのこと、すきなんでしょ」
「好きとかそういう話じゃない」
「すきー。トワはセレスがすきー」
セレスがトワの肩に戻ってきて、頬にぎゅっと頬ずりした。旅人たちが「うわー」と声を上げた。
「トワさんとセレスちゃんのやり取り、生で見れるとは……」
「これだけでも、密林に来た甲斐があるんじゃないか?」
「PKなんか怖くないぞ! この光景が見れるなら、死んで本望だ!」
「いや、死ぬな。俺たちが守っている意味がないだろ」
やれやれと首を振りながら、トワは彼らの石碑回収を見守った。




