「半分」
翌日。現実世界。
冬夜は朝からスマホの通知に埋もれていた。レヴナント討伐の配信アーカイブは再生数600万。「スープで転ばす」のクリップだけで200万再生されている。
蓮から電話。
『お前、敵にスープぶちまけたってマジ?』
「戦術だ」
『戦術wwwww 大学中で話題だぞ。ゲーム研究会のやつらが「トワの戦い方を論文にしたい」とか言ってた』
「頼むから、やめてくれ」
「その論文は俺に効く、か?」
「うるさい、切るぞ」
宮瀬からメッセージ。
宮瀬:「鏡像のヒント、役に立った?」
冬夜:「立った。お前のおかげで勝てた」
宮瀬:「えっ、本当に? あの授業の話が?」
冬夜:「本当だ。自分のコピーの弱点は、まだやったことのない行動だった。鏡に映らないもので勝った」
宮瀬:「……すごい。比較文化論が実戦に活きるとは思わなかったよ」
冬夜:「俺もだ」
宮瀬:「今度、そのゲームの話、もう少し聞かせてよ。内容じゃなくて、久坂くんがどう感じてるか」
冬夜:「……考えておく」
宮瀬:「考えておくじゃなくて、約束して」
冬夜:「……約束する」
宮瀬:「やった!」
冬夜はスマホを置いた。
──約束、か。最近、約束が増えた。宮瀬との約束。レナたちとの約束。ゼクスとの約束。
それを重荷とは思わない。面倒だとも感じない。むしろ──
いや、考えるのをやめた。考えなくてもわかっている。悪くない。
◇
夜。ログイン。
セレスが飛んできた。
「トワ! おかえり!」
「ただいま」
「トワ、きょうはどこいく?」
「天蓋の遺跡の続きだ。レヴナントを倒した先にまだ道がある」
「いく! いく! ──あ、でも、そのまえに」
セレスがトワの鼻先まで飛んできて、むむっと顔をしかめている。
何か重要なお話がある時の顔だ。
「トワ。きのう、マルクがくれたリンゴ、まだある?」
「ある」
「きのうのリンゴは、あまかった。きょうのリンゴも、あまい?」
「同じリンゴだから、同じ味だと思うが……」
「ちがうの。きのうのリンゴは、あまかったの。きょうのリンゴは、ふつーのリンゴ」
「よく分からないが……味は同じだろ」
「んーん、ちがうもん」
冬夜はリンゴを渡した。セレスが一口齧って、うーんと首を傾げた。
「やっぱり、きのうのほうが、あまかった」
「気のせいだ」
「きのせいじゃない。しょうりのあじ」
セレスなりに、昨日の戦いが特別だったということだろう。
「……そうか。じゃあ、次に勝った時にまた食べればいい」
「うん! つぎかったら、おにく!」
「要求レベルが上がってないか?」
「だって、リンゴはもうたべた」
「……確かに」
トワはセレスを肩に乗せて、天蓋の遺跡に転送した。
レヴナントがいた広間の奥に──新しい道が開いていた。レヴナントを倒したことで封印が解けたのだろう。
道を進むと、さらに奥の広間に出た。そこには──壁画。
【壁画の翻訳:「七つの鍵は世界の記憶。全てを集めし旅人に、世界は真実を語る」】
世界の記憶。七つの欠片は──世界の記憶。
冬夜は手持ちの欠片を確認した。
世界地図の欠片:4/7。
残り三つ。
どこにあるのか。【旅人の羅針盤】を確認した。針が──三方向に微かに振れている。残り三つの欠片の在処を、遠くから指し示している。
一つは南方。まだ踏破していないエリアの方角。
一つは東方。海の向こう。
一つは──地下。深い、深い地下。
セレスが三方向を順番に見た。
「みなみ。ひがし。ちか。──トワ、どっちからいく?」
「近い方からいってみよう」
「じゃあ、みなみ!」
「まだまだ歩けそうだな」
「セレス、うれしい。トワといっしょに、もっとあるきたい」
「ああ、一緒に歩こう」
冬夜は壁画を見上げた。
七つの欠片。全エリア踏破率100%。旅人の最終試練。世界の果て。
道は長いが、焦る必要はないだろう。




