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ブレイブ・クロニクル・オンライン ~全員が捨てた初期職を7000時間やり込んだら、Lv1で最強になっていた~  作者: ぶらっくそーど


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準決勝(vs黒翼騎士団)


 王座決定戦、準決勝。



〈深紅の牙〉vs〈黒翼騎士団〉。



 特設コロセウムは満員だった。運営発表の観戦者数は二十万人。配信視聴者は──二百万人を超えていた。BCO史上最大の対戦イベント。



 観客席のどこかに、蓮と宮瀬がいる。冬夜はそのことを意識しないようにした。


 今は冬夜じゃない──『トワ』だ。



 フィールドは平原と森が入り混じったマップ。攻守のバランスが取れた中立的な地形。高低差は少ない。



 〈黒翼騎士団〉が対面に並んでいる。五十人の精鋭。黒い装備で統一されたギルド。──その中心に、ゼクスが立っていた。



 ゼクスがボイスチャットで言った。



「来たか」



 トワもボイスチャットを開いた。セレスが肩の上で身を乗らせている。



「ああ。──索敵を封じると言っていたな」

「言った。宣言通り、見せてやる」



 ゼクスがアイテムを取り出した。黒い球体。暗い光を放っている。




 スキル名:【闇夜のとばり

 種別:暗殺者専用アクティブスキル。

 効果:フィールド全体に「暗黒領域」を展開する。領域内では、すべての鑑定系・索敵系スキルの精度が90%低下する。効果時間:10分。




 索敵精度90%低下。【見聞録】の精度が十分の一になる。半径300メートルの索敵が、実質30メートルに。




 しかもこれはスキルだ。アイテムではない。暗殺者の上位スキル。発動すればフィールド全体に効果が及ぶ。



 ──これが、ゼクスの「手段」か。




『ゼクス選手が【闇夜の帳】を公開しました! 索敵系スキルの精度を90%低下させる暗殺者スキル! これはトワさんの【見聞録】を打破できるのではないでしょうか──!?』




  > やべえ

  > 索敵潰しだ

  > トワの見聞録が実質無効化される

  > 深紅の牙、今まで索敵で勝ってたのに……

  > ゼクス、本気で対策してきたな

  > これけっこう詰んでないか?




 バルトがレイドチャットに打った。




 バルト:「想定通りだ。索敵なしパターンで行く。全員、練習した通りに動け」



 五十人から緊張した様子が伝わってくるが、動揺している者はいない。十日間、みんなこの時のために準備してきたんだ。



 トワはセレスに小さく声をかけた。



「セレス。【月光の目】を試してくれ」



 セレスが目を閉じた。角が淡く光る。



 ──数秒後。



「トワ。……すこし、みえる。ぜんぶじゃないけど」



【月光の目】は【見聞録】とは別系統の能力。【闇夜の帳】の効果を受けるが、完全には封じられていない。



 通常なら半径一キロメートルの全情報。それが──半径200メートル程度。精度も落ちているが、ゼロではない。



 200メートル。カインの偵察班と組み合わせれば──最低限の索敵は維持できる。



 トワ:「セレスの【月光の目】が部分的に生きている。200メートル圏内の大まかな位置は把握できる。だが精度は低い。過信するな」

 バルト:「200メートルか。ないよりずっとましだ。──よし。作戦変更。トワの200メートル索敵を中核に、カインの偵察班で補完する。レナ、攻撃部隊はトワの200メートル圏内から出るな」

 レナ:「了解!」




 【王座決定戦 準決勝 開始 ── 制限時間30:00】




    ◇




 開始直後。ゼクスが【闇夜の帳】を発動した。



 フィールド全体が薄暗い闇に包まれた。視覚的には暗くならないが、【見聞録】の情報レイヤーがほぼ消失した。いつもなら画面を埋め尽くす敵の位置情報が──ない。



 代わりに、セレスの【月光の目】が淡い光として敵の気配を拾ってくる。半径200メートル。ぼんやりとした反応。正確な人数や装備は読めないが、「この方角に集団がいる」程度はわかる。



