冷たい場所
精霊の宴の翌日。
テラが「治せない場所がある」と言った言葉が、冬夜の頭から離れなかった。
封印の瘴気とは違う。もっと冷たくて、もっと深い。──封印を解いても残っている黒い場所。
それは、ソルシアの各地に点在していた。
トワは、テラに案内を頼んだ。
メンバーはトワ、セレス、タマキ、ゼクス。テラが先導する。
ソルシアの西部──封印の白い侵蝕が消え、緑が戻った高原の一角に、それはあった。
地面に、穴が開いている。
直径三メートルほど。穴の中は──真っ黒だ。でも、封印の時に見た【黒い侵蝕】とは質が違う。あの黒は「大地が光を拒んだ拒絶反応」だった。温かみのある黒。大地が生きている証拠。
この穴の黒は──冷たい。
底が見えない。光を放っても、吸い込まれるように消える。温度がない。音がない。何も──返ってこない。
「ここです……わたしが、治せない場所……」テラが穴から距離を取りながら言った。「近づくと、わたしの力が……吸われる感じがして……」
セレスが穴を見つめていた。よっぽど怖いのか、身体がぶるぶると震えている。
「トワ。これは──ふういんじゃない」
「わかってる。【封印の瘴気】とは全然違うものだ」
「これは──もっと、ふるい。もっとふかい。せかいができるまえから、ある──やみ」
【闇】
光でもなく、影でもない──第三の力。
冬夜は【見聞録】を穴に向けた。温度センサー。魔力感知。全センサー同時起動。
──何も返ってこない。
見聞録が読めない。温度がない。魔力がない。振動がない。何もない。穴の中は──【無】だ。
「見聞録が──反応しない。何もない」
「何もないんじゃない」ゼクスが穴を睨みながら、「何もかもを飲み込んでいる。光も、影も、温度も、魔力も。──全部吸い込んで、返さない」
タマキが浄化薬を一本、穴に向けて投入した。金色の薬液が穴の中に落ちていく。
──消えた。光の粒すら残らなかった。浄化薬が、穴に触れた瞬間に消滅した。
「効かない……浄化薬が、消えた……」
これまで黒い侵蝕も白い侵蝕も治してきた浄化薬が、この【闇】には一切効かない。
「封印とは無関係の【闇】だ。千年前から──いや、もっと前から、ここにあったんだろう」
「トワ。このあな、ちかづいちゃダメ。のまれる」
「ああ、今日のところは引くさ。しかし、これが何なのかは調べる必要があるな」
五人が穴から離れた。振り返ると──穴の周囲の草が、枯れていた。さっきまで緑だったのに。
封印が解けたことで、【闇】も広がっている。ゆっくりと。じわじわと。




