《70lvへの道》
月曜日。ログイン。
聖都ルクスは、すっかり賑わいを取り戻していた。
記憶を取り戻した住人たちと、プレイヤーたちが日常的に交流している。
鍛冶工房の前には朝から行列。ガルドが新作武器を追加するたびに、フォーラムが沸く。
──「ガルドさんの新作『曙光の大剣』、ATK+950で光属性付与。今んとこ最強武器じゃないか」
──「パン工房のミニゲームで品質Sを出すと限定称号もらえるぞ。『焼きたてマイスター』」
──「花園で育てた精霊強化の花をセレスちゃんにあげたい。あげられるのかな」
──「トワ経由で渡すしかないだろ」
──「トワに頼むのハードル高すぎる」
──「直接話しかけたら『花は受け取る。セレスに聞いてみる』って言ってくれたぞ」
──「意外と優しいな」
──「意外とって何だ。トワさんは元から優しいだろ」
トワは聖都の大通りを歩いていた。セレスが肩の上でエリーのパンを齧っている。朝のルーチェのパン。日課になりつつある。
「トワ。エリーのパン、きょうはちょっとしょっぱい」
「塩加減が変わったのか」
「ちがう。きのう、セレスがエリーに『しょっぱいのもたべたい』っていったから」
「お前のリクエストか」
「うん。エリー、セレスのいうこときいてくれる。やさしい」
「お前……NPCに注文つけるなよ……」
「ちゅーもんじゃない。おねがい。おねがいと、ちゅうもんは、ちがう」
「どう違うんだ?」
「おねがいは、ただ。ちゅうもんは、おかねがかかる」
「つまり、タダで食べたいだけじゃないか」
「……えへへ」
ごまかされた。
◇
カレンが聖都の中央広場のベンチに座っていた。旅人の服。手に本を持っている。──大聖堂の書庫から持ち出した古い歴史書だ。
その周りにプレイヤーが三人、地面に座って話を聞いている。
「──それで、ルミナリアの第三代聖王アリスティアは、光の峡谷のモンスターを鎮めるために独自の聖光術を編み出したんだ。その聖光術の残滓が、今の光蠍の光線攻撃のルーツになっている」
「えっ、光蠍のビームって、聖光術がルーツなんですか!?」
「ああ。元々は防衛兵器だった。それがモンスターに取り込まれて──」
「カレンさんの歴史講座、めちゃくちゃ面白いです……!」
「フォーラムにまとめてもいいですか!?」
「好きにしてくれ。誰にも話せなかった知識だから、聞いてくれるだけでありがたい」
カレンが自然にプレイヤーたちと交流している。
トワがベンチの横を通り過ぎた。
「カレン。人気者だな」
「人気者ではない。暇を持て余している元聖王が、知識を垂れ流しているだけだ」
「それを人気者という」
「なるほど……だが、悪い気はしないな」
◇
プレイヤーたちと交流した後、カレンを連れてレベリングに出た。
カレンのレベル上げは、予想以上に賑やかだった。
フォーラムに「手伝いたい」という投稿が殺到し、聖光の森には毎日二百人以上のギャラリーが集まっている。
「カレンさん! 光蠍の群れ、引っ張ってきました! どうぞ!」
「まてまてまて、わたしに向かって走ってくるな!」
【カレン HP:850/850 → 412/850】
「タマキ!」
「回復──! って、今日だけで何回してるんですか!?」
「数えない方がいいぞ、心が折れる」
Lv40を超えた辺りから回避がまともになった。
Lv50で聖光の森では経験値効率が落ち、光の峡谷に移動。
「俺が全部倒す。カレンは後ろで経験値をもらえ」
光の峡谷。新モンスター三種。
【光の岩蟹 Lv97 HP:140,000】
【光の峡谷蛇 Lv96 HP:110,000】
【光の断崖鷲 Lv98 HP:160,000】
トワが走りながら──岩蟹を槍でひっくり返して腹に三連斬。峡谷蛇を温度センサーで見つけて弓で射抜く。断崖鷲の着地硬直に首を刈る。三種を途切れなく処理していく。
「……化け物め」カレンが後方で呆然としていた。「私の全盛期でもああはいかない」
ギャラリーが峡谷の上から見物している。
「三体同時処理って何事?」
「後ろでカレンさんが、ポカーンとしてるの面白い」
「経験値シャワーでみるみるレベル上がっていくな……シュールすぎる」
Lv65。68。69──
そしてカレンが自ら光蠍に斬りかかった。見聞録で弱点を読み、腹側に回り込んで剣を振る。ぎこちないが……当たった。
【カレンが光蠍を討伐しました】
「見ろ、カレンさんが自力で──!」
ギャラリーが沸いた。
「はっはっは……どうだ、トワ」
「遅いな。特に、間合いが半歩遠い。連続攻撃だが、二撃目と三撃目の間に隙がある」
「くそぅ……手厳しいな」
「お前を甘やかす理由がないからだ」
「師匠にもそう言われたよ。──懐かしいな」
「それでも、敵に当たった。今はそれでいいだろう」
「ありがとう、トワ」
【カレン Lv70達成】
【隠しクエスト「深淵への手がかり」──第一段階クリア】
【第二段階:聖光の地下墓所に到達せよ】
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