42 信太朗「俺の笹団子、食べていいよ。」
「ただいま帰りました~」
敦ちゃんはは元気よく玄関のドアを開けた。
「おう、お帰り~」
姉ちゃんの声がする。もう夕方だ。さすがに起きたようだ。
今日一日がかりで買った、敦盛の服は、3つの紙袋に入れて俺が運ぶ役割をになった。
「疲れた……。」
女性の買い物、特に服選びに付き合うというのが、男性にとってどれだけ疲労を伴うのか。俺は甘く見ていたのであった。
「おかえり敦ちゃん。早速着替えてきたね。可愛いじゃん。」
「へへえ、信太朗様が選んでくださったんですよ。」
実はほとんど敦ちゃんが選んでいる。
俺は、彼女がどの服を試着しても「すごく似合うよ」としか言えなかった。
実際、小顔でスタイルの良い彼女が何を着ても、俺レベルのファッションセンスでは、似合っているとしか思えなかったし言いようがないのだ。
3着購入して、早速今着ているのは、ピンクの花柄ワンピースだ。胸の部分に蝶々結びのリボンがついていて可愛い。
いままでが弘子のお下がりの、Tシャツやトレーナーばかりだったので、見違えるようだ。本当に……。
「信太朗!敦ちゃんに見とれてないで早く上がれ。」
俺は我に返ると顔を赤くし、靴を脱いでリビングへ急いだ。
帰りの電車の中でも、敦盛をまともに見られなかった。
自分なんかが見てはいけないものののように思えてしまうのだ。
それほど、彼女は、可憐で可愛らしかった。
「私は、武家の男性として育てられましたから。」
敦ちゃんは荷物をおろすと、こう切り出した。
「私が着る服も水干といった地味なもので、柄のついたものはほとんどなくって……。お母様や宮中の女官たちが着ている装束がうらやましかったのです。」
敦盛はそう言って、嬉しそうはひらりとワンピースをなびかせた。
「可愛いよう。敦ちゃん。!」
「嬉しいです、お姉さま。お金を出してくださってありがとうございました。これお土産です。」
「いいってことよ。これは、和菓子?ああ、駅前の和菓子店、あそこ試食できるからな。うまかったでしょう?」
「はい!とっても。お餅の適度な柔らかさと甘すぎないあんこの絶妙なバランス。最高でした。」
敦ちゃんは、ネットと読書で、語彙が豊富になっている。
「早速食べようか。やっぱり和菓子には熱いお茶が欲しいな。」
「はい。お茶は私が用意しますね。」
敦ちゃんがキッチンに走る。
つい後姿を目で追ってしまう。
「どうだったよ、初デートは?」
「で……デートって。姉ちゃん俺たちはまだそんなんじゃ……いやまだっていうか。」
「ああ、そういういうのはいいから。敦ちゃんは楽しんでいたか?」
「うん。ずっとはしゃいでたよ。」
「そうか。それは良かった。」
敦ちゃんがお盆にお茶の入った急須、お茶碗3つ、今日買ってきた和菓子をのせて、テーブルの上に並べる。
和菓子は笹団子と豆大福とおはぎが、各ひとつづつの配分だ。
「いただきます。」
俺たちは席に着くと、さっそくお茶をすすりながら、和菓子をいただく。
敦ちゃんは両手で草餅を愛おしそうに持つと、半分くらいを口の中に入れる。
もぐもぐと口を動かし、幸せそうに飲み込む。
熱いお茶をすすり、終わると「ふう」と息をつく。
草餅とお茶で、こんなにも幸せそうな表情を浮かべる人を、俺は他に知らない。
あまりの可愛さに見とれていると、彼女がその視線に気づく。
「ちょ、信太朗様、なぜ私の顔を見ているのですか?恥ずかしいのですけど……。」
「ご、ごめん。」
「謝ることはないよ信太朗。こんな可愛いものをみて、見とれない人がいますか。」
みると姉ちゃんは俺よりだらしない顔で、彼女を鑑賞していた。
「敦ちゃん、笹団子好き?」
「はい、とてもおいしいです。」
「敦ちゃんの時代には、お団子とかないの?」
「ありますが、こんなに甘くないですね。お餅もこんなにもっちりしていません。」
「敦ちゃん、俺の笹団子、食べていいよ。」
「え、そんな悪いですよ。」
「いいって、笹団子もこんなにおいしそうに食べてくれる人に食べてもらった方が幸せだろ。」
「何を言っているんですか。……そうですね、では豆大福と交換等のはどうでしょう。」
交渉が成立した。
俺はどちらかというと、塩っ気のある豆大福の方が好きで、自分の分はいち早く食べてしまったのだ。
「敦ちゃんは、見てないようでよく見てるよね」
俺が二個目の豆大福をかじりながら聞くと、敦ちゃんはなぜか耳を真っ赤にした。
可愛い。




