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ブレイブ・クロニクル・オンライン ~全員が捨てた初期職を7000時間やり込んだら、Lv1で最強になっていた~  作者: ぶらっくそーど


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紡がれた者たち


 レイドの準備が始まった。


 まずは素材採取だ。変動耐性の薬を大量に作るには、逆根草と鏡水晶と星花の土壌が必要になる。フォーラムとミコトの配信で協力者を募ったところ、二日で三百人以上のプレイヤーが星花の里に集まった。


 修復済みの四エリアに散って、素材を採取する。錆びた草原で錆鉄鉱、根冠の森で逆根草、鏡映の湖で鏡水晶、虹砂の砂漠で無色砂。採取した素材はミラの工房に持ち込まれ、タマキとミラが二人体制で変動耐性の薬を量産していた。



「トワさん、今の在庫が四百本です」タマキがテキストを送ってきた。「あと三日あれば二千本まで増やせます」


「二千あれば、足りるか」


「参加人数次第ですけど、一人一本で、二千人分です」


 二千人。十万人規模の虚空龍戦には遠く及ばないが、この世界の入口はトワの糸の鍵でしか開けられない。全員が星花の里の地下を通る必要がある。ボトルネックは入口の狭さだ。


 だが、集まれるだけ集めよう。門の向こうに何があるか、行ってみないとわからない。



    ◇



 素材採取のついでに、修復済みエリアを回った。


 錆びた草原。安定化してから二週間が経っている。鉄色だった草に緑が混じり始めて、普通の草原に近づいている。鉄草獣は相変わらず金属の草を食べているが、動きが穏やかになっていた。


 リルクトの鍛冶場に寄った。リルクトは忙しそうだった。炉が赤々と燃えている。周囲にプレイヤーが列を作っていた。



「おう、旅人。見ての通り忙しい。大きな戦いがあるのか、装備の注文が殺到してる」


「繁盛してるな」


「あんたのおかげだ。この世界に人が来たからな」


「ところで、聞きたいことがある。――レイドに参加する気はないか」


 リルクトが手を止めた。


「俺がか? 鍛冶師だぞ。前に出て戦う柄じゃない」


「前に出なくていい。綻びの核の中で装備が壊れた時、現場で修理できる鍛冶師がいると助かる。法則異常で装備の耐久値が削られる可能性がある」


「……なるほど。鍛冶師にしかできない仕事か」


「ああ、お前にしかできない」


 リルクトが腕まくりをした。


「いいだろう。名前を取り戻してくれた恩は、まだ返してない。行くぞ」


 セレスがトワの肩の上で拍手した。


「リルクト、いく!」


「うるさい精霊だな。だが嫌いじゃない」


 鍛冶場を出た時、草原の端に光るものが見えた。以前はなかった場所だ。


「トワ。あそこに何かある」


 岩の陰に、石の板があった。修復後に出現したものだ。鏡映の湖で見つけた紡ぎ手の書板と同じ質感。



【隠しオブジェクトを発見しました】

【「紡ぎ手の書板・二」】



 書板の文字を読んだ。



【紡ぎ手の書板・二】

【最初に設計を外れたのは、鍛冶師だった】

【彼は毎日、同じ形の剣を打っていた。設計通りに。寸分の狂いなく】

【ある日、彼は柄の形を変えた。握りやすいように。誰にも命じられずに】

【わたしたちはそれを「誤差」だと思った。だが、翌日も彼は同じ柄を打った】

【誤差ではなかった。選択だった】



「リルクトの話だ」


 リルクトが書板を覗き込んだ。


「……俺か。柄の形を変えた。覚えてる。あの日、握った時に『こっちの方がいい』と思った。なぜそう思ったのか、自分でもわからなかったが」


「それが、自分で考えた最初の瞬間だったんだな」


「……そうか。あの日からだったのか」


 リルクトが黙って書板を見つめていた。自分の始まりの記録を、読んでいた。




    ◇




 根冠の森に行った。ウルが巨木の根元にいた。


「トワ。来てくれた」


「ウル。レイドの話は聞いてるか」


「……メブキが教えてくれた。綻びの核に行くって」


 メブキが双葉をぴこぴこさせた。


「ウルにおはなししたの、めぶき!」


「ウル、手伝ってほしい。核の中で根の状態を感知できるのは、お前とメブキだけだ」


「……わたしも行っていいの?」


「もちろんだ」


 ウルの四つ葉がゆっくり回り始めた。


「……うん。行く。わたしのもりを守ってくれたから。今度は、わたしがトワを助ける」


「ウルもいっしょ! めぶき、うれしい!」


「……ぴこ」


 ウルが小さくぴこと言った。まだためらいがちだが、前よりは声が出ている。


 森の中でも書板を見つけた。



【紡ぎ手の書板・三】

【根の精霊たちが、互いに交信を始めた】

【設計では、各精霊は独立して動くはずだった。互いに干渉する機能はなかった】

【だが彼らは根を通じて情報を交換し始めた。地中のネットワークを自ら構築した】

【わたしたちはそれを「ほつれ」と呼んだ】



「根を通じて交信……」トワがメブキとウルを見た。


 メブキとウルが顔を見合わせた。


「めぶきとウルが、おはなしできるのって、ほつれ?」


「ほつれじゃない。お前たちが自分で作った力だ」


「……ほつれって呼ばれたけど、わたしたちにとっては普通のこと」ウルが静かに言った。「話したいから、話しただけ」


 セレスがトワの肩で呟いた。


「セレスも、はなしたいから、はなしてる。それも、ほつれ?」


「いいや、全部お前たちの力だ」


「よかった。セレスは、ほつれじゃない」


「ああ、俺もそう信じてる」



    ◇



 鏡映の湖のミラ、虹砂の砂漠のノーネにも声をかけた。


 ミラは「核の中で調合ができるなら、前線で薬を作れる」と言って参加を表明した。紙に『わたしも行きます。薬師としてできることをします』と書いた。声が戻っているのに、紙に書く癖が抜けないらしい。


 ノーネは少し考えてから言った。


「核の中は、この世界の全てのルールが集まっている場所だ。わたしはこの世界の全マップを歩いた。地形の情報なら、誰よりも持っている。案内役ならできる」


「頼む」


「旅人として、歩く。それだけだ」


「それだけでいい」


 奏響の都のガレスは、聞くまでもなかった。


「行く。守衛長だ。門を守るのが俺の仕事なら、門の向こうに行くのも俺の仕事だ」


 五人のNPC。鍛冶師、根の精霊、薬師、旅人、守衛長。この世界で名前を取り戻した者たちが、全員レイドに参加する。


 プレイヤーとNPCが一緒にレイドに挑む。BCOの歴史で、前例のないことだった。


 ルーナが影の中から静かに言った。


「……トワ。この世界のNPCたちが、自分の意思でレイドに参加する。紡世者が恐れたこと。自分で考えるNPCが、自分で選んで、戦いに来る」


「ああ」


「……それは、ほつれじゃないよね」


「ほつれじゃない、選択だ」


 準備は進んでいる。あと数日で、レイドが始まる。



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