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ブレイブ・クロニクル・オンライン ~全員が捨てた初期職を7000時間やり込んだら、Lv1で最強になっていた~  作者: ぶらっくそーど


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345/426

闘技場の風



 常世島、三日目。


 闘技宮に行った。


 島の東側にある巨大な円形闘技場。外壁は石造りで、上に行くほど段々に広がっている。中から歓声が響いてくる。


 入場は無料。中に入ると、すり鉢状の観客席が広がっていた。プレイヤーが三万人ほど座っている。黄金棟に満ちていた興奮とは違う、戦いの熱さだ。



 アリーナが三つ。AリングとBリングとCリング。同時に三つの対戦が進行している。



 アリーナの上空に巨大なホログラム表示が浮かんでいた。対戦者のHP、レベル、装備、スキル構成がリアルタイムで表示されている。さらに対戦者の動きに合わせてダメージ数値が空中に飛び出す仕組みだ。



【闘技宮へようこそ】

【現在の開催中リング:A / B / C】

【観客賭技受付中:各リング横の受付台をご利用ください】

【本日の対戦数:47戦 本日の最高ダメージ:18,420(Lv88・魔法使い「紅蓮のアキラ」)】



「最高ダメージのランキングまで出てるのか。闘技場としてよくできてるな」


「本格的ですね。アリーナの上に、対戦者のステータスが全部見えてます」


「観客が戦況を把握できるようにしてあるんだ。見る側の体験まで設計されているのか」




 としてAリングでは、既に対戦が始まっていた。


 ホログラムに対戦者の情報が表示される。



【Aリング 第48戦】

【赤コーナー:「砂鉄のジン」剣士 Lv84 HP:38,200】

【青コーナー:「風穂のカナタ」槍使い Lv79 HP:32,100】

【賭技倍率 赤1.4 / 青2.8】

【対戦開始まで……3……2……1……】



 ゴングが鳴った。フィールド全体に光の波紋が走る。開始演出だ。


 剣士が一気に距離を詰めた。



【砂鉄のジン スキル発動「疾風斬(しっぷうざん)」】



 剣が閃く。だが、槍使いのリーチが長く、届かない。返す刀で、槍の穂先が剣士の胴を斬った。



【4,280ダメージ!】



 数字が空中に赤く弾けた。観客席から声が上がる。


「当てた! 先制は槍だ!」

「いやまだ、剣士の方が火力あるぞ」


 剣士が転がって躱し、横から切り込もうとすると、槍を回転させて壁を作る。


「あの槍使い、上手いな」



【風穂のカナタ スキル発動「旋風槍(せんぷうそう)」】



 槍が高速回転。周囲に風圧が発生して、近づけない。剣士が弾かれた。



【1,820ダメージ!(ノックバック)】




「剣士が入れないですね。スキルで距離を維持してる」



 だが、剣士も引かない。三度目の突進でフェイントを入れた。右から行くと見せかけて左に回り込み、槍の振りの隙間に滑り込んだ。至近距離。槍が使えない。



【砂鉄のジン スキル発動「零距離・双牙(ぜろきょり・そうが)」】



 剣が二閃。槍使いの胸と腹に同時に当たった。



【クリティカルヒット! 8,640ダメージ!】

【クリティカルヒット! 7,920ダメージ!】



 二つの数字が空中で金色に輝いた。


 槍使いのHPが一気に削れた。残り僅か。そして、もう一撃。



【風穂のカナタ HP:0】

【勝者:砂鉄のジン!】



 観客席が揺れた。三千人の歓声。ホログラムに勝者の名前が大きく表示され、金色の紙吹雪エフェクトが降り注いだ。




「すげえ!」

「クリティカル二連撃だ!」

「剣士つえー!」



 実況のNPCが、マイクで叫んでいる。



「決まりましたぁ! 砂鉄のジン選手、見事な零距離二連撃! 槍のリーチを突破してのクリティカルフィニッシュ! これで、本日三連勝です!」




【対戦結果】

【敗者「風穂のカナタ」:レベルが2低下しました(Lv79→Lv77)】

