第6話 ハーフ・アンド・ハーフ
「あの写真撮ったの、佐嘉神さん……あなただよね?」
僕は、彼をじっと睨むように見る。
彼は余裕にも笑みを浮かべて僕と目を合わせていた。
返答はない。
ただニヤリと笑みを浮かべて、僕の様子を楽しんでいる。
僕は、逃しはしないとばかりに口を開いた。
「じゃあ……もう一つ」
誤魔化そうとしたって、そうはさせない。
「南条 幸一。彼に亮二さんを紹介したのも、あなただろ」
誰かが関与しなければ今の状況にはならない。
わざわざカメラマンだと伝えているのも、あの写真に関わりがある、なによりの証拠だろ。
「……へえ……? 本当に勘がいいね。亮二に鍛えられただけあるかな?」
「それは認めると受けていいのか?」
「うーん……まあ……そうだなあ……俺がその通りだと認めたら、お前は俺をどういった目で見るの?」
「どういった目で見るって、なに?」
眉を顰める僕に彼は、にんまりと笑みを見せて言う。
「敵か、味方かって話」
ザッと強い風が僕と彼を割くようにも吹いた。
僕は答えなかった。
言葉の間が開いたが、間を割くように彼はクッと笑うと口を開く。
「まあ……俺に苛立ちを向けている時点で、明白な答えだけどな?」
「それだけで理由になる訳じゃない」
「それだけ、ねえ……?」
探るような目線を僕に向ける。
「なんだよ? さっきから。意味ありげな言い方ばかりじゃないか。はっきり答えろよ」
「じゃあ、遠慮なく」
彼は、また僕に名刺を差し出した。
「は? さっき貰っただろ」
「いやいや。それはそれ、これはこれ」
僕は、怪訝な顔をしながら仕方なくも名刺を受け取る。
まったく……なんなんだよ。いちいち面倒な男だな。
うん……?
さっきと名刺が違う。
これって……本当??
コロコロ変わる僕の表情を窺いながら、彼はクッと肩を揺らして笑う。
「ショウさんとも話ついてるから。その名刺、本物ね」
「ショウさんって……」
「オーナーだよ、オーナー。『katharsis』の」
「知ってるよっ!! 誰が疑問符つけたよっ? そうじゃなくて」
……なんで?
嘘だろー……。
「という事で、よろしくな。俺、今日、初日だから」
フリーカメラマン、佐嘉神 淳史じゃなくて。
『katharsis』の探偵、佐嘉神 淳史だって???
驚く僕を更に彼は驚かせた。
「あー、ちなみに俺、出戻りだから。元探偵の、元カメラマンの、今は探偵、ね? そんでもって元、亮二のパートナー。亮二のって言うより、亮二が、だな」
ニヤニヤとまあ……。
僕は、呆れながら溜息をつき、彼に言う。
「僕……帰る」
「あ? 僕、帰る? なんだそれ? お前、幾つだよ? ガキか?」
「ガキ言うな。付き合いきれないってだけだ。大体、今日の今日で対象者に接触なんて、初対面の相手とやる行動じゃないだろ。話も付き合わせてないのに。探偵経験あるんなら、そのくらい分かるでしょ……」
僕は歩を進め出し、事務所へと戻る事にした。
「それもそうだな。分かった。じゃあ、俺も帰る」
「あ、そ。じゃあね」
「じゃあね、じゃねえよ。帰るって事務所だろ?」
「……そうだけど」
「じゃあ、依頼契約書見せて貰う。もうパートナーだからな、情報は共有して貰わないとね?」
「勝手に見ればいいじゃん……事務所入ったんなら見れるだろ」
「お。それはパートナー了承って事でいいのかな?」
「どうせ断ったら亮二さんに文句言われるだけだから、もう分かったよ……」
「じゃあ、仲良くなった事だし、俺の事は名前で呼んでね?」
「……」
「ね? ユウ」
……本当にこの人、面倒くさい。
結局、二人で事務所に戻り、淳史さんは依頼契約書に目を通していた。
その後、ずっと何やら考え込んでいた。
さっきまでの楽天的な様子が演技でもあったかのように、あまりにも真剣な彼の表情を見る僕は声を掛けられなかった。
だが、テーブルに置いたままだった写真には目を向けていない。
淳史さんが撮った写真であれば、改めて見なくても撮った時の事を思い返せる事だろう。
あの真剣な表情……やはり撮影した時の事を思い返しているのか……。
憶測じゃなくて、推測……か。
数時間、あの状態だ。
珈琲でも淹れてあげようかと、珈琲豆に手を伸ばした瞬間。
「よし。ユウ、出掛けるぞ」
「え? 何処に? もう夜じゃん」
「いいから、ついて来い」
表情が大きく変わる人だな……。
今度は、また楽天的な程に満面の笑みだ。
「出掛けるって……ここ」
「勿論、ここ」
淳史さんは、颯爽とドアを開ける。
「久しぶり、圭介さん」
「おや。珍しい顔に、珍しい組み合わせだね」
「いい組み合わせだろ? また前みたいに、ちょくちょく来るからよろしく」
「そうか。それはまた楽しくなるな」
「まあね。俺も楽しくなるよ」
カウンターに淳史さんと並んで座った。
淳史さんがタバコを取り出すと、圭介さんは灰皿を置く。
一つ一つの動作が言葉にしなくても自然に繋がる。
ここは僕たちにとって、心を置く事が出来る場所だ。
飲み進める内に淳史さんと打ち解けていくと、その心地よさも相俟って酔い痴れてしまった。
営業時間が終了した事にも気づかず、テーブル席に移動して飲み続け、いつの間にか僕と淳史さんはその場で眠ってしまっていた。
近づいて来る足音に、うつらうつらと目を開ける。
髪をクシャクシャと掻きながら怠い体を起こして、気配のする方を見た。
「あ……亮二さん」
僕は、酔いの醒めない能天気な様で彼を見る。
「うん……? 亮二……?」
淳史さんも僕と同じような状態で目を覚ました。
亮二さんは、無愛想に僕たちを交互に見る。
「亮二、お前も飲みに来たの? 今何時……? 悪いけど俺……飲むのお前に付き合えない」
その言葉に亮二さんの目がピクリと動く。
「淳史……お前ね。お前が俺に話を持ってきたんだろーが 」
「あれ……? そうだっけ? 俺、亮二にも飲みに行くの誘ったっけ……?」
淳史さんは寝惚けた様子で、欠伸をしながら噛み合わない会話をする。
「お前らな……いい加減にしろよ」
亮二さんの苛立った溜息が流れ、僕たちを斜めに睨みつけた。
「ユウ、お前、淳史に教えてないのか?」
亮二さんを直視出来ない僕は、テーブルに顔を伏せてブツブツと言った。
「……淳史さん……依頼契約書……見てたよね……?」
「ユウ……今それを亮二に言うな」
亮二さんの怒りが降り落ちる。
「酔っ払ってる暇があったら、さっさと情報掴んでこいよ。お前ら調査期間ナメてんのか? バカヤロウ」
ごもっとも。
調査には期間がある。
その期間内に依頼された内容の調査をすると、契約書を交わしている。




