表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブレイブ・クロニクル・オンライン ~全員が捨てた初期職を7000時間やり込んだら、Lv1で最強になっていた~  作者: ぶらっくそーど


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

343/416

常世島




 金曜日。午後三時。メンテナンス明け。


 ログイン。


 始まりの町リベルタの噴水広場は、アップデート初日の熱気で溢れていた。プレイヤーが走り回っている。全体チャットが凄まじい速度で流れている。



 ──「常世島! 常世島!」

 ──「港町マリスタから常世船が出るぞ!」

 ──「賭技ってどんなシステムだ!?」

 ──「とりあえず行ってみないとわからん!」

 ──「乗船! 乗船だぁ!」



 広場には、タマキもいた。噴水のそばに立って、鞄の中身を確認している。いつもより鞄がパンパンに膨らんでいる。



「トワさん。準備できてますよ」


「その鞄に、何を詰めてきたんだ?」


「空き瓶を五十本。新しい素材を採取するために、です!」


「五十本」


「足りないかもしれないので、予備の鞄も持ってきました」


 予備の鞄を開くと、さらに三十本の空き瓶。硝子蛙のナギがけろけろ鳴いた。


「薬師の荷物が多いのは、いつものことか」


「いつものことです。でも新エリアの時はもっと多いです。これでも厳選しました」


 セレスが肩の上でそわそわしている。


「トワ。あたらしいしま、いく?」


「行く」


「おいしいもの、ある?」


「行ってみないとわからない」


「いってみないとわからないのが、たび。セレス、しってる」


「覚えたか。偉いな」


「えらい。ごほうびに、おやつほしい」


「島に着いてからだ」


「トワ、さいきん、けち」


「経済的になったと言って欲しいな」




    ◇



 港町マリスタへ転送した。


 港に出て、息を呑んだ。


「常世船」は想像していた、ちんけな船ではなかった。



 三層甲板の豪華客船――全長百メートルはある。船体が白と金で塗り分けられていて、舷側に「常世」の名前が光っている。


 桟橋にはプレイヤーの行列だが、整然としている。NPCの案内係が列を誘導していて、乗船口にはレッドカーペットが敷かれている。




「クルーズ船だな、これは」


「すごい……。新大陸に行く時の船とは全然違いますね」


「あの時は普通の帆船だった。これは完全にリゾート仕様だな」


 乗船した。


 船内に入った瞬間、空気が変わった。木の温もりと柑橘系の香り。床は磨かれた石材で、壁には金の装飾が施されている。天井にシャンデリアが揺れている。船の中とは思えない。


 NPCのスチュワードが出迎えた。白い制服。深々とお辞儀。



「いらっしゃいませ、旅人様。常世船へようこそ。航海中のお飲み物とお食事は全て無料でございます。一階がラウンジ、二階がレストラン、三階が展望デッキとなっております。ごゆっくりお過ごしくださいませ」


