〈旅人を知らない大陸〉
半日の航海を経て、新大陸アストラムの港が見えてきた。
白い砂浜と、ヤシのような木。木の葉は、葉脈に沿って淡い星の光が走っている。植物にまで星の力が宿っている。
【新大陸アストラム・星灯港に到着しました】
【アストラム踏破率:0.0%】
踏破率ゼロ、また一歩目から。もう何度目かわからないが、この表示を見るとなぜか胸が高鳴る。
港町に降り立った。──すぐに、違和感があった。
NPCの住人たちがトワたちを見て、首を傾げている。
「あなたたち、外から来たの? 海の向こうから?」
「ああ」
「珍しいわね。その装備、見たことない。あなた、何の仕事をしているの?」
「旅人だ」
「旅人? ──何それ?」
トワが一瞬、固まった。
「旅人を、知らないのか?」
「知らないわ。そんな仕事、この大陸にはないもの。──歩いて、何をするの?」
「歩いて、世界を見る。モンスターを知る。人と話す。それが旅人だ」
「変わった仕事ね。──まあいいわ。ようこそ、アストラムへ」
【星灯港の住人の友好度:0/10】
ゼロからのスタート。表の世界でも、ソルシアでも、ルミナリアでも、「旅人」という概念はあった。だがここでは、旅人が通用しない。
「旅人という職業自体がないんです……」ハルが驚いた。
「この大陸には、旅人の歴史がないんだ。グランもノクスもカレンも知らない。ゼロからだ」
「ゼロから友好度を築く……トワさんの得意分野ですね」タマキが笑った。
「得意かどうかは知らないが、やるしかない」
港町を歩く。石畳ではなく、サンゴを敷き詰めた道。建物の屋根に星の紋章。空気が表の世界とも、ルミナリアとも違う。潮の匂いと、甘い花の匂いが混ざっている。
市場があった。見たことのない食材が並んでいる。星の光を帯びた果物。虹色に光る魚。
「タマキ──新しい素材だ」
「はい! どれも見たことがありません……ここに、新レシピの可能性が──!」
タマキの目が輝いている。薬師にとっては宝の山のようだ。
「この果物、噛むと光るんですか?」タマキが露店の店主NPCに聞いた。
「ああ、『星果実』だ。食べると身体が一晩光るよ」
「身体が光る果物──!?」
「この大陸じゃ普通だ。お嬢さん、よそから来たのかい?」
「はい。海の向こうから。──あの、この果物一つください!」
「いいよ。ただし食べたら光るから、夜道で目立つぞ」
タマキが星果実を買った。一口齧ると──タマキの手が、淡く光り始めた。
「うわっ──本当に光ってる! 手が!」
「タマキ、ひかってる」セレスも目を丸くした。
「これは──薬に使えるかも。生体発光の効果……光耐性じゃなくて、自己発光……応用の幅が広がります……!」
「タマキさん、薬師モードに入ってますよ」ハルが笑みを浮かべた。
「ごめんなさい、つい……でもこれ、本当にすごいです!」
手が光ったまま興奮しているタマキを放置して、トワは港町の奥に歩いていった。
小さな広場に、少女がいた。
白い髪。額に星の紋章。──NPCだ。空を見上げている。
「あなた──海の向こうの人?」
「ああ」
「空を見て。──星が動いてる。普通じゃない動きをしてる。あなたが来たから?」
「俺が来たせいで、星が動くのか?」
「わからない。でも、あなたが降りた瞬間から、星の位置が変わった」
少女がトワを見つめた。星のような瞳。
「わたし、星読みのリーリア。──あなたの名前は?」
「トワ。──旅人だ」
「旅人? 何それ?」
「知らないか」
「知らない。──でも、星が教えてくれた。今日、海の向こうから、この大陸を変える人が来るって」
【隠しNPC「星読みのリーリア」と遭遇しました】
【友好度:0/10】
隠しNPC。──グラン、ヴィア、マーサと同じ匂い。この大陸の鍵を握る存在。
「トワさん。星が動くとか、大陸を変える人とか……なんだか、裏がありそうな話ですけど……大丈夫なのでしょうか?」タマキが追いついてきた。手がまだ光っている。
「大丈夫、いつものことだ」
「いつものことって言い切るのすごいですね……」
セレスがリーリアを見ていた。
「トワ。このこ──ふしぎ。ひかりでも、かげでも、よるでも、やみでもない。──ほしのちから?」
「星の力……新しい属性だ。きっと、この大陸にしかないものだろう」
「あたらしいぞくせい。──セレスも、もらえる?」
「お前は月属性だろう」
「つきとほしは、なかよし。──だから、もらえるかもしれない」
「もらえるかどうかは、歩いてみないとわからない」
「じゃあ、あるく」
新大陸アストラム。星の力。旅人を知らない大陸。──全てが新しい。
踏破率0.0%の地図を、また一歩ずつ埋め始める。