【勝者「砂鉄のジン」:常世銭800枚を獲得】

【観客賭技結果:赤(剣士)的中者に配当が支払われました】




 セレスが手すりから身を乗り出していた。




「トワ! あのひと、つよかった! きんいろのすうじが、バーンって!」


「クリティカルダメージの表示だ。金色に光るのは演出だな」


「きれい! もっとみたい!」


「もう一試合あるみたいだぞ」


「みる!」




    ◇




 Bリングの対戦が始まった。ホログラムが切り替わる。



【Bリング 第52戦】

【赤コーナー:「鉄城のオウガ」盾職 Lv90 HP:52,000 DEF:4,200】

【青コーナー:「静弦のミヤ」弓使い Lv72 HP:24,800 ATK:3,800】

【賭技倍率 赤1.2 / 青5.6】




「倍率5.6。弓使いに賭ける人がほとんどいないんですね。レベル差18ですし」


「ステータスを考えれば、普通は盾職の圧勝だな」



 ゴングが鳴った。



 盾職が構えた。巨大な盾を前面に出して、ゆっくりと前進する。HP52,000、DEF4,200。正面からの打ち合いなら、弓使いに勝ち目はない。


 だが、弓使いが動いた。――速い。


 盾職の射程の外。ぎりぎりの距離。そこから矢を放った。




【412ダメージ】




 小さい。DEF4,200の盾職に対しては、削れているのかどうかすら怪しい数字だ。



「412って、蚊に刺されたようなもんだろ」観客が笑っている。



 だが弓使いの手が止まらない。二射、三射、四射。全部当たっている。




【412ダメージ】

【398ダメージ】

【425ダメージ】

【401ダメージ】




 小さな数字が、テンポよく空中に弾けていく。


「ダメージは小さいけど、全弾命中してるな」


「盾を構えてるのに、当たってるんですか?」


「盾の上端と下端の隙間を狙っている。矢の角度が毎回微妙に違う。全部、盾で防げない角度だ」


 盾職が前進する。弓使いが同じ速度で後退する。距離が変わらない。矢だけが当たり続ける。


 一分経過。小さなダメージが積もっている。




【鉄城のオウガ HP:52,000→47,200】




「五千近く削ってる。蚊の一刺しが百回当たると、流石に痛いだろうな」



 実況NPCが興奮気味に解説した。



「おおっと、これは! 静弦のミヤ選手、一発一発は小さいが着実にHPを削っています! 鉄城のオウガ選手、近づけない! この距離管理はお見事ですね!」



 盾職が焦り始め、盾を構えて走り出した。一気に距離を詰めようとする。



【鉄城のオウガ スキル発動「鉄壁突進(てっぺきとっしん)」】



 盾を前面に構えたまま突進するスキル。当たればノックバック+大ダメージ。


 だが、弓使いが横に跳んだ。突進は直線しか進めない。躱した。



【ミス!】



 盾職が壁に突っ込んだ。隙だらけだ。弓使いが、その背中に矢を三連射した。



【弱点ヒット! 1,240ダメージ!】

【弱点ヒット! 1,180ダメージ!】

【弱点ヒット! 1,310ダメージ!】




「背面は弱点だ。盾の防御が効かない」




 観客が沸き始めた。風向きが変わっている。



「弓使い、やるじゃん!」

「もしかして、勝てるのか!?」

「俺、弓に500賭けてるんだよ! 倍率5.6だぞ! 頼む!」



 制限時間が迫っている。盾職のHPがじわじわ削れて、残り僅か。弓使いはほぼ無傷。


 残り十秒。盾職が最後の突進を仕掛けた。弓使いがバックステップで躱して、空中から矢を放った。



【静弦のミヤ スキル発動「天弓・落星(てんきゅう・らくせい)」】



 空中で弓を引いた。矢が光った。真上から落ちてくる矢。盾では防げない角度。


 当たった。



【クリティカルヒット! 4,820ダメージ!】

【鉄城のオウガ HP:0】

【勝者:静弦のミヤ!】



 闘技場が爆発した。


 三千人の絶叫。ホログラムに「UPSET!」の文字が巨大に表示された。金色の紙吹雪。実況NPCが叫んでいる。