「全部、無料なのか?」


「はい。常世島へのご招待の一環でございます」


 セレスが肩の上から船内を見回した。


「トワ。ここ、きらきらしてる!」


「なかなか派手だな」


「おしょくじ、むりょう?」


「無料だそうだ」


「むりょうのおやつ! いく! にかい! にかいのレストラン!」


「おいおい、まだ出航もしていないぞ」


「だって、おなかはまってくれない」



 タマキが船内の壁の装飾をじっと見ていた。



「この装飾、見た目は金ですが、素材が特殊ですね。見たことない鉱石……常世島固有のものでしょうか。船の内装にまで、島の素材を使っているのかもしれません」


「それも気になるところだが、いまはセレスが暴れる前に、二階に行こう」


 二階のレストラン。


 窓が大きく、海が見える。テーブルには白いクロス。銀の食器が並んでいる。メニューが水晶板に表示される。タッチ操作で注文する仕組みだ。


 席に着いた。周囲にはプレイヤーが千人ほど座っている。


 皆、目を丸くしてメニューを見ている。




「このクルーズ船のサービス、本当にゲームの中なのか?」


「VRの食事って味するのかな」


「するぞ。BCOの食事システムは五感再現だし」


 メニューを見た。


 前菜、スープ、メイン、デザート。贅沢なコース料理だ。


 メブキが双葉をぴこぴこ揺らした。テーブルの上に着地して、銀のフォークを見つめている。


「くるくる……これ、なに? ぴかぴかの、ぼう?」



 メブキが喋った。以前よりも、滑舌がしっかりしている。


 その代わりに変わった口癖がついている、成長して自我が芽生えつつあるのかもしれない。



「フォークだ。食べ物を刺して、口に運ぶ食器だ」


「フォーク? めぶきは、はっぱでたべるよ?」


「双葉で挟んで食べるのか」


「ぴこぴこ……はっぱで、じゅうぶん!」


 タマキがメブキに小皿を出した。パンが一切れ乗っている。


「メブキちゃん。パン、どうぞ」


「……パン!」


「セレスも、セレスも!」


「はい、セレスちゃんも!」


「タマキ……わたしも、ちょっと欲しい」


「分かっていますよ、ルーナちゃんもどうぞ!」



 三人の小さな精霊たちが、パンをもぐもぐし始めた。


 やがて料理が運ばれてきた。


 前菜は島の魚介のカルパッチョ。スープは常世蜜を使った金色のコンソメ。


 主食を食べた後のデザートは、もちろんセレスとメブキの奪い合いが始まった。犠牲となるお皿はもちろん、トワのデザートである。



「いいんですか、トワさん?」


「ゲームの中のデザートだ。これくらい、気にしないさ」



 結局トワはデザートを諦め、三人に分けることに。


 食後は、三階の展望デッキに出た。



 海が広い。風が吹いている。始まりの町の港はもう見えない。世界の端に向かっている。


 デッキにはプレイヤーが大勢出ていた。手すりにもたれて海を眺めている者。仲間と写真を撮っている者。風を肌で感じて身震いしている者。


 ハンモックが並んでいる。デッキチェアもある。毛布とドリンクが備え付けてある。至れり尽くせりだ。



「タマキ。この船のサービスの感想は?」


「豪華すぎます。無料のコース料理、無料のドリンク、無料のハンモック。全部無料。こんなに無料だと、逆に何で稼いでるのか気になります」


「先行投資だろうな。島に着いたら、賭技でプレイヤーたちの財産を回収するんだろう」


「カジノの手法ですね。入り口は無料にして、中で使わせる」


「ああ。この船自体が、島への導線だ」


 だが、それを差し引いても、良い船旅だった。海がきれいで、料理が美味くて、風が気持ちいい。


 セレスがハンモックに転がった。パフェの満腹感で目が細くなっている。


「トワ。いいふね」


「ああ。いい船だ」


「セレス、ねむい」


「寝るな。もうすぐ着く」


「ちょっとだけ……」


 五分後、水平線に影が見えた。


「見えたぞ!」


 誰かが叫んだ。甲板のプレイヤーが一斉に前方を見た。


 島だ。


 最初に見えたのは、光だった。島全体が発光している。昼間なのに、建物が自ら光を放っている。金色と白が混ざった光。遠目にも派手だ。



 近づくにつれて、全体像が見えてきた。



 巨大な円形の島。中央が少し盛り上がっていて、その頂点に塔のような構造物がある。だが塔の上部は霧に隠れていて見えない。


 港が見えた。屋根が丸い建物が立ち並んでいる。壁がカラフル。旗が何十本もはためいている。


 船が着岸した。タラップが降りる。プレイヤーたちが歓声を上げながら島に降り立っていく。




【大型アップデート「楽土の章」】

【常世島に到着しました】

【島内マップが解放されます】

【初回来島ボーナス:常世銭100枚を獲得しました】




「常世銭……島の通貨か」


「100枚。多いのか少ないのか、まだわかりませんね」


 足を踏み出した瞬間、星巡りの靴が反応した。光の足跡が常世島の地面に刻まれた。


「足跡が残る。この島でも」


「原初の世界と同じですね」


「マップ外のエリアだからかもしれない。通常のフィールドとルールが違う可能性がある」


 見聞録を起動して、地面をスキャンした。


 表層の下に魔力の流れがある。


 複雑な回路のような構造――自然の地形ではない。


「この島の地面、人工物だ。誰かが設計して作っている」


「人工物? 運営が、ということですか」


「わからない。ただ、自然のフィールドとは構造が根本的に違うかもしれない」


 ミニマップに常世島の全体図が表示された。


 七つの区画が色分けされている。中央に「?」のマーク。




黄金棟(おうごんとう):カジノエリア】

闘技宮(とうぎきゅう):PvP・闘技エリア】

星見座(ほしみざ):劇場・エンターテイメントエリア】

奈落遊戯場(ならくゆうぎじょう):上級者向けゲームエリア】

宵市(よいいち):夜市・交易エリア】

湯楽郷(ゆらくきょう):温泉・美食エリア】

帳の間(とばりのま):現在入場不可】




「七つの区画。一つだけ入場不可になっている」


「帳の間……何かの条件で開くんでしょうか」


「奈落遊戯場っていうのも気になるな。名前が不穏だ」


「でも、今は気にしても仕方ないですね。トワさん、どこから行きますか?」


「迷うところだが……どうやら、彼女が俺たちを案内してくれるらしいぞ」


 港から島に立ち入ると、NPCの案内人が立っていた。白い制服に金のネクタイ。船のスチュワードと同じ雰囲気だ。



「いらっしゃいませ、旅人様。常世島へようこそ。初めてのご来島でしたら、まずは『黄金棟』をご案内いたします。あちらでございます」



 案内人が指差した先が、船から見えた巨大な建物だった。


 近づくと、大きさが尋常ではないことがわかった。


 横幅だけで百メートルはある。五階建て。正面の壁が全面ガラスになっていて、中の金色の照明が外に漏れている。入口には十メートルの金色のアーチ。アーチの頂点に水晶が据えてあり、虹色の光を放っている。


