決勝の前に
準決勝の翌日。日曜日。
冬夜は昼まで寝た。昨夜の戦いの疲労が残っている。22分間のフルダイブの集団戦は、脳への負荷が半端ではない。ゼクス戦同様、休息を取る必要がある。
スマホを見ると、通知が千件を超えていた。見る気にならず、シャワーを浴びた。
蓮から電話。
『お前、すげえよ。隣で宮瀬さんが泣いてたぞ。最後のセレスの体当たりで』
「泣く要素があったか?」
『あったよ! 妖精が、お前を守るために飛び出したんだぞ!? あんなの泣くに決まってるだろ!』
「そうか。──宮瀬に謝っておいてくれ」
『何で謝るんだよ。喜んでたんだよ。お前が勝って嬉しくて泣いてたの。──あ、メッセージ来てるぞ、宮瀬さんから』
電話を切って、メッセージを確認した。
宮瀬:「昨日はありがとう。すごかった。久坂くんが、あんなにかっこいい人だと思わなかった」
宮瀬:「あの小さい女の子の妖精、セレスちゃんっていうんだよね。あの子がゼクスって人に体当たりした時、泣いちゃった」
宮瀬:「次、決勝だよね。絶対見に行く」
冬夜は返信を考えた。
冬夜:「見に来てくれてありがとう。決勝も頑張る」
送信してから、自分のメッセージを見返した。自然にお礼が言えるようになっている。
──いつの間に、だろう。こんなことを、人に返せるようになったのは。
午後、宮瀬から返信。
宮瀬:「久坂くんがお礼を自分から言える人になってる……成長……」
冬夜:「言っておくが、成長期じゃないぞ」
宮瀬:「えー、まだまだ育ち盛りだと思ったのに」
冬夜:「いったい俺を何歳児だと思ってるんだ?」
宮瀬:「んーっと、わんぱくで元気いっぱいの男の子!」
冬夜:「……」
宮瀬:「冗談だよ、冬夜くん」
冬夜:「しってる。こんなことでへそを曲げる人間じゃない。それに、やっぱり俺は成長してないと思うぞ」
宮瀬:「成長じゃなかったら、なに?」
冬夜:「これは、そうだな……これはただの」
宮瀬:「事実の修正、でしょ? 知ってる」
「……」
冬夜はふっと口角を崩した。スマホの画面に向かって、確かに笑っていた。
◇
夜。ログイン。
決勝の相手は〈聖銀の盾〉。シーズン一位の最強ギルド。準決勝で〈鉄壁のファランクス〉のヴァルハラを破っている。
〈聖銀の盾〉のギルドマスターは「アストレア」、Lv90の聖騎士。ヴァルハラと同じ聖騎士だが、戦闘スタイルは全く異なる。ヴァルハラが戦術型なら、アストレアは、カリスマ型。個人の戦闘力がずば抜けており、ギルドメンバー全員がアストレアを中心に動く。
フォーラムの下馬評は五分五分だ。
──「深紅の牙はトワの索敵で勝ってきたが、聖銀の盾はアストレアの個人技で前線を崩してくる。情報戦vs力押しの構図だろうな」
──「トワの索敵は【闇夜の帳】で封じられたけど、聖銀の盾にはあのスキルはない。となると、索敵が通る」
──「でも、アストレアの攻撃力はゼクスを超えてる。正面からぶつかったらトワでも危ないんじゃないか」
──「HP360でも、アストレアの聖剣スキルなら一撃で6000以上出るぞ」
──「ワンパンじゃん」
──「ただ、トワの場合はアイテムでダメージ軽減があるからどうかな?」
──「もしかしたら、一撃は耐えるかも」
──「五分五分の戦いになりそうだな」
トワは草原を歩きながら、決勝のことを考えた。
セレスが肩の上でぱたぱたと尻尾を振ってる。
「トワ。つぎ、さいごのたたかい?」
「最後の対抗戦だ。勝てば、『新しい場所』に行ける」
「あたらしいばしょ! いく! いきたい!」
「ああ、だから勝つ」
「かつ! セレスもがんばる!」
セレスが小さな拳を突き上げた。角をぴょこぴょこ揺らしながら。
冬夜は月を見上げた。
ギルド王座決定戦、決勝。その先に、世界地図の欠片がある。
欠片を集めて、世界の果てへ。




