夜の子
光の檻を開ける方法を考えなければならない。
「アストレア。第四位階の祈りで、この檻を解けるか」
「……やってみます」
アストレアが檻に手を触れた。第四位階──【解く祈り】。金色の光が檻に流れ込む。
──弾かれた。
「ダメです……楔の封印とは違います。これは、カレンが直接作った装置──位階で上書きできる相手じゃない。聖王の権限で作られたものは──聖王の権限でしか、解除できません」
「つまり──カレンの許可がなければ、開かないのか」
ゼクスが舌打ちした。
光の眼が赤く点滅している。カレンは、今も見ている。
冬夜は光の眼に向かって、話しかけた。
「カレン……見ているんだろう。この檻を開けたい。中にいるのは──セレスの仲間だ。六人目の精霊。闇に飲まれているが──助けられるかもしれない」
沈黙が続く。光の眼が点滅するだけで、返答がない。
「トワさん。お返事がないです……」
タマキは不安そうだ。
「カレン。お前がソルシアを封印した理由の一つが、この闇だったんだろう。──だが、封印は解けた。闇は、目覚め始めている。この精霊を檻に閉じ込めたままでは──闇は止まらない」
また沈黙かと思われたが──声が聞こえた。
光の眼から。小さな、遠い声。
「……旅人。お前もまた──闇にも手を出すのか」
カレンの声だ。光の神殿で聞いた声と同じ──疲れた、苦しそうな声。
「手を出すとか、出さないとかじゃない。仲間を助けるのに、見て見ぬふりはできないだろ」
「闇に触れた者は変質する。【あの旅人】がそうだった。──お前もそうなるかもしれない」
「ならない」
「なぜ言い切れる?」
「俺は、一人じゃないからだ」
少しの間を置いて、トワが続ける。
「【あの旅人】は、一人で深淵に行ったんだろ。一人で闇に触れた、だから飲まれた。でも俺には、仲間がいる。セレスがいる、ゼクスがいる、アストレアがいる、タマキがいる、ハルがいる、そしてもっと多くの仲間たちが。俺は……一人じゃない」
長い沈黙の後──光の檻が、音を立てた。
格子が、緩んでいく。
「……檻を解こう。だが、条件がある」
「なんだ?」
「あの精霊を救えなかった場合──お前の手で、止めろ。闇に飲まれた精霊を放置すれば、ソルシアどころか、表の世界も危険になる。救えないなら──封じ直せ。お前の手で」
セレスが冬夜の襟を握った。
「セレス、がんばる。だから──トワ、たすけて」
「大丈夫だ。言われなくても、そのつもりだからな」
光の檻が、開いた。
格子が一本ずつ消えていく。白い光が散り……穴が露出した。
底に──いる。
小さな影。黒い髪。蝙蝠のような翼。──でも、身体が闇に浸食されている。手足が黒い霧のようになっていて、顔が見えない。
目が──開いた。
赤い目。闇に染まった瞳。
【闇に堕ちた精霊「???」 Lv??? HP:??? ──敵対状態】
名前が表示されない。闇に飲まれて、名前すら失われている。
精霊が──叫んだ。
声ではない。闇の波動。穴の中から黒い衝撃波が噴き上がり、六人を吹き飛ばした。
「うわっ!!」
「これは──闇の攻撃か!」
地面が黒く染まる。精霊の周囲に闇が広がり、大地を侵蝕していく。
精霊が穴から浮き上がってきた。小さい──手のひらサイズの身体。だが、身体から放たれる闇の圧力が──桁違いだ。
「敵対状態──戦闘になる」
「トワ……よるこをきずつけないで、おねがい」
「わかっている、傷つけないさ。さあ──助けるぞ!」