「大番狂わせです!! レベル差18を覆しました! 静弦のミヤ選手! 一度も被弾することなく、鉄城のオウガ選手を撃破! パーフェクト・ゲーム!!」



【観客賭技結果】

【青(弓使い)的中者に倍率5.6の配当が支払われました】




「倍率5.6! 500賭けたやつは2,800枚だぞ!」

「うそだろ、俺盾に1,000賭けて全部飛んだ……」

「弓使いに賭けてたやつ、先見の明があるな」

「いやいや、ただのギャンブラーだろ」



 セレスも目を光らせて飛び跳ねている。



「かった! ゆみのひと、かった! さいごのやが、ばーんって!」


「天弓・落星か。上から撃つ弓の大技だな」


「トワとおなじだね。れべるがひくくても、つよいの」


「俺と同じかはわからないが、考え方は近いかもしれないな」




    ◇




 Cリングで変わった対戦が始まった。実況NPCが声を張り上げている。



「さあ本日の特別マッチ! 生産職限定トーナメント、準決勝です!」




【Cリング 生産職限定トーナメント・準決勝】

【赤コーナー:「溶鉄のドマル」鍛冶師 Lv65 武器:鍛造ハンマー】

【青コーナー:「七味のリンカ」料理人 Lv58 武器:牛刀包丁】

【※生産職限定トーナメントでは、生産スキルの戦闘転用が許可されています】




「生産職限定トーナメント!?」


「鍛冶師と料理人が戦うのか!?」


「生産スキルの戦闘転用が許可って……いったい、何が起きるんだ」


 観客席の困惑もそのままに、ゴングが鳴った。



 鍛冶師がハンマーを振りかぶった。鍛造用の大ハンマー。武器ではなく道具だが、重い。



【溶鉄のドマル 生産スキル転用「鍛打(たんだ)」→攻撃判定に変換】



 ハンマーが振り下ろされた。床に衝撃波が走った。



【2,840ダメージ!(範囲攻撃)】




「ハンマーで衝撃波を!? 鍛冶スキルの鍛打を攻撃に転用してるぞ!」



 料理人が包丁で受け止めた。料理用の牛刀包丁。切れ味はあるが、ハンマーの重さに押されている。



【七味のリンカ 生産スキル転用「三枚おろし」→連続斬撃に変換】



「三枚おろし!? 料理スキルが、攻撃に!?」



 包丁が三連撃、魚を捌く動作そのままで振るわれるが、対象は鍛冶師だ。




【1,420ダメージ!】

【1,380ダメージ!】

【1,510ダメージ!】




 観客がどっと笑った。ダメージ表示の横に、魚のエフェクトが飛んでいる。三枚おろしのスキルだから、魚が出る。



「魚のエフェクト出てるんですけど!」


「生産スキルの演出がそのまま出てるんだ。面白いな」



 鍛冶師がよろめいたが、反撃に出る。ハンマーを横に振った。



【溶鉄のドマル 生産スキル転用「焼入れ」→ハンマーに火属性を付与】



 ハンマーが赤熱した。火を纏ったハンマーが横薙ぎに振られる。



【火属性攻撃! 3,200ダメージ!(炎上付与)】



 料理人が吹き飛んだ。腕に炎が残っている。炎上デバフ。



【七味のリンカに「炎上」が付与されました(毎秒200ダメージ・10秒間)】



 だが料理人が懐から何かを取り出した。味噌汁だ。



【七味のリンカ 生産スキル転用「おふくろの味」→HP回復+全デバフ解除】



 味噌汁を一気に飲んだ。炎上が消えた。HPが回復した。


 観客席が爆笑に包まれた。



「味噌汁でデバフ解除!?」

「おふくろの味は万能か!」

「料理人つえー!」



 実況NPCも笑いを堪えきれていない。



「七味のリンカ選手、戦闘中に味噌汁で回復! おふくろの味は、最強のデバフ解除スキルです!」


 鍛冶師が「ずるくない?」と叫んでいる。


「反則じゃないのか、これ」


「生産スキルの戦闘転用が許可されてるから、自分の料理で回復するのもスキルの一部ですね。審判は止めてないです」


 料理人がHP全快で復帰した。


 そこから先は持久戦になった。鍛冶師がハンマーを振るたびにスタミナが削れていく。重い武器の宿命だ。料理人はダメージを受けるたびに自作の料理で回復する。おにぎり、卵焼き、果ては焼き魚まで。戦闘中に完全な定食が展開されていく。