 トワ:「正面に大きな集団。二十人以上。左翼に小集団。五人程度。右翼は──不明」

 バルト:「不明が怖いな。右翼にゼクスがいる可能性がある。カイン、右翼を偵察しろ」

 カイン:「了解。──行くぞ」



 カインの偵察班五人が右翼に展開した。



 レナの攻撃部隊二十五人が正面に進む。トワが先頭を歩き、200メートル圏内の情報をリアルタイムでチャットに流す。



 敵の正面部隊と衝突した。



 乱戦。今までのように「敵の配置が丸見え」の状態ではない。どこから攻撃が来るかわからない。



「左からっ!」レナが叫ぶ。

「盾!」マルクが反応する。



 混戦の中、トワは剣を振った。目の前の敵を三連斬で倒す。だが、次の敵がどこにいるかが見えない。



 セレスが叫んだ。



「トワ、みぎ! ふたり、くる!」



 右から二人。セレスの感知で察知し、振り向きざまに弓で一人を射る。もう一人は槍の突進で吹き飛ばす。



 ──セレスの声が、索敵の代わりになっている。



 しかし、精度が低い。「二人」と言ったが、実際は三人だった。三人目がトワの背後に──



 短剣が背中を突き刺そうとした瞬間、横から矢が飛んできて三人目を弾いた。



 ミコト。防衛部隊から【鷹の目】で戦場を偵察しながら、遠距離から援護射撃をしていた。さっきの矢を撃った地点の情報で、三人目の接近を捉えたのだ。



「トワさん、後ろ! 今のは危なかった!」

「助かった」

「いつものお返しです!」




 混戦が続く。5分。10分。一進一退。索敵の差で押し切られるかと思われたが、〈深紅の牙〉は崩れなかった。十日間の練習が、一人一人の判断力を底上げしている。



 だが──。




 カイン:「ゼクス発見。右翼ではない。──中央だ。お前たちの中にいる」




 中央。


 攻撃部隊の乱戦の、その中に。



 冬夜の背筋に、何か冷たいものが走った。ゼクスは最初から正面部隊に紛れ込んでいた。【闇夜の帳】で索敵を封じた上で、ステルスではなく味方の中に潜む──暗殺者の最も原始的な戦術。




 トワ:「全員注意しろ! ゼクスが、俺たちの正面部隊に──」



 言い終わる前に、隣にいた味方が倒れた。一撃。



 ゼクスが姿を現した。乱戦の中、味方プレイヤーに紛れて近づき、トワのすぐ隣まで来ていた。



「見つけたぞ……トワ!」



 短剣がトワの首を狙う。



 ──恐ろしく速いが、見える。PvPの練習で培った対人反応。



 首を反らして回避。カウンターの三連斬。ゼクスが短剣で受ける。



 鍔迫り合い。



「……さすがだな。索敵なしでも反応できるか」

「索敵がなくても、目の前の敵は見えるだろう」

「だが──周りは見えないよな?」



 ゼクスの言葉の意味を理解した瞬間、左右から〈黒翼騎士団〉の精鋭が五人、トワを囲んだ。ゼクスを囮にした包囲陣。



 一対六。



 トワのHP360。ゼクスの一撃で120削られる可能性がある。六人同時は──。



「トワ!!」



 レナが剣を振るって包囲の一角に突っ込んできた。敵の一人を弾き飛ばし、穴を開ける。



「今だよ! ここから抜けて!」



 カインが影から現れ、もう一人を倒す。リゼの魔法が包囲の外側から二人を巻き込む。


 包囲が崩れた。六人が三人に。


 トワはゼクスに向き直った。



「──仲間がいる。お前が何を仕掛けても、俺は一人じゃない」



 ゼクスが一瞬、目を細めた。



「……変わったな、トワ。俺と戦った時は、一人で歩いていたはずなのに」

「変わっていない。歩いていたら、隣に人がいただけだ」

「その隣の人間が、お前を強くしている。ああ──認めよう、トワ。お前も、間違いなく強くなっていると」



 ゼクスが後退した。包囲が失敗した以上、暗殺者は距離を取る。


 時間は残り12分。両軍の旗はまだ健在。


 ここからは消耗戦になる。




    ◇




 残り10分。



 【闘夜の帳】の効果時間が切れた。フィールドの闇が消え──【見聞録】が復活した。



 情報が一気に流れ込んでくる。敵50人全員の位置。装備。HP状況。



 トワ:「見える。──全員の位置が見える。敵旗の防衛は18人。右翼に12人が旗から離れている。ゼクスは単独で中央を移動中」



 バルトが叫んだ。



「今だ! 索敵が戻った! 全軍、敵旗に向かえ! 右翼の12人が戻る前に旗を取る!」



 攻撃部隊が一斉に走り出した。十分間の闇の中で溜まっていた力が、一気に解放される。



 敵の防衛隊18人に向かって、25人の攻撃部隊が突撃する。トワが先頭を走る。


「ちょっ、おい、なんだアレ!?」

「見たことねえモンスターだぞ!」

「止めろ、何でもいいから早く止めろ!」

「乗り物か、いやだが――無理だ、こいつ強すぎる!」



 セレスが【覚醒形態】の巨大な白銀の鹿『セレスティア』に変わり、トワを乗せて疾駆する。


 防衛隊の陣形が乱れたところで、トワがセレスの背から飛び降り、着地と同時に四武器連携を叩き込む。剣──弓──槍──杖。0.17秒の高速切り替え。防衛の前衛二人を一瞬で倒す。



