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第5話 新たなパートナー

 依頼を受けてから数日後、僕は何の行動も起こせていなかった。

 手元にある情報は、依頼人、神崎 瑠衣から渡された写真と、亮二さんがくれた写真だけ。

 僕は、その三枚の写真をテーブルに並べ、眺めていた。


 溜息、だ。


 そんな僕の様子にオーナーが声を掛ける。

「ユウ。頭で考えるより、行動しろ。写真を眺めていたって答えてはくれないぞ」

 そう言葉を投げ掛けるオーナーは、僕の心情を理解している。

「分かっています。だけど、こんな状態でどう行動したらいいのか……それじゃあ、何も得られないだろうし、それが余計に焦ってしまって」

「それは亮二に勝ちたいと思っているからか?」

 オーナーのその言葉に僕はハッとする。

 僕を見るオーナーの目は穏やかな笑みを見せている。

「いえ……そういう訳では……」

 そう言いながらも思ってはいる。

 当たっている、と。

「それならいいが」

 なんだか、心を見透かされているみたいだ。

「ちょっと出て来ます」

「ああ」


 外へと出たはいいが……。

 人探しとはいえ、その依頼内容は名目上の事だ。当人は定位置にいないだけで見失っている訳じゃない。

 本人と接触出来ない限り、依頼人と会う承諾を得る事も、会わせる事も出来ないが……。

 そういえば亮二さん……昨日、事務所に来なかったな。

 亮二さんの方の依頼内容、なんか隠されてるし。

 なんか、擦れ違ってるんだよな……。

『駒』……か。一発で核心に踏み込めず大きくも動けていない事も、その通りって事か。

 まさか……南条があちこち飛び回って滞在場所に追い付かなくなってるのって亮二さんが撹乱……なんて。

 はは。

 そんな訳ないか。


 今日は天気がいいな。

 秋晴れの中に擦り抜ける風が心地いい。

 立ち止まり、雲が流れていくのを見つめていたが、微かな物音に振り向いた。

 今、この並木道に人通りはない。

 気のせいか……。


 ……いや。

 僕の場合、尾けられていると考えた方が自然か。

 まあいい。様子を見る事にしよう。

 僕は、止めた足を踏み出した。


(ふうん……勘は悪くないんだね)


 声が……聞こえた。

 僕は、声がした方を振り向くが、やはり人の姿は目に捉えられない。

 だが、誰かに尾けられている。

 隠れるとすれば、ベタに木の陰だろうが……。

 ここで追っても直ぐに逃げられるな。


 一体、なんの目的があって僕を尾けているんだ?


 足を止めてみれば、その気配も止まる。

 ……これは間違いない、な。

 僕は走り出し、細い脇道を抜けて人通りの多い大通りに出た。

 流石に細い道では追っては来なかったか。

 走るのをやめ、人の流れに合わせて歩を進める。

 一体誰だ……。

 この依頼に関わる奴なのか……?


 僕はピタリと足を止め、来た道を戻り始めるが、擦れ違う人の顔が視界ギリギリに入る程度に目線を置き、流れに合わせて歩く。

 行き交う人たちの会話を耳に歩く中、擦れ違いざまに一人の男の腕を掴んだ。


「僕が気づいていないとでも?」


 横目に男を睨みながら、強引に腕を引き、人の少ない並木道へと引っ張っていく。

 男は抵抗する事なく僕と歩幅を合わせた事で、僕は掴んだ腕を解放した。

 並木道へと戻ると僕たちは足を止め、向かい合う。

 僕と同じくらいの背丈。年齢は亮二さんと同じくらいか。

 尾行していたはいいが、そう慣れた感じでもない。

 この男だと分かったのも、僕と擦れ違う時に一瞬ではあったが僕に目線を向けたからだ。


 微かに聞こえた物音は、カメラのシャッター音だった。

 声といい、何気にわざと僕に気づかせていたのは、ニヤけた顔を見せている事で明らかだが。

 男は、ゴソゴソとズボンのポケットから名刺を取り出すと僕に差し出す。


 なんか……雑な感じだな。

 同業者……というには少し……。

 僕は怪訝な顔で名刺を受け取り、目線を向けた。


「フリーカメラマン、佐嘉神 淳史(さかがみ あつし)……? は? フリーカメラマン?? え? なんで?」

 僕の反応に男は、にんまりと笑みを見せた。

 なんか……こいつと関わりたくないなあ……。


「尾行するつもりはなかったんだけど、悪かったね。事務所に顔出そうと思ったら、君が出て来たんで思わず……」

「思わずってなんだよ? 雑な尾行に盗撮、例え僕があなたの調査対象であったとしても、対象者に恐怖を感じさせたら通報レベルだぞ」

「いやいや、それは」

「いやいや、じゃねえよ」

「あれ? 案外、口悪い?」

「なんなんだ、あんたは」

「だ・か・ら」

 男は声と合わせて名刺をトントントンと指差す。

 なんか……色々と面倒くさい……こいつ。

「そういう事じゃねえ。尾行していた割に目に留まるような行動には何か理由でも?」

 僕は苛立った口調で男にそう訊いた。

「理由、ねえ……。なんだか行き詰まっているようだから、亮二に君のパートナーになってくれって頼まれたんだよ」


 ……あっさり口を割るんだな。このタイミングで言うか?

 こんな信用ゼロの状況作っておいて、パートナー? 誰が承諾するんだよ?


「は? なにそれ? 僕はそんな話、聞いてないけど。作り話じゃないだろうな?」

「本当だって。相方思いじゃないか、亮二は心配してんだよ」

「それはどうだか……」

 大方、僕の動きが悪いから送り込んだんだろう。

 それにしても、亮二って呼ぶくらいだから親しいんだな。


「という事で、ユウ。南条に接触するぞ」

「は? 初対面で呼び捨て……それに対象者に接触? いきなり仕切らないでくれる? パートナーだって僕は了承してないし」

「まあまあ、そう言うなって」

 楽天的という言葉がピッタリと当て嵌まる男だな。

「ねえ……」

「なに? なんか不満そうな顔だな?」

「当然だろ。なんで彼の居場所、知ってんだよ?」

「あ? 逆になんでお前は知らないんだよ?」


 お前って……この数分の間で、随分と距離を縮めてきたな。


「知らない訳じゃないんだよ。擦れ違ってるっていうか……当人が捕まらないだけだ」

「ユウ……お前、亮二とちゃんと話してる?」

「話すも何も、亮二さん、依頼がかち合ってるっていうのに詳しい事までは教えてくれないし、ここのところあまり事務所にも来ていないから話す機会も……バーで会っても直ぐ帰っちゃうし。スマホも電源切ってんだよね」

「教えねえだろー、普通。つーか、お前、教えて貰おうとしてんの?」

「なんか……普通じゃない奴に普通を語られるのって、ムカつくんだね……」

「おいおい、それはねえだろ。俺は至って普通だって」

「じゃあ、訊くけど」

「なんだ?」


 僕は、真顔で彼をじっと見て言った。



「あの写真撮ったの、佐嘉神さん……あなただよね?」

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