【聖光の審判】
西の楔を抜いた翌日。トワたちは、【中央の楔】に向かう準備を進めていた。
しかし、始まりの町の酒場で作戦会議を開いている最中に──異変が起きた。
全プレイヤーの視界を埋め尽くす、膨大なシステムメッセージ。
裏世界にいる者にも、表の世界にいる者にも、BCOにログインしている全員に。
それは──かつてない規模の警告メッセージだった。
【──警告──】
視界全体が赤く染まった。通常の白いシステムメッセージではない。赤い文字。緊急警報。
【ソルシア封印システム:最終安全装置を検知しました】
【状況:封印の楔が4本除去されています】
【判定:封印の完全除去が近いことを確認。これ以上の楔除去を阻止する必要あり】
【──最終防衛機構「聖光の審判」を起動します──】
メッセージがまだ続く。赤い文字が次々と流れてくる。
【聖光の審判:ソルシア全域に封印守護兵を展開】
【守護兵の目的:中央の楔への接近を阻止すること】
【守護兵は封印が健在である限り、無限に再生します】
【──全プレイヤーへ:これは警告です。封印の楔に近づかないことを推奨します──】
「なんだ、これは──!?」
裏世界にいるプレイヤーたちが、首をもたげた。
空が──白くなっている。表の世界ではない。裏世界のソルシアの空が、白い光に染まり始めている。
そして──光の中から、何かが降りてきた。
一体、二体、五体、十体。──数えきれない。白い光の粒が凝縮し、人型を形成していく。鎧を着て、剣を持ち、弓を構え、杖を掲げる光の兵士が空から降り注ぐように、ソルシアの大地に着陸していく。
蓮からメッセージが飛んできた。
オーレン:「トワ! 裏世界のプレイヤーから一斉に報告が来てる! ソルシア全域に光の兵士が大量に出現しているぞ! 南部、東部、北部、西部──全エリアだ! 数がおかしい! 各エリアに半端じゃない数の兵士がいる!」
ハルからもメッセージが。
ハル:「トワさん! 北部に光の兵士が二十体以上出ました! 旅人の集いのメンバーが囲まれています! どれだけ倒しても、光の粒子に戻って再生してきます!!」
そして、ミコトからも。
ミコト:「東部にも出ています! 視聴者さんから、現地の映像が送られてきました! 光の騎士、光の弓兵、光の魔導士、種類がバラバラです! 推定Lvは90前後! そして──倒しても復活します!!」
無限再生。封印が健在である限り、何度倒しても蘇る。
酒場の中は騒然としていた。十人の仲間たちが、それぞれのチャットに殺到する報告を処理している。
そんな中で、冬夜が立ち上がった。
「全員聞け。封印の【最終防衛機構】だ。今のメッセージ通り、奴らは中央の楔を守るために、ソルシア全域に封印兵を展開してきた。守護兵の目的は、中央の楔への接近を阻止すること──各エリアを制圧されたら、中央にすら近づけなくなる」
「つまり、全エリアを守りながら、中央に突入しないといけないってことか?」
カインが整理した。
「ああ……【分散防衛戦】だ。これまでの大規模な戦いとは、違う。一つのボスを全員で殴るんじゃなくて、四つの戦場を守りながら、中央を突破するんだ」
冬夜は全員を見回した。
この場には十人。そしてチャットの向こうには、見知ったプレイヤーたちが裏世界にいる。
「まず始めに、部隊を分ける」
トワが告げる作戦に、その場にいる全員が姿勢を正して聞いた。
「──南部防衛。レナ、カイン、〈深紅の牙〉全員」
レナが拳を握りしめ、カインが短剣に手をかけた。
「了解、南は任せて!」
「俺の影で仕留めてやるさ」
トワは二人の意気込みに頷き、続けた。
「──東部防衛。ミコト、〈聖銀の盾〉東部隊」
トワはすかさず作戦内容を、この場にいないミコトに送った。
ミコト:「はい! 配信しながら指揮します!」
「次に──北部防衛」
一瞬の間。
「ハル」
チャットの向こうで──息を呑む音が聞こえた気がした。
トワ:「ハル。北部の指揮を、お前に任せる。旅人の集いとヴェノムで、北部を守れ」
ハル:「──はい。任せてください」
続々と配置が決まっていく。トワは指令を続けた。
「──西部防衛。ソラ、バルト、各ギルドの有志」
ソラはおごそかな顔でうなずき、バルトが大盾を鳴らした。
「承知しました」
「任せろ、老骨に鞭打ってやる!」
トワ:「そして──表の世界の監視と情報統制は、蓮」
オーレン:「了解だ。SNSとフォーラムのリアルタイム監視、運営への緊急連絡、表の世界に影響が出た場合の対処。──全部やる」
「──最後に、中央突破」
冬夜は、残った四人を見た。
ゼクス。アストレア。タマキ。セレス。
暗殺者。聖騎士。薬師。守護精霊。
「俺たち五人で、中央の楔を抜く」
「やはりそう来たか……だが、トワ。中央にはボスがいるのか?」
「わからないが、四本の楔にはそれぞれ番人がいた。中央に何もいないとは考えにくい。おそらく、今までで最強の番人が待っているだろう」
酒場の緊張が高まっていく。
アストレアが聖剣ルミナスを握ると、刃に金色の光が灯った。
「何がいても──私の祈りで、楔を解きます」
タマキが薬の瓶を一本ずつ確認した。慣れた手つきだ。
「浄化薬五十本、陽光のポーション百本、海浄の真珠薬二十本。──足りるかどうかは正直わかりません。でも、あるだけ全部持っていきます」
「足りるさ。お前はいつも用意周到で、俺の助けになってたからだ」
「えへへ……ありがとうございます。それが、わたしの旅ですからね」
ゼクスが短剣を鞘から抜き、影の刃を確認した。
「【影縫い】……ソルシアの道場で習った新技だ。──使いどころがあるといいがな」
セレスがトワの肩の上で、トワの襟を握った。
「トワ。──みんな、まってる、いこう」
十人が酒場の扉に向かって歩き出す。酒場のマスターが扉を開けた。
「トワ。──行ってこい」
二年間、毎日帰ってきた酒場。いつも席を空けてくれたマスター。
「ああ……行ってくる」
外に出た。表の世界でも、空は少し白く染まっている。今頃ソルシアでは、光の兵士たちが降下し続けていることだろう。
十人が、急いで現地に直行していく。
レナは一足先に裏世界に飛んで、叫んだ。
「トワさん、南は絶対守る! だから──中央、任せたよ!」
裏世界では、ミコトが走りながら配信を開始していた。
『皆さん、始まりました!! 恐らくソルシアで、最後の戦いです。さあ──よい旅に出かけましょう!』
ハルがチャットで送ってきた。
ハル:「師匠。──行ってきます」
トワ:「師匠ではない。行ってこい、ハル」
早速ソルシアに行くと、五人だけが残った。トワ、セレス、ゼクス、アストレア、タマキ。
ソルシア中央区画に向かって──走り出した。
「全員、持ち場につけ! ──ソルシアを、守るぞ!」