 レナが続いた。CT短縮バフのかかった突進スキルで盾役を弾き飛ばす。


 カインが影から飛び出し、ヒーラーを仕留める。


 リゼの魔法が防衛陣の中央を崩す。


 マルクの回復が攻撃部隊全体を支える。


 ミコトの矢が、遠距離から防衛隊の弓使いを牽制する。


 ──全員が、自分の役割を完璧にこなしている。



 防衛隊が崩壊した。旗が見えた。



 だが──。



 背後から殺気。



 ゼクスだ。



 単独で追ってきたゼクスが、トワの背後に迫っている。【影潜り】。ステルス状態。



 【見聞録】が反応する──が、索敵復活直後で感度が安定しきっていない。温度センサーと魔力感知に切り替える。



 0.2秒で察知。背後。二メートル。



 振り向く──間に合わない。ゼクスの方が速い。



 しかし、



「トワ、うしろ!!」



 セレスが叫んだ。小さな姿に戻ったセレスが、トワの肩から飛び出し──ゼクスの顔面に向かって体当たりした。



「──なっ」



 ゼクスの視界が一瞬だけ塞がれた。セレスの小さな身体がゼクスのフードに引っかかり、ゼクスの目を覆う。



 0.3秒の隙。



 トワが振り向いた。


 三連斬。ゼクスの胸に叩き込む。




 8,200──8,200──8,200。




 ゼクスが吹き飛んだ。HPが大きく削れる。


 セレスがゼクスのフードから飛び離れ、トワの肩に戻った。



「セレス、がんばった!」

「……ありがとう。でも二度とやるな、危ないだろ」

「だいじょうぶ。セレス、つよいもん!」



 ゼクスが体勢を立て直した。HPは残り三割。だが、目に力強さがある。



「守護精霊に体当たりされるとは思わなかった。──お前の旅は、一人じゃなくなったんだな」

「最初から、セレスがいた。仲間も、観客席にもな」

「……そうか」



 ゼクスが剣を構え直すが──その瞬間、背後からレナたちの声が聞こえた。



「旗、取ったああああああああ!!」




 【〈深紅の牙〉が〈黒翼騎士団〉の旗を奪取しました】




 【勝者:〈深紅の牙〉】

 【試合時間:22分18秒】




 コロセウムが歓喜に湧いた。二十万人の歓声。画面が揺れるほどの歓声。




『決まりました!! 〈深紅の牙〉の勝利!! 準決勝突破!! 決勝進出です!!!』




 そう実況するミコトの声は、興奮でいつもより甲高くなっていた。




『前半10分、索敵を完全に封じられた状態で耐え抜き──後半で一気に旗を奪取! そしてセレスちゃんの体当たり!! あれは反則!! 可愛すぎて反則!!』




  > 勝った!!!!!

  > 22分の死闘!!

  > 索敵封じられて10分間耐えたの普通にすごい

  > 深紅の牙、索敵なしでも崩れなかった。練習してたんだな

  > セレスの体当たりwwwwwww

  > あの小さい妖精がゼクスの顔面に突っ込んだのは今日のハイライト

  > ゼクスが妖精に視界塞がれる図、一生忘れない

  > でもゼクスもかっこよかったぞ。最後まで諦めなかった

  > 「お前の旅は一人じゃなくなったんだな」って台詞、敵ながら名言

  > 決勝だ! 決勝の相手は!?




 ゼクスがトワの前に立った。


「……負けた。三度目だ」

「四度目があるなら、また受けるぞ」

「ああ、それも悪くはないだが……今日は素直に認める。お前は、一人でも強かった。そして、仲間と一緒だと、もっと強い」



 ゼクスが手を差し出した。



「決勝、勝てよ。俺を倒したギルドが決勝で負けたら、俺の立つ瀬がない」



 トワはその手を握った。


 セレスが小さく手を振った。ゼクスが苦笑して、コロセウムを去っていった。

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