《聖都の夜》
カレンとの対話から翌日。
あの後、トワたちは強制的に大聖堂から追い出されて、聖都に戻っていた。
【イベントのクールタイム中です。一日時間を置いて下さい】
システムメッセージが表示されている。一気に進めることはできないようになっているようだ。
カレンとの対話はいまはできず、今日はやむなく聖都を巡ることに
しかし、聖都を歩いていると、街の空気が変わっていたことに気づいた。
プレイヤーが増えている。大聖堂の管理システムが正常化したことで、聖都内の自動防衛が停止し、プレイヤーが安全に街を歩けるようになった。
パン屋のエリーの前には、いつも通りの行列。
「トワさん! 大聖堂クリアしたんですよね!?」
行列の中のプレイヤーが声をかけてきた。
「クリアというか、暴走を止めただけだ」
「いやいや、あの『セラフ』を倒したんでしょ!? 推奨二十人のボスを、四人で!!」
「二人と二精霊だ」
「いやいや、もっとやばいだろ!?」
隣のプレイヤーが割り込んできた。
「ねえねえ、大聖堂の中に入れるようになりましたか?」
「管理システムが正常化したから、試練はまだ残っているが、安全にはなったはずだ」
「試練──力の試練と知の試練ですよね。フォーラムで話題になってます。知の試練の謎が面白いって」
「光は何色か、のやつ? 金色って答えるのが正解らしいけど、白でも通るって報告が上がってるぞ」
「マジ? 複数正解なのか」
「カレンが認めた答えなら通る、って仕組みらしい」
大聖堂の試練が、プレイヤーコンテンツとして機能し始めている。力の試練は腕試しとして、知の試練は謎解きコンテンツとして。
フォーラムを確認してみると、実際に攻略情報が飛び交っていた。
【攻略】大聖堂・力の試練まとめ【五連戦ソロバトル】
──「第五戦の聖光の旅人が鬼強い。全武器切り替え0秒。トワのコピーかと思った」
──「コピーじゃなくてカレンの旅人時代のデータらしい」
──「カレンが旅人だったって、マジかよ」
──「マジ。大聖堂のステンドグラスに、カレンの旅が描いてある。必見」
──「ステンドグラス見てきた。最後の絵で泣いた。こんなストーリーのゲームだったのかBCO」
──「運営は天才か泣かせにきてるのか」
【考察】カレンの過去と「堕ちた旅人」について
──「トワがカレンと対話したらしいけど、内容はまだ非公開だな」
──「カレンが元旅人なのは確定。ステンドグラスで見た」
──「【深淵】に触れたのはカレンじゃなくて、カレンの師匠らしい」
──「師匠って誰だ?」
──「誰にもわからない。名前が消されてる。ノクスが消した」
──「伏線が深すぎる。BCOの世界、三層構造だったのか」
──「表の世界→ソルシア→深淵。で、深淵にはまだ誰も行ってない」
──「トワがそのうち行くだろ。あいつは全部歩く男だ」
◇
夜。ミコトが聖都で配信をしていた。
聖都の大通りを歩きながら──NPCのエリーのパン屋を映している。
『皆さん、今日はルミナリア聖都のグルメレポートです! エリーさんのルーチェのパン、もう食べました? 光耐性バフがつくんですよ。──そしてなんと、タマキさんが新レシピで光砂のスープも販売開始! パンとスープのセットで砂漠攻略が、段違いに楽になります!』
コメント欄が流れている。
> エリーさん可愛い
> パンうまい。リアルで食べたい
> タマキさんの薬、いつも助かる
> ミコトちゃん今日も可愛い
> トワさんは?
> トワは大聖堂でカレンと話してるらしい
> 今日もいい天気ですね!
> おいやめろ、それは俺のトラウマだぞ
『トワさんは今、大聖堂でカレン王と……えっと、対話していたようです。色々と前提条件を満たす必要があるので、わたしは入れませんが……外からレポートすることはできます!』
> ミコトちゃん寂しそう
> 今回は一緒に連れてってもらえなかったもんな
> いや、単純にトワさんのこと好きなんでしょ
> ↑やめろ
『ちょっ──何の話ですか!? わたしはあくまでも配信者として、客観的に──!』
> 顔赤くなってるぞ
> わかりやすすぎて草
> ミコトちゃんがんばれ
> トワさんは鈍感だからな……
『もう! この話題は禁止です! はい次! ──えっと、聖都の武器屋さんがですね、友好度を上げると聖光の武器を鍛えてくれるようになるんですよ。これがまた性能が──』
強引に話題を変えたが、コメント欄はしばらく「ミコトちゃんがんばれ」で埋まっていた。
◇
その夜。聖都に──変化があった。
ルーナが聖都の中心広場で、夜を展開した。いつもの半径五十メートルではない。カレンの大聖堂の管理システムが正常化したことで、聖都全体のエネルギーバランスが変わり──ルーナの夜が、広く展開できるようになった。
半径──五百メートル。聖都の中心部が、夜に包まれた。
空に星が浮かんだ。セレスの銀月が昇った。
「トワ──! 見て──!」
ルーナがトワの影から飛び出していた。──影の外に。
聖都の夜の中なら、ルーナは影から出られる。紺色の髪の小さな精霊が、夜空の下で、初めてセレスの隣に立っていた。
「ルーナ! そとにでた!」セレスが飛んでルーナに抱きついた。
「出られたよ! 夜があれば、自由に外にも出れるの!」
二人の精霊が夜空の下で手を繋いでいる中、プレイヤーたちも、夜の聖都を見上げていた。
「夜だ──! 聖都に夜が来た!」
「星がある! 月がある!」
「おいあれ……噂のルーナちゃんじゃね?」
「はじめて見たな……影の外に出てる! 可愛い!」
「二人の精霊が手繋いでる……尊い……」
プレイヤーたちの歓喜の声が飛び交う。
トワは大聖堂の窓を見ていた。そこには、昨日話した彼――カレンが。
「どうだ、夜は久しぶりだろ、カレン」
トワの言葉に応えるように、カレンは窓の向こう側で笑っていた。




