〈星の牙〉
港町を出て、内陸に歩き始めた。
新大陸アストラムの風景は、これまでのBCOとは全く違った。
木々の葉が光っている。地面に埋まった鉱石が、夜空のように瞬いている。空には二つの月──いや、月ではない。巨大な星が二つ、空の低いところで輝いている。
「月が二つ──?」
「ちがうよ。あれは、星」リーリアが隣を歩いていた。
「この大陸の空には、低い星が二つある。わたしたちは、あれを『双子星』と呼んでる」
「星が低いところにある。──表の世界にはない現象だ」
「あなたの世界にはないの? ……ふーん、変なの」
「お前の世界の方が変だと思うが」
「失礼ね」
リーリアはずけずけ物を言う少女だった。グランの飄々とした態度とも、ヴィアの老練な温厚さとも違う。年相応の──素直さ。
セレスはまじまじとリーリアを観察していた。
「リーリア、いくつ?」
「十四」
「セレスは、せんさいいじょう」
「千歳以上……見た目は手のひらサイズなのに」
「みためとなかみは、かんけーない」
「それはそうだけど……」
内陸に入ると、モンスターが出現した。
草むらから飛び出してきた。四足獣。狼に似ているが、体表に星の光が散らばっている。シロとは全く違う。シロは白い光だが、こいつは──星の光。七色に変化する光。
【星牙狼 Lv88 HP:95,000 ──敵対】
「シロと似てるけど、全然違うな」
星牙狼は見境成しに、トワに飛びかかってきた。
トワが剣で受けた。──火花が散る。
続けざまに剣を振るが……ダメージが、おかしい。
【トワの攻撃:14,000(通常の50%)】
「ダメージが半分──!?」
「属性が噛み合っていないんだ。──星属性のモンスターに、既存の属性攻撃は半減する」
影銀に切り替えた。
【影銀形態の攻撃:7,000(通常の25%)】
「影銀はさらに効かない──!」
「夜銀は? トワ、わたしの力を使って」
「ああ……そうさせてもらう!」
夜銀形態に切り替え。紺色の刃。
【夜銀形態の攻撃:21,000(通常の75%)】
「夜銀が一番マシだが、それでも75%か」
「星属性は──光でも、影でも、夜でも、闇でもない。どの属性にも完全には対応していない」
見聞録で星牙狼を解析する。──パターンは読める。星属性だろうと、行動パターンは存在する。
「弱点は──腹の下。星の光が集まっている場所。光点の密度が最も高い箇所が、最も脆い」
星牙狼の突進をサイドステップで回避。腹の下に潜り込み──夜銀の剣で光点の集中部位を斬った。
【弱点攻撃:63,000(通常の225%)】
「弱点を突けば、二倍以上──!」
「属性耐性は高いが、弱点部位は通常モンスターよりも通りやすい仕組みか。──弱点を見つけて、一撃で仕留める。それが、星属性モンスターの攻略法だ」
星牙狼のHPを削りきった。
光の粒子──ではなく、星の粒子になって散った。星屑が地面に降り注ぐ。
【星牙狼を討伐しました】
【ドロップ:星牙の欠片(新素材)】
【ドロップ:星の粉(新素材)】
「新素材──!」タマキが拾い上げた。「星牙の欠片と星の粉──これ、何に使えるんだろう」
「リーリア。この素材、知ってるか」
「知ってるよ。星牙の欠片は武器に混ぜると星属性が付く。星の粉は料理に入れると、星のバフがもらえる」
「星のバフ──!? 何の効果ですか!?」タマキが食いついた。
「全属性耐性が少しずつ上がる。どの属性にも偏らない、万能型のバフ」
「万能型──! それ、【深淵】の対策にもなるかもしれませんね!」
◇
続けて遭遇するモンスター。
【星角鹿Lv89 HP:88,000 ──非敵対】
大きな鹿。角に星の光が灯っている。──セレスの覚醒形態に似ているが、色が違う。銀ではなく、虹色。
「非敵対──鹿型は友好的なのか」
「この大陸の鹿は、『星の使者』と呼ばれてるの。間違っても、攻撃しちゃダメよ」リーリアが注意した。
セレスが覚醒形態になった。──銀の大鹿が、虹の星角鹿と向かい合う。
星角鹿が、頭を下げた。セレスに敬意を示すように。
「セレス、星角鹿に認められてる」
「セレスはせーれーの長。しかは、セレスをそんけいする。どこのくにでも」
「お前のその自信はどこから来るんだ」
「じしん、じゃない。じじつ」
「俺の真似をするな」
「真似じゃない、じじつ」
「まあ……いいか」
星角鹿がセレスの角に、鼻先を触れさせた。銀色の角に、虹の光が移った。
【セレスティアが「星角鹿の祝福」を受けました】
【効果:星属性耐性+20%。星属性攻撃力+15%】
「セレスちゃんに星のバフが──! 鹿同士の挨拶でバフがつくの!?」
「セレスはとくべつ、おさだから」
「長って便利ですね……」
リーリアが感心したようにセレスを見ていた。
「あなたの精霊──すごいね。星の使者が自分から祝福を与えるなんて、滅多にないよ」
「セレスはすごい、いちばんすごい」
「それ、自分で言うの?」
「じぶんでいう、だれもいってくれないから」
「俺は言ってるだろう」
「トワはいってくれる、でも、もっといってほしい」
「欲張るな。まったく……セレスは十分すごいぞ」
「えへへ……もっとほめて、なでて」
トワたちが新エリアの探索に時間を注ぎ込んでいる中、
フォーラムでは新大陸の情報交換が盛んに行われていた。
──「新大陸のモンスター、既存属性が半減するぞ。攻略法が、全く違う」
──「弱点を突けばダメージ倍以上。見聞録持ちが圧倒的に有利だな」
──「つまりトワさんゲー」
──「いつもそうだろ」
──「いや、違うな。弱点が分かりさえすれば、初心者でも倒せる設計になってるんだ」
──「推奨レベル帯が全てって、そういうことか」
──「20Lvの俺でも、90Lvのモンスターが倒せた。まじで楽しい」
──「そう言われると、神調整な気がするな」
──「ちなみに星の粉で、万能バフ料理が作れるらしい。薬師プレイヤー歓喜」
──「セレスちゃんが星角鹿にバフもらってたところを見たぞ。鹿のネットワークすごいな」
──「鹿のネットワークって何だよ」
──「鹿にもここみたいなフォーラムがあったりするのかもな」