 入口の両脇に噴水。噴水の水も金色に光っている。


 プレイヤーたちが吸い込まれるように中に入っていく。



「すごい……」タマキが見上げた。「ゲームの中でこんな建物、見たことないです」


「ルミナリアの大聖堂より大きいかもしれないな」


「大聖堂は荘厳でしたけど、こっちは華やか。方向性が真逆ですね」



 中に入った。


 広い。天井が吹き抜けで、五階分の高さがそのまま見上げられる。天蓋のガラスから自然光が差し込んでいて、床の金色のタイルが輝いているように見える。



 一階はスロットのフロアだった。数千台の賭技台が並んでいる。我慢しきれないプレイヤーたちは台に座っていて、もう回し始めている。


 二階がカードゲームのフロア。


 三階がルーレット。


 四階がVIPルーム。


 五階は「準備中」の表示で入れない。


 吹き抜けのホールの中央に、巨大なモニュメントが立っていた。金色の樹。枝に宝石が実のようにぶら下がっている。一つ一つが光っていて、樹全体が発光している。



「あの樹は……何でしょうか」


 トワが見聞録でスキャンした。


「装飾品……ではないな。魔力がある、ただの宝石というより……何かの装置のような」


「何かの装置?」


「具体的なことは、今はまだわからないな」



 セレスが金色の樹を見上げていた。



「トワ。あのき、きれい。でもなんかへん」


「変か」


「うん。きれいだけど、いきてない。ほんもののきじゃない。かたちだけ」


「精霊の直感か」


「ちょっかん。セレスはわかる。いきてるものと、いきてないもの」


 メブキが双葉をくるくる回した。


「くるくる……このき、ねっこがない。ねっこがないきは、き、じゃない」


「根がない。地面に根が張っていないのか」


「ぴこぴこ、めぶきにはわかる。ねっこのせいれいだから」


 根の精霊が言うのだから、間違いないだろう。あの樹は根がない。地面に立っているだけで、大地と繋がっていない。何か意味があるのか、単純にただの装飾品扱いなのか。



 トワたちは、スロットの台の前を通った。



【賭技・運命盤】

【対価:装備一点】

【報酬:常世銭100〜10,000 または 限定装備(確率0.5%)】




「限定装備の当選確率が0.5%。二百回に一回か」


「装備を二百個溶かして一つ当たる計算ですね……」


 隣の台でプレイヤーが歓声を上げた。



「出た! 出たぞ、見ろ!! 常世銭5,000枚だぁ!!」



 その二つ隣で、別のプレイヤーが頭を抱えている。


「消えた……俺が一ヶ月掛けて作った、星鋼の剣が……! 嘘だろ……!」



 装備が「対価」として設定された瞬間、光の粒になって台に吸い込まれる。負けた場合、その光が台の底面から下に流れていく。勝った場合は、台の上部から常世銭が弾き出される。


 見聞録でデータの流れを追った。


 負けた装備のデータは台の地下に落ちて、金色の樹の方向に流れている。



「……あの樹に繋がっているようだな。没収されたデータが、樹に集まっている」


「消えたわけじゃなくて、移動してるんですね」


「ああ――だが、その先はスキャンが届かない」


 セレスが台に近づいた。NPCのディーラーがセレスを見て微笑んだ。


「精霊さんも一回、いかがですか?」


「セレス、そーびがない」


「装備がなくても、スキルを対価にできますよ」


「スキルもない。セレスはせーれーだから」


「まあ……それは困りましたね」


 ディーラーが困った顔をしている。賭けるものがない客は想定外らしい。


「トワ。ここ、おかねないとあそべないの?」


「賭けるものがないと遊べない仕組みだ」


「つまんない。おかねなくてもあそべるところ、ないの?」


「湯楽郷が無料エリアらしいが」


「じゃあそっちいく」


「明日な。今日はもう少し見て回る」


「えー」


「えーじゃない。旅人は、まず歩いて全体を見る」


「トワはまじめ」


「真面目じゃない、旅人の基本だ」



 黄金棟を出た。


 外の空気が涼しい。中の金色の光から出ると、島の自然な空が目に優しい。



「トワさん。あの建物、外から見た印象と中から見た印象が全然違いますね」


「外からは華やか。中に入ると、全てが賭技に導線を引いている。飾りの一つ一つが、プレイヤーの目を台に向けさせるように配置されている」


「船と同じですね。サービスで気持ちよくさせて、その先に賭技がある」


「ああ……導線が見事だが、だからこそ気になる。誰がどんな意図で、これを設計したのか。ただのゲーム的な演出なのか、それとも……」



 日が傾き始めていた。初日はここまでだ。


 明日は他の区画を回る。七つのうち、まだ一つしか見ていない。


 トワは島の道を歩き始めた。足跡が光って残っていく。


 常世島、一日目。


 まだ何もわからない。だから、歩く。いつも通り、これが旅人の始め方だ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