41 信太朗「今日は楽しい一日にしなくっちゃな。」
あれから3日たった。
定刻通り迎えに来た弘子の運転するタイムマシンに乗り込んで、おれと敦ちゃんは現代に戻ってきた。
蛭尾教授関連の例の病院で検診を受けて、昨日家に戻った。
久しぶりの弘子を加えた3人の夕食だ。
その席で弘子が言う。
「私は明後日から10日間大学の研究室でタイムマシン最終調整の手伝いに行き帰れない。」
本来数年準備が必要なタイムスリップを、頻繁にしてしまったので、大幅な手直しが必要らしい。
「敦ちゃんに、私たちからプレゼントをしたい。信太朗、お前は明日、敦ちゃんを街に連れていき、一緒に服を買ってこい。」
「服!?でも俺女の子の服の事なんかわからないけど。姉ちゃんは何で行かないんだよ。」
「私は連日の徹夜でつかれてるの。ねえそれでいいでしょ敦ちゃん」
「はい。ありがとうございます。弘子お姉さまはゆっくりお休みください。お土産買ってきますね」
なんだか二人の間で申し合わせがされていたようだ。
それにしたって、敦ちゃんと街でデートとは胸が躍る。
姉ちゃんは俺の顔をじろじろ見る・
「な、なんだよ姉ちゃん。」
「いやあ、信太朗、嬉しそうだなと思って……。」
姉ちゃんは缶ビールをグイっと飲みほした。
「か、からかうなよ、姉ちゃん……。」
俺は、なぜかとても切ない気持ちになった。
「行ってきます。」
信太朗がそういうと、隣の敦盛も「行ってきます」という。
弘子は昨晩から爆睡しているので、家には返事をする人は誰もいない。
「習慣ってやつかな。言わないと気持ちが悪いんだ。」
「お父様かお母様のお言いつけ何ですか?」
「それほどのものじゃないけどね。敦ちゃんはどうだったの?」
「私は、気軽に家の外に出られませんでしたから……。」
聞いてから俺は後悔した。
敦ちゃん……平敦盛は普通の家で普通に育ったのではなく、平家の家に生まれ、女性なのに男性として育ったんだ。
当然、いろんな意味で正体がばれるのはまずいわけで。
「でも、乳母の目を盗んで、家を抜けだしたりしたんですよ。」
「へえ、意外にお転婆だったんだ。」
「そうなんですよ。お転婆なんです。今も。」
「今も?」
「そうです。お出かけは大好きです。だから今日もとても楽しみです。」
敦盛の意外な一面を見られて、俺はなんだかうれしくなった。
「家をぬけだして、どこに行ったの?」
「京の街に行きました。市が立っていて、すごくいろんなものが売ってるんですよ。」
「へえ。」
「宋の陶磁器や美しい絹織物、珍しい書籍や文具、香料なんかも」
敦ちゃんは楽しそうに語る。
今日は彼女のためにも、気を遣ってくれた姉ちゃんのためにも、楽しい一日にしなくちゃな。
そんなことを思いつつ、駅に着いた。




