14 信太朗「俺にも何かできるんじゃないかって、最近思えてきたんだ」
歴史IF・タイムトラベル小説です。
拙文ですが、内容には自信があります!
レビュー、、ご感想、ご指摘、ご感想、ご批判。
お待ちしております。
あれから俺たちは、平家物語を題材とした映画やドラマ・アニメ片っぱしから観まくっている。
敦盛さんは、姉ちゃんのお下がりの紺のTシャツに青のホットパンツを履いている。
露出の多くなった夏服の敦盛さんに、ドギマギしてしまう。とくに太ももとか……。
なるべく見ないようにしよう。
もっとも敦盛さんは全く気にしていなうようだが。
敦盛さんが家に来て、今日で4か月目になる。
平敦盛関連のあらゆる資料をかき集めて、見せてみた。
神戸の資料館にある笛の写真も、特別に送ってもらったが、笛の知識以外の反応はない。
今見ているのは、平家物語のアニメだ。ちょうど一の谷の戦いが終わったシーン。
「どう、なにか思い出した?」
「いいえ……でも、とてもドラマチックな内容ですね。たいらのあつもりが討ちとられるシーンも感動しました。」
自分が討ち取られるシーンに感動してるって、よく考えたらシュールだ。
「うーん。それだけなの?」
「え?そうですね。絵のタッチと音楽は素晴らしいです。特に琵琶や笛の音がとても美しく、心に響きます。」
彼女は、劇中に出てくる「平家」や「敦盛」というワードには反応せず、自分の登場シーンも物語の中の一人として俯瞰してみていた。
彼女に関連した映像を見せれば、記憶を取り戻すきっかけになると思ったが、そう簡単なものでもないらしい。
というか……。彼女は本当に平敦盛なのだろうか?
あの時俺がが見たものは。海岸沿いで戦う武者達。なぜか車に乗ってきた男装した少女。自分を驚いた眼でみたひげもじゃの武士。それだけだ。時間にしてい1分ちょっと。情報が少なすぎる。
彼女が持っていた笛は、平敦盛が持っていた「小枝の笛」らしいが、笛なんてそれほど違いがあるものでもない。
ただ、彼女の笛の腕前だけは、間違いなく本物なんだけど……。
「ねえ、敦盛さん」
「はい、なんですか?」
彼女は微笑みをつくり信太朗を見た。
「あのさ、敦盛さん、最近無理してない?」
「えっ」
「悩んでることとか無理してることとかさ。あったら……言ってよなんでも。」
「……。」
「男のおれに言いにくいこととかあったら、姉ちゃんに電話してもいいからさ。悩みとかさ……」
自分の語彙力のなさが情けなくなる。
これじゃ姉ちゃんに言われたこと、聞いてるだけじゃん。ぜんぜんさりげなくない。
「信太朗様?」
「な、なんだい?」
敦盛さんは言いにくそうだった。
「私の記憶を取りもどそうと、ご協力いただいているのは、うれしいのですが」
「うん」
「えっと……」
「なんでも言ってよ。僕は敦盛さんの味方だから」
俺は精いっぱいの笑顔を作って見せてそう言った。
敦盛さんは少しうつむいて黙ってしまった。耳が少し赤い。
数秒後、彼女は手をぎゅっと握りしめると、俺の顔を見上げた。
「私、このままでは駄目でしょうか?」
「え!?」
「平家の物語をたくさん見せていただきました。たいらのあつもりのことも知りました。」
「……。」
「私が助けていただいた時から、その後私……たいらのあつもりがどうなるのか、私を討った熊谷直実……殿がどうなるのか。そして平家一門がどのようにして滅びるのか。」
「……うん。」
「でも、私。このお話が自分のことだとは思えないのです。信太朗様や弘子お姉さまに迷惑をかけているので、一刻も早く記憶を取り戻さなくてはいけないと思うのですが。」
「……。」
「時々……辛いのです。あの時代が、怖いです。私は殺され、家族も殺され、一門は滅ぼされ。そんな時代に戻らなくてはいけないと思うと……」
