表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブレイブ・クロニクル・オンライン ~全員が捨てた初期職を7000時間やり込んだら、Lv1で最強になっていた~  作者: ぶらっくそーど


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

142/409

《アルヴァの手記》


 本棚の回廊を抜けた先に──古い木の扉。鍵穴が手のひらの形をしている。



「この奥が、師匠の私室だ。手形認証。──本人の魔力パターンで開くのだ」カレンが言った。

「ほう……本人がいなければ開かないと。だ、そうだが、どうするトワ?」とゼクス。

「普通は厳しいだろうな。それでも、俺たちにはやりようがある」



 トワが見聞録で鍵穴を解析した。手のひらの形だけでなく、魔力パターンを認証している。



「カレン……お前は師匠の弟子だった。修行で、何度も魔力に触れてきたはずだ」

「ああ、千年前は毎日のようにな」

「なら──記憶干渉の第三段階で、お前の身体に刻まれた師匠の魔力パターンを引き出す。それを鍵穴に流し込む」

「できるのか?」

「やったことはない」

「毎回それだな」

「旅人はいつもそうだ」

「名言っぽく聞こえるが──要するにぶっつけ本番か」

「そうだ、ただのギャンブルだ」




 トワがカレンの手に触れた。記憶干渉──第三段階。千年前の記憶が浮かぶ。師匠の手が、弟子の手を取り、魔力の流し方を教えている。



 そこに──魔力パターンがあった。千年経っても、消えていない。



「あった。──手を出せ」



 カレンが扉に手をかざした。



【認証──承認】




 扉が、開いた。




    ◇




 小さな部屋。机、椅子、本棚。カレンの書斎に似ている。



「師弟は部屋の趣味まで似るんですね」タマキが見回した。

「いや、私が師匠の真似をしたんだ」



 机の上に一冊の手記。革表紙。




【手記を発見しました】




 トワが開いた。最初のページ。




【「わたしは旅人だ。世界の全てを歩いた。──だが、まだ足りない。世界には、もう一つの底がある」】



 次のページ。



 【「深淵は『世界が分かれる前の残骸』だ。三つの層は、元々一つだった。分離しきれなかった部分が──深淵として残った」】



 オーレン、もとい親友の蓮が手記を覗き込んだ。いつの間にか、彼も到着していた。



「蓮、いつ来たんだ?」

「一時間前、裏口から入った」

「裏口があったのか?」

「へへっ。考古学者は、裏口を見つけるのが仕事だからな」

「お前は大学二年生だろ」

「おう、歴史に詳しい大学生だ」

「じゃあ……まあいい。この記録を、読んでみろ」



 蓮が手記の地図ページに目を走らせた。三層構造の透視図。三つの層が一点で交わっている。



「この交点──始まりの町だ。リベルタの直下」

「始まりの町の下に、【深淵】への入口が──?」




 手記の最後のページ。字が乱れている。




【「深淵に触れた。意識が変わるまで、およそ一時間。それを超えると戻れなくなる」】



 そして最後の一行。署名。



【「──この手記を読んでいるなら、わたしを止めてくれ。まだ間に合うならな。──アルヴァ」】




 アルヴァ。──手記の署名に、名前があった。

 カレンが手記を見つめたまま、固まっていた。




「アルヴァ……【堕ちた旅人】……いや、師匠の名前だ」



 部屋の壁に、黒い染みが走った。名前に闇が反応した。すぐに消えたが──全員がそれを見た。




「【闇】が反応した。名前を呼ぶと【闇】が応える──ノクスが名前を消した理由はこれだ」


 ゼクスが壁を睨み付けた。



「だが、手記に書いてあった以上、消しようがない。この名前は──もう、わたしたちが知っている」



 カレンが手記を閉じた。手が震えている。



「師匠は──研究者だった。自分が変わっていくのを、最後まで記録し続けた。そして──助けを求めていた。『止めてくれ』と」

「かつて、お前が聞くべきだった言葉だ」

「ああ……後悔はしている。それでも、今ようやく聞けたのだ」



 トワは手記を、アイテムストレージに入れた。



「入口の場所がわかった。制限時間もわかった。条件も、名前も。──あとは、行くだけだ」

