《光の生態系》
月光のオアシスを拠点にしながら、光の荒野の探索を続けた。
この頃、トワが新エリアを開放したことで、続々とプレイヤーたちが姿を見せていた。配信者のミコトや見知ったギルドの面々、初心者プレイヤーから熟練者まで、様々だ。
白い砂漠のあちこちで、プレイヤーたちが光蠍に撃たれて悲鳴を上げたり、蜃気楼の巨人に攻撃がすり抜けて困惑したりしている。新エリアの洗礼だ。
「トワさーん! この蠍、倒しても回復するんですけど!?」
見知らぬプレイヤーが遠くから叫んでいる。
「夜にすれば回復が止まる。今は俺たちにしかできないが、そのうち対策アイテムが出るだろう」
「夜――夜ってなんですか!?」
トワの攻略法を見て、先行プレイヤーたちが手探りで新エリアに挑んでいく。が、新しく入ってくるプレイヤーたちは誰もが苦戦していた。
ルミナリアのモンスターは──表の世界やソルシアとは根本的に生態系が違った。
【光蠍Lv92】──砂の中に潜み、光の針ビームを撃つ。昼は回復力が高い。
【光蛇Lv93】──白い砂蛇。身体が透明で砂と見分けがつかない。温度センサーで発見可能。
【陽炎の巨人Lv95】──砂漠の蜃気楼が実体化したモンスター。殴っても蜃気楼なのですり抜ける。本体は地面の影だが──影がない世界では本体が見えない。
「陽炎の巨人、全然当たらないんですけど!」
「ハル、これは蜃気楼だ。目に見える巨人は幻影。本体は──」
「影ですよね? でも、この国に影はないんですよ!」
「ルーナ」
「うん! 夜を作れば、影が生まれる。影が生まれれば、本体が見える」
ルーナが夜を展開。蜃気楼の巨人に──影が生まれた。足元に小さな黒い染み。それが本体だ。
「影が本体。──影銀で、斬る」
影銀の刃が蜃気楼の本体──影を斬った。巨人が崩壊する。
【陽炎の巨人を討伐しました】
【ドロップ:蜃気楼の核(希少素材)】
「このモンスター、ルーナの夜がないと本体が見えないんですね」タマキがメモを取っている。
「ルミナリアのモンスターは、光の国に適応している。倒すには、光の生態系を理解して、逆手に取る必要があるんだ」
トワたちが率先してフィールドを攻略していくが、ほとんどのプレイヤーは未知のモンスターに翻弄され、なかなか思うように攻略が進まない。
フォーラムでは考察班が盛り上がっていた。
──「ルミナリアのモンスター情報まとめ。光蠍、光蛇、陽炎の巨人。全て光属性。昼に回復する」
──「ルーナの夜で弱体化させる前提のバランスなのか? ルーナがいないプレイヤーって、どうするんだろう」
──「ルミナリアに行ってみたけど、光蠍に一撃で溶かされた。推奨Lv90以上だろこれ」
──「蜃気楼の巨人が殴れないんだが? 攻撃がすり抜けるぞ、バグか?」
──「バグじゃない。ミコトの配信見ろ、トワが映ってる。夜属性で影を作って、本体を出すんだよ」
──「夜属性なんて、どうやって手に入れるんだ?」
──「ルーナっていう精霊がいないとダメらしい。でもあれ、トワ専用じゃないか?」
──「今のところ夜属性を使えるのはトワだけだけど、流石に何か対策アイテムがあるはず。夜属性の消耗品とか、探したら絶対見つかる。運営もそこまで鬼じゃない」
──「つまり現状は、トワの配信を見て生態系を学んでから行けってことか」
──「トワが攻略情報を無料配信してくれてる最高の環境だぞ。感謝しろ」
◇
探索もいったん休憩。オアシスに帰ると、タマキが光の荒野で採取した素材を調理し始めた。
「光蠍の針と白砂の結晶と──オアシスの果物を組み合わせると──」
マーサに教わった調合技術の応用。光の食材は表の世界にはない。新しいレシピが必要だ。
タマキが鍋をかき混ぜている。セレスが鍋を覗き込んでいる。
「いいにおい」
「でしょ? 光蠍の針って、砕くと甘い粉末になるんです。これをスープに混ぜると──」
【タマキが新レシピ「光砂のスープ」を開発しました】
【効果:飲んだ者の光耐性+30%。持続時間30分】
「わあ……光耐性! 師匠、タマキさん、この砂漠で活動するのが楽になりますね!」
「トワさんの【道具通】で効果が倍になるから──光耐性60%、持続一時間」
タマキの料理がルミナリア攻略の鍵になる。光の国では、光耐性が最重要ステータスだ。
「タマキ、すごい」
「えへへ……マーサさんに教わった応用です」
「お前はどんな世界に行っても、薬と料理で道を切り開くな」
「トワさんが歩いて道を見つけて、わたしが薬で道を整える。──いつも通りですよ」
ヴィアが横で見ていた。
「ほう。薬師が光の食材を調理するとは──昔のルミナリアの薬師と同じだな」
「ルミナリアにも薬師がいたんですか?」
「いたとも。──光の食材を使った薬は、ルミナリアの医療の基礎だった。カレンが王になる前は──旅人と薬師が協力して、この国を支えていたんだ。まるで、トワとタマキのようにな」
名前を挙げられたトワとタマキは、ふと顔を見合わせる。
「……似てるって言われちゃいましたね」
「偶然だろう」
「いいや、偶然ではない。旅人は歩いて道を見つける。だが、道には毒もあれば病もある。それを治すのが薬師だ。──旅人が遠くまで歩けるのは、薬師が隣にいるからだ。今も、昔も」
嬉しそうに微笑むタマキ。
トワの肩に乗っているセレスは、目つきが細くなっていた。
「セレスが、いちばん、となりにいるのに」
「お前は肩の上じゃなくて、隣じゃないか?」
「かたは、となりよりうえ! いちばんちかい!」
「だ、そうだが……」
「大丈夫ですよ、わたしはどんな場所でも、ずっとおそばにいますから」
「それって、どういう意味だ?」
「さあ、どういう意味なのでしょうね」
「タマキ、セレスの、らいばる」
「ええ、負けませんよ。セレスちゃん」
「いったい何の戦いなんだ……?」
「ほっほ──いい旅の仲間だな。うらやましいよ」
冬夜はオアシスの天井を見上げた。地下なのに──ルーナの夜空が広がっている。星が瞬いている。セレスの銀月が浮かんでいる。
ここが──ルミナリア攻略の、最初の拠点だ。




