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敦盛は、蛭尾教授の紹介で病院を移し、更なる精密検査を行った。
また、1000年前にはない各種予防接種やワクチン接種が行われた。
しかし、記憶喪失は結局治らず、敦盛は自分が誰かわからないままだ。
俺と姉ちゃんは、病室に足げく通い、少しずつ、敦盛さんに状況を説明していった。
未来の世界に来てしまったこと、すぐには帰ることが出来ないこと、記憶を失ってしまったこと。
「信太朗。彼女は聡明だよ。どんどんこちらの世界のことを吸収している。」
「そうか、よかった」
「とはいえ16歳の女の子が一人きりで別の時代に飛ばされて、しかも記憶がないんだ。相当不安だろうね。」
俺は自分に置き換えて想像してみた。
耐えられない。すこしでも助けになってあげたい。
そう思うが、何をしてあげたらいいかわからず、もどかしい。
一月がすぎた。
蛭尾教授を交え話し合い、安全性を確認した後、とりあえず俺姉ちゃんの家に引き取ることになった。
当面の目標は記憶を取り戻すこと、この世界に慣れる事。それまでは安全のため、当面外出は控えることに決まった。
姉ちゃんは次の日からタイムマシンの燃料を集めるため大学へ戻り、ほとんど家に帰ってこない。
車も、装置の調整が必要らしく、大学の研究室へ持っていってしまった。
代わりに俺が彼女の面倒を見ることになった。大学も春休みに入って、時間も余裕があった。
ある昼間の台所にて。
「いいかい。これが蛇口。これをこうひねると、水が流れる。」
「水が……なぜこんな細い管から……」
敦盛さんは目を丸くして興奮している。
病院では、身の回りの世話は看護婦さんたちがしてくれたので、敦盛さんには一般家庭の生活が全て新しい体験なのだ。
敦盛さんに、病院着を着せ続けるわけにはいかず、姉ちゃんが着ていた白のトレーナーとチノパンといういでたちだ。
「信太朗様。これはどういったからくりなのでしょう。信太朗様か弘子お姉さまが、おつくりになられたのですか?」
改めて聞かれると、水道のシステムをほとんど理解していない。
「え……と、川の水を山奥で貯めて、それを管を通して運んでるんだ。」
「そうなんですか。これなら井戸はいらなくなりますね」
「そしてこの蛇口を反対側に回すと、お湯がでる。」
「え?お湯が?……本当です。暖かくなってきました。これはどうやって温めているのですか」
「えっと、それはガス給湯器で」
「がす・・・って何ですか?」
「ガスは、、、燃える気体で……。とにかくこのスイッチで電源を入れて……」
「でんげん……?」
敦盛さんは電気もガスも水道もない時代に生まれた。わからないのも無理もない。
「信太朗様。私は信太朗様が住むこの世界のことがもっと知りたいのです。そして信太朗様のことももっと……」
敦盛さんは興奮して顔が赤くなっている。
(好奇心の強い子だな。)
俺は、敦盛が現代文明に興味を持ったことが嬉しくなった。
「じゃあ、今日は敦盛さんにこの時代のことを教えてあげよう。」
それから数時間経過した。もうどっぷり日は暮れている。
敦盛さんはこの間、ずっと質問をし続けている。
「どうだい敦盛さん、理解できたかい?」
「はい、信太朗様。だからネット上で仮想通貨が流通しうるのですね。」
彼女はディスプレイを眺めマウスを器用に繰りながら、そう答えた。
「理解できたんだ……。すごいね……」
俺は疲れ果てて、ソファに倒れ込んだ。