いつの間にか彼女の目には、涙がたまり、零れ落ちそうになっていた。
「怖いのです。恐ろしいのです。逃げてはいけないと思います。信太朗様に甘えすぎてはいけないとも思います。ですが……」
溜まった涙は、緋色の瞳からあふれ出て、彼女の頬を流れた。
「ご、ごめん。俺、敦盛さんの気持ちも考えずに……。」
「……謝らないでください。余計辛くなります」
「あっ、ごめん……じゃなくて。あのさ、俺さ、このままでもいいと思うよ。」
敦盛さんが顔をあげた。
「ずっとこのままこの家で暮らしてもいいじゃん。俺、何でもするよ。君が安心して暮らせるように。全力で守るよ。」
「……。」
「それに敦盛さん、まだ16才だろ。こっちの世の中じゃまだ高校一年生。学生で未成年だよ、まだ子供だ。」
「子供……。」
「16歳の女の子が記憶失って一人で知らない世界に来たらそりゃ怖いよ。だからさ……。」
俺は敦盛の緋色の目を見てこう続けた。
「敦盛さんは、もっと甘えていいんだよ。しんどい時は無理に笑わなくてもいいんだよ。」
緋色の目がにじんで、涙がたまっていく。
「信太朗様……ありがとうございます。ありがとうございます。私、甘えてもいいんでしょうか?」
俺はゆっくりうなずいた。
敦盛さんは涙をぬぐい微笑んだ。その笑顔のあまりの可憐さに俺はたじろぎ、意味なくメガネの位置を直した。
「俺さ……受験失敗して。やることなくなって。ずっと勉強ばっかりしてたから……。」
「……・」
「そんな自分が嫌で、変わりたくて……。そしたら敦盛さんに出会って、俺にも何かできるんじゃないかって、最近思えてきたんだ……。」
「……。」
「だから、俺にできる事は何でもするからさ。何でも言ってよ!」
「……信太朗様。」
「うん。(気持ち悪いと思われたかな。)」
「それでは……さっそくお願いがあるのですが?」
「いいよ、何でも言ってよ、」
「私のことは、『敦盛さん』じゃなくて『敦ちゃん』と呼んでください。」
「え!?えっと……。」
『敦ちゃん?』無理無理、俺のキャラじゃないって……。前に病院でおもわずそう呼んじゃったけど。
……でも……彼女にとって「敦盛」という名は、今は重すぎるのかもしれない。
「じゃあ。あ、敦ちゃ……ん」
「信太朗様!もう少し大きな声でお願いします。」
いつもの明るい彼女の口調に戻った。
俺はなんだかうれしくなった。
「敦ちゃん。ずっとこのままでもいいよ!もっと甘えていいよ、俺をもっと頼ってよ、敦ちゃん!」
彼女はずっと握っていた手をパッと開いた。
「ちょ、声が大きすぎます。ご近所迷惑ですよ。」
彼女は頬を真っ赤にしてそう言った。
「ご、ごめん。恥ずかしかったよね……。」
「いえ……。そ、そうだ、信太朗様。」
彼女はテレビの画面に顔を向けた。
いつの間にかアニメが終わってエンドロールが流れている。
「もういちど、このアニメ観ませんか。とても素敵な作品だったので。」
俺は思わず反省した。
そういえば記憶を取り戻すことばかり考えて、作品を全然楽しもうとしていなかった。
(俺はこの子を笑顔にするために、あのとき青いボタンを押したのかもしれない。)
「そうだね。観よう、楽しもうよ、敦ちゃん!」
「はい!!」
敦ちゃんは俺に、今日一番の笑顔を見せた。
今回出てきたアニメは、フジテレビで2022年に放映されていた、吉田玲子監督の「平家物語」を想定しています。
琵琶法師の少女が主人公の、素敵な作品でした。皆様は見られましたか?
このお話は、必ず完結させます。
毎日更新予定です。
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