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「なあ、信太朗」


「なんだい姉ちゃん、改まって」


 平日の午後、久しぶりに帰ってきた姉ちゃんから電話があり、近くの喫茶店に呼び出された。

 敦盛には留守番させて出てこいとのことだ。家で話せばいいのに、こんなことは初めてだ。


「なあ、信太朗。お前、敦ちゃんのこと、どう思ってる?」


 飲みかけのアイスコーヒーを思い切り鼻腔に流し込み、盛大にせき込んだ。


「え、それって……俺は別に……そう、俺が連れてきちゃった責任を取らなくちゃで、そんなやましい気持ちは……」


「おちつけ。まったく、わが弟ながら、もうすぐ二十歳になろうという男が情けない。」


「……」


「だいだい、お前が敦ちゃんに恋していることは、バレバレなんだよ。いちいち指摘するのもバカバカしい」


「恋って、そ、そんな勝手に決めつけんなよ、俺はただ……」


「うるさい!静かにしろ!」


「ごめんなさい。」


 親代わりに育ててもらった姉ちゃんに恫喝(どうかつ)されると、反射的に謝ってしまう。


「ゴホン。私が聞きたかったことは、敦盛ちゃんの最近の様子さ。まだ記憶は取り戻せないんだろ」


「ああ」


「なんというか、こんな状況なのに、彼女、明るすぎないか?」


「え……?」


「記憶を取り戻してないからなのか。いや記憶を失っているからこそ、もう少し葛藤のようなものがあってもいいと思うんだ」


「葛藤……」


「彼女、相当無理してるんじゃないのか?」


「無理......」


そういわれてみれば、思い当たるふしもある

無理に明るく装って、こっちが戸惑うほど順応しようと積極的だったり。


「なあ信太朗。私から見ればこれも不思議なんだが、彼女は今、お前を一番信頼している。」


「え?信頼って!そんな俺なんか……」


「いちいち反応するな。……だから、彼女が無理をしすぎないように、さりげなく気を付けてあげてくれないか?」


恥ずかしさで消えてしまいそうになった。


俺は、可愛い女の子と一緒にいられてウキウキするだけで、彼女の不安や葛藤なんて考えたこともなかった。なんてお子様なんだ。自分が恥ずかしい)


「わかったよ姉ちゃん。気を付けてみる。ありがとう。さすが俺の姉ちゃんだ!」


「なんで涙目なんだよ。お前もたいがい気持ち悪いな。まあ今日はこれだけ言いに来たんだ。」


「うん。」


「 またすぐに大学に戻らなくてはいけない。だから、たのんだぜ弟よ!」


俺は鼻をズズッとすすり、大きくうなずいた。

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