「すぐに行くのか?」

「いや……まだ早い。制限時間は一時間。【深淵】の中でアルヴァを見つけて、【闇】を祓って、連れ戻す。一時間で全てをやる……準備が足りない」

「何が足りないんだ」ゼクスが聞いた。

「情報だ。【深淵】の内部がどうなっているか、手記にもほとんど書かれていない。手探りで六十分は、あまりにも短い。それに──」



 トワが付け加えた。



「そもそも、入口が開くかどうかもわからない。アルヴァの手記には条件が書いてあるが、今のBCOのシステムにその条件が実装されているかは、別の話だ」

「未実装、ということか……?」ゼクスが聞いた。

「裏世界もそうだった。ソルシアはサービス開始二年目で発見された。元からあったのか、アップデートで追加されたのか──プレイヤーには区別がつかない。【深淵】も同じだ。手記に書いてあるからといって、今すぐ行けるとは限らない」



 ゼクスが腕を組んだ。



「確かに、ゲームには実装タイミングがある。運営がまだ【深淵】を開放していない可能性も」

「ああ──焦っても仕方がない。やれることをやって、歩ける場所を歩いて──条件が揃うのを待つ」



 一同が沈黙する中――

 全プレイヤーの視界に、システムメッセージが表示された。



 赤ではない。──金色の枠。BCOの運営からの公式告知。





【──BCO大型アップデートのお知らせ──】



【ver3.0「新大陸・星渡りの海の彼方」実装決定】

【新たな大陸が発見されました。表の世界の海の向こうに──未知の大地が広がっています】

【新エリア、新モンスター、新NPC、新クエスト、新素材──冒険の全てが、ここにあります】



【実装日:来週月曜日】




「このタイミングで、大型アップデート──!?」タマキが声を上げた。

「新大陸──!?」ハルも思わず声に出した。



 この時、全員が見ることのできる『全体チャット』では、凄まじい勢いでログが流れていた。




 ──「新大陸きたああああ!!」

 ──「ver3.0!! 大型アプデ!!」

 ──「星渡りの海の彼方──名前がかっこいい」

 ──「表の世界の海の向こう!? 今まで、海の先に何もなかったのに!」

 ──「新エリア! 新モンスター! 新NPC!!」

 ──「【深淵】の前に新大陸か。運営、わかってるな」

 ──「トワが行く前に新コンテンツを用意するスタイル」




 トワは、金色のシステムメッセージを見つめていた。

 新大陸。未知の大地。まだ誰も歩いていない場所。



「トワ──行くのか?」カレンが聞いた。

「【深淵】の準備に、新大陸の情報が役立つかもしれない。世界にはまだ、俺の知らないことがある」

「旅人らしい答えだな」

「ああ……セレス、新しい場所だ」

「あたらしいばしょ! ──モンスター、いる?」

「いるだろうな」

「おやつ、ある?」

「知らない。行ってみないとわからない」

「いく! ──おやつがあるかもしれないなら、いく!」

「動機がそれか」

「セレスのどーきは、いつもおやつ」



 ルーナが影の中から言った。



「わたしも……新しい場所、行きたい。──影の中からだけど」

「新大陸なら、夜がある国かもしれないぞ。ルーナが外に出られる場所が」

「……本当?」

「行ってみないとわからない。──だから、行こう」



 ゼクスが短剣を弄びながら言った。



「【深淵】の前の寄り道か。──悪くない。新大陸の暗殺者ギルドがあれば覗いてみたいしな」

「アストレアは?」

「新しい聖騎士の歴史があるかもしれません。──行きます」

「タマキはどうする」

「理由がなくても、もちろん行きます!」

「カレン」

「行かない理由がない……と言いたいところだが、私はこの国を出ることはできない。トワたちの旅を、聖王国から見守っているよ」



 やはり付き添いの精霊ではなくNPCのカレンでは、ゲーム上の誓約があるのだろう。

 しかし、彼がいなくとも約束は変わらない。

 

 トワたちはカレンと握手を交わし、墓所を出て行った。


 もうすぐ、大型アップデートがくる。

【深淵】は逃げない。アルヴァも、千年待ったのだから──もう少しだけ待ってくれるだろう。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