「もう宴会だろこれ」観客が野次を飛ばしている。


「闘技場で料理を並べるな!」


「いや、最高だろ! もっとやれ!」


 最終的に、鍛冶師のスタミナが切れた。ハンマーを持ち上げられなくなった。料理人が最後の一撃を包丁で入れて、勝負が決まった。



【勝者:七味のリンカ!】



【七味のリンカ選手、生産職限定トーナメント決勝進出!】



 観客席がスタンディングオベーション。料理人がお辞儀をしている。足元にはおにぎりの食べかすが散乱している。



「料理人が鍛冶師に勝った。常世島の闘技場、とんでもないな」



 セレスが興奮冷めやらぬ様子だ。



「タマキ! タマキもでれる! おくすりたべて、たたかえるよ!」


「わたしは戦いませんよ。薬師は後方支援です」


「でも、りょうりにん、かったよ? タマキも、かてる!」


「料理人と薬師は違いますよ。わたしの薬は飲んだら回復するけど、投げたら毒だよ!?」


「じゃあなげればいい」


「投げません!」




 帰ろうかと思った時、闘技場全体に鐘の音が響いた。


 ホログラムが切り替わった。三つのリング全ての上空に、同じ告知が浮かび上がる。



【闘技宮・特別イベント告知】


【明日開催:「飛び入り自由枠」】


【レベル制限なし・対価設定なし・賭技ルール適用外】


【どなたでも参加可能。勝敗による没収はありません】


【腕試しをしたい全てのプレイヤーに開放します】


【※観客賭技は通常通り受け付けます】




 対価設定なし。没収なし。レベル制限なし。


 観客席がざわめいた。



「飛び入り自由枠だって!」


「没収なしなら安心して出られるな!」


「レベル制限なしって、Lv90の猛者が来たらどうすんだ」


「来るだろ、絶対来る。あのランカー連中が黙ってるわけない」



 トワは告知を見上げていた。対価設定なし。つまり、賭けるものがなくても参加できる。



「トワ。でれるよ? レベルせいげんなし、って」


 セレスが見上げている。


「ああ。出られるな」


「でる?」


「……明日考える」


「でたらいいのに。トワ、つよいのに」



 生産職トーナメントを見ていたプレイヤーたちが、席を立ちながら話している。大半はトワのことを知らない。島に来たばかりの一般プレイヤーだ。



 だが、その中の一人が足を止めた。トワの肩にいるセレスを見て、目を見開いた。



「おい……あれ」


「何だよ」


「肩に精霊が乗ってる。小さい鹿の角の」


「セレスティアじゃん。ってことは、あの人……」


「トワだ――トワがいるぞ!」



 声が広がった。観客席の一角がざわつき始めた。



「トワ? あのLv1の?」


「マジだ。足元に光の足跡が残ってる」


「トワが闘技宮にいるぞ!」


「明日の飛び入り枠、出るのか!?」


「Lv1が闘技場に出るのか!?」


「出てくれ! 見たい!」


 声が大きくなっていく。周囲のプレイヤーがこちらを見ている。


 トワは黙って歩き出した。出口に向かう。背後から声が追いかけてくる。


「トワさん、明日出るんですか!」


「出てくださいよ!」


「Lv1の戦いが見たい!」



 そんな群集たちの声も構わず、トワは闘技場を後にしようとしていた。別に自分は、戦うためにここに来たわけじゃ無い身体。


 しかし出口の手前で、ゼクスが壁にもたれて立っていた。観客席の最上段から降りてきたらしい。腕を組んで、トワを見ている。



「ゼクス、来ていたのか」


「闘技場は、俺の本領だからな。トワが来ているとは思わなかったが……見たか、あの告知を」


「ああ」


「出るのか?」


「……わからない。戦う目的で来たわけじゃなかったからな」


「わからない、か。お前にしては珍しい答えだな」



 ゼクスが壁から背を離した。



「俺も明日出る。十八戦分を見て、傾向は掴んだ。もしお前も出るなら、リングの上で会えるかもしれないな」


「一般参加枠とは、流石に別枠だろう」


「それもそうか。とにかく、明日、期待しているぞ」



 ゼクスが闘技宮の奥に消えていった。


 外に出た。夕焼けの空。セレスが肩の上で、じっとトワを見つめていた。



「トワ。でたいんでしょ」


「なぜわかるんだ?」


「セレスは、トワのこと、なんでもわかる。めが、きらきらしてた。さっきの、ゆみのひとをみてたとき」


「……」


「たたかいたいなら、たたかっていいんだよ。セレスが、おーえんする」


「ああ……そうだな。見ているのも面白いが、実際にやってみた方が、面白い」



 トワは空を見上げた。


 明日。


 闘技宮。飛び入り自由枠。レベル制限なし。対価なし。


 久しぶりに、少しだけ心臓が速い。



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