6話:黄色い歓声と悲鳴
「さて、部室に行こうかな」
図書委員としての作業を無事に終えた俺は部室に向かおうとしていた。 理由は朝比奈から受け取った雑誌を部室に置いておくためだ。 ちなみに朝比奈は作業が終わったら一目散に帰って行った。
「はぁ、今日も暑いな……ってあれ?」
俺は図書室から外の廊下に出ると、どこからか女子達の歓声が聞こえてきた。 場所は体育館の方から聞こえた。
「あぁ、バスケ部か」
女子達の黄色い歓声で何となく察した。 今日は女バスの部活日だ。 だからこれはきっと、七瀬を応援する女子達の声なのだろう。
「今日も凄い人気だなアイツは。 あ、そういえば……」
七瀬は文芸部に頻繁に来てくれるけど、逆に俺は七瀬の部活を見に行った事は一度も無かった。
多少なりとも俺の事を慕ってくれている後輩だし、せっかくだから俺も応援がてら見学に行ってみようかなと思い、体育館の方に向かった。
(ちょうど良いし、話せるタイミングがあったら朝比奈から受け取った雑誌も渡せないかな……いや、流石にファンに囲まれてるだろうから話せないか)
俺はそんな事を思いながら体育館に近づいていくと突然、異変が起きた。
「「きゃああああああ!」」
いきなり体育館の中から女子達の悲鳴が聞こえた。 先ほどの黄色い歓声とは全然違う、悲痛な叫びだった。
「な、なんだいきなり……?」
俺は何事かと思い、急いで体育館の中へと向かった。
体育館のコートに到着すると既に人だかりが出来ていた。 そしてその中心には……七瀬が仰向けで倒れていた。
「お、おい七瀬!?」
俺は急いで七瀬の元に駆け寄った。 七瀬は顔を歪めながら足を抑えていた。
「ひ、ひっぐ……な、七瀬君……」
「え……?」
七瀬の隣では女子生徒が泣いていた……どうやら何か事故が起きたようだ。
「何があったんだ?」
「ぐすっ……私のせいなんです……」
話を聞いてみると、練習中にボールがその女子の顔面に当たりそうになった所を、七瀬が走ってその子を助けてあげたそうだ。
でもその時に七瀬の足元にもボールが転がっていて、七瀬は助ける時にそのボールに乗り上げてしまった。 そして七瀬はそのままバランスを崩し、足を捻って転倒してしまったそうだ。
(うわっ……それ、かなり痛いやつだ……)
サッカー部の友達が昔にそんな怪我をしてた事を思い出した。 軽度の捻挫ならまだいいけど、重症だと普通に1ヵ月以上は歩けないような怪我だったはずだ。
「な、七瀬君……ごめんなさい……ひっく……」
「う、ううん、気にしないで。 ほら、私頑丈だからさ、全然大丈夫だよ。 それに、そこまで痛くないし、休んでればすぐに治るよ……」
いや絶対に大丈夫じゃないだろ、どう見ても七瀬はやせ我慢をしている。 いや、七瀬がそういう性格の子だってのは知ってはいるけど……
「おい七瀬、聞こえるか? 大丈夫か?」
「ぅ……え? せ、先輩……?」
ようやく七瀬は俺に気が付いたようだ。 額には汗を流しつつも俺に対して笑いながら喋り出した。
「え、えぇ、大丈夫ですよ。 ちょっと休めばすぐに良くなります……だから、大丈夫ですよ」
苦痛で顔は歪んでいるのにも関わらず、それでも七瀬は俺に対しても大丈夫だと言いながら無理して笑ってきた。
「七瀬……」
俺はそんな七瀬の顔を見ていたら……なんだか無性に腹が立っていた。 でもこんな所でとやかく言うべき事ではない。
「七瀬、とりあえず保健室行くぞ」
「え? い、いえ、大丈夫ですよ。 少し休めば治ると思いますし――」
「そんなのいいから」
俺は七瀬の喋りを途中で遮った。 そしてそのまま倒れている七瀬の前にして腰を下ろし、俺は両手を広げて倒れている七瀬の背中と膝裏に手を添えてみた。
「七瀬、ここ触ってるけど、痛くはないか?」
「え? は、はい。 痛くはないですけど……」
「そうか、良かった。 あとは手を俺の肩にかけといてくれ」
「は、はい? こうですか?」
「うん、それで大丈夫だ。 じゃあ……よっと!」
そう言って俺は七瀬を抱きかかえるようにして立ち上がった。
「うわっ……!」
「どうした七瀬、やっぱり痛むか?」
「い、いえ! そうじゃないんです、気にしないでください!」
「うん? わかった。 それじゃあ急いで保健室に向かうからな」
俺はそう言って七瀬を抱きかかえながら体育館から保健室へと向かった。




