光の檻
日曜日。現実。
冬夜は自分の部屋で、ゼミ発表の追加レポートを書いていた。BCOのコミュニティ研究の続きだ。
スマホが鳴った。宮瀬からのメッセージ。
宮瀬:「久坂くん。今夜ログインする?」
冬夜:「する。ソルシアの未踏エリアを歩く」
宮瀬:「わたしも行っていい?」
冬夜:「深い場所に行くから、危険かもしれないぞ」
宮瀬:「薬師が危険な場所に行かなくてどうするの。――行くよ」
最近は、宮瀬から気づかされることが増えてきた。
満足げな笑みを浮かべながら、冬夜はレポートに取りかかった。
◇
夜。ログイン。
ソルシアの踏破率は96%。残り4%──最深部。また別の【闇の穴】がある場所だ。
メンバーは七人。トワ、セレス、ゼクス、アストレア、タマキ、ハル、そして地の精霊テラ。
テラが道案内を買って出た。
「この先に……近づけない場所があるの。案内はするけど……途中までしか行けない」
慎重に、未踏エリアを歩いていく。復元されたソルシアの美しい景色が──徐々に変わっていく。
草が減る。木が枯れる。空気が冷たくなる。色が──褪せていく。封印の白さとも、瘴気の黒さとも違うもの。ただ──色がない。灰色。生気のない灰色。
「ここから先は……行けない。ごめんなさい……」
テラが足を止めた。目に涙が浮かんでいる。
「十分だ。ここまでありがとう、テラ」
「みんな、気をつけて……あの場所は、とても冷たいから……」
テラと別れ、六人で奥に進んだ。
灰色の大地がさらに暗くなる。そして──
見えた。
あの穴。直径三メートルの、底なしの黒い穴。──でも、前の穴とは周りの様子が違った。
穴の周囲に、光の構造物がある。
白い光で編まれた格子。穴を取り囲むように設置された──檻。
【ルミナリアの封印装置「光の檻」を検知しました】
「光の檻……?」
ハルが目を睨むように視線を鋭くしている。
「待ってください」
タマキが声を上げた。
「前に見た穴──西部の高原の穴には、こんなものはなかったですよね?」
冬夜も同じことを考えていた。
「ああ。あっちにはなかった」
「でも、こっちにはある──片方にだけ檻がある、ということは」
「あっちにも、元はあったんだだろう、同じ光の檻が。──だが、壊されていた」
「壊された……? 誰に?」アストレアが聞いた。
「闇そのものが、千年かけて檻を侵食したか――あるいは、【闇の旅人】か」ゼクスが推測した。
セレスが、ぽつりと呟いた。
「……わからない。でも──こわされたほうのあなから、やみがもれてた。ライトにも、だいちにも。こっちのあなは──おりがまもってるから、まだもれてない」
「これは──封印の楔とは別の装置だ」
アストレアが顎に手をやって推測した。
「楔がソルシア全体を封じていたのに対して、これは──この穴だけを封じている」
「【二重封印】か。カレンはソルシア全体を封印した上で、さらにこの穴を封じていた」
「【闇】を──特別に警戒してたってことなのかな」タマキが呟いた。
トワは慎重に、光の檻を観察していく。
よくよく見ると、檻の表面に──とある文字が刻まれていた。
【「この先にあるものに触れてはならない。触れた者は変質する。──聖王カレン」】
カレンの直筆の警告。
そして檻の上部に──もう一つ、光の装置がある。球体。小さな光の球が、ゆっくりと回転している。
【ルミナリアの監視装置「光の眼」を検知しました】
「監視装置──!?」ハルが声を上げた。
「カレンがこの場所を監視している。俺たちがここにいることは──カレンに筒抜けだ」
光の眼が──赤く点滅した。反応している。六人の姿を、遠いルミナリアの聖王に送信している。
セレスが穴の中を覗き込もうとした。
「セレス、近づくな」
「でも──セレス、わかる。よるこが、このなかに──いる」
「なに……? この中に、いるだと?」
冬夜はセレスを抑えて、自分が穴の前に立った。光の檻の格子の隙間から──中を覗く。
底が──見えた。
穴の底には、何かがいる。
小さな──手のひらサイズの影。黒い髪。蝙蝠のような翼。身体を丸めて、膝を抱えている。
眠っている。
あるいは──動けないのか。
「よるこ……」セレスは涙を浮かべながら、「いた、いたよ。ずっと、ここにいたんだね」
千年間。光の檻の中で。闇に飲まれたまま。一人で。
「トワ……よるこを、たすけて」
トワの返事は決まっていた。
「ああ、絶対に助ける」




