7話:王子様はお姫様に憧れる
保健室に到着すると、保健室の先生は不在だった。 ホワイトボードには「15分で戻ります」というメモ書きがされていたので、多分すぐに戻って来てくれると思う。
「一旦ベッドに降ろすぞ」
「はい……すいません」
俺は抱きかかえていた七瀬を空いているベッドに降ろした。 七瀬はベッドに腰掛けるようにして座った。
「とりあえず、靴と靴下は脱いでおいた方がいいな」
「そ、そうですね、じゃあ……」
そう言って七瀬は前かがみになりながら靴を脱ごうとしたのだけど……
「っつう……!」
「だ、大丈夫か?」
「す、すいません……ちょっと足首を動かしたら痛かったみたいで。 で、でも大丈夫――」
「七瀬」
七瀬が大丈夫だと言いかけたので俺はその言葉を遮った。 だって誰がどう見てもそれは大丈夫では無いのだから。
俺はそのままベットに座っている七瀬の前で膝をついてしゃがみこんだ。 七瀬はそんな俺の姿を見て不思議そうな顔をしていた。
「せ、先輩?」
「ほら、ここに足乗せろ」
俺は自分の膝を手でパンパンと叩いた。 ここに足を乗っけろと七瀬に向けてそう言った。
「え!? で、でもその……き、汚いですし……」
「今更遠慮するなよ。 それに前にも言っただろ? 何かあったら俺の事を頼れってさ」
「で、でも……」
「いいんだよ、後輩なんだから遠慮なんてするなって。 少しくらい甘えたって誰も何も言わねぇよ」
「……わかりました」
七瀬はそう言いながら俺の膝に足を乗せてくれた。 そして俺は七瀬の足首をなるべく動かさないようにゆっくりと靴を脱がした。
「んっ……」
「大丈夫か? 次は靴下を脱がすからな」
「は、はい……」
俺はそう伝えて七瀬のハイソックスをするすると脱がせていった。 なるべく動かさないにはしたけど、それでも多少は足首が動いてしまったので、七瀬は痛そうな顔をしていた。
「んっ……」
七瀬のハイソックスを脱がし終わると、くるぶし辺りが青あざになり若干腫れているようだ。 あぁこれは見ただけでもわかる……かなり痛いやつだろ……
俺は心配になって七瀬の顔を見ようとして顔を上げたら、その時七瀬と目が合った。
「……せ、先輩……私は大丈夫ですから……」
「……いや、全然大丈夫じゃないだろ」
「……え?」
「こんなの絶対に痛いだろ。 俺だって同じ怪我をしたら痛いって絶対に言うぞこれは」
「……で、でも……」
絶対に痛いはずなのに、七瀬は頑なに大丈夫だと言ってきた。 そんなに心配をかけさせたくない理由があるんだろう……いや……
「いやわかるよ。 なんで七瀬がそこまで頑なに強がってさ、誰にも心配をかけさせたくない理由なんてわかるさ……だって七瀬はこの学校の王子様だもんな」
「……っ……」
俺がそう言うと七瀬は黙ってしまった。 それでも俺は七瀬と出会ってこの数ヶ月間で思っていた事を七瀬にぶつけた。
「周りの子達が七瀬をどう評価してるかは知ってるし、七瀬もその期待に応えようとしてるのも何となくだけどわかってる。 でもさ、俺は七瀬の事を王子扱いなんてしてないだろ?」
「……」
「だからさ、こんな時まで弱音を吐かない王子様に徹しなくていいんだよ。 今この部屋には俺と七瀬以外には誰もいないんだから」
「……せ、先輩……」
「だから俺の前でくらいは、王子様でもなんでもない……普通の七瀬でいてほしいんだよ」
「……で、でも……私にはこれしか――」
「大丈夫、七瀬は普通の女の子だよ」
「……っ!」
俺は七瀬の顔を見ながらそう言った。 すると七瀬はそのまま俯いて黙ってしまったが、でもすぐに顔をこちらに向けて口を開いた。
「……やっぱり……」
「……え?」
「やっぱり先輩だけです……私の事をちゃんと女の子扱いしてくれるのは……」
そうポツリと言い出すと、七瀬は次第に涙をポロポロと流し始めた。
「……ぐすっ……先輩ごめんなさい、私嘘つきました……本当は全然大丈夫じゃないです……すっごい痛いです……ひっぐ。 そ、それに……腫れてるのを見ちゃったら……なんだかどんどん怖くなってきて……ぐす……」
「あぁ、頑張ったな……七瀬はよく我慢したよ。 もう少しで先生も戻ってくるから、あと少しの辛抱だよ」
「はい……ぐす……すいません先輩……ひっぐ……」
七瀬がぽろぽろと涙を溢すところを初めて俺は見た。 でも俺はそんな七瀬の姿に驚いたりはせずに、そのまましばらくの間七瀬の頭を優しく撫でてあげた。
◇◇◇◇
それから数分して保健室の先生が帰ってきた。
七瀬の足の怪我は軽度の捻挫だと判断されて、そのまま先生にテーピングを施行してもらっていた。
そして念のために病院でも検査してもらった方が良いと先生に言われたので、このあと七瀬の両親が車で学校までやってくるそうだ。
その間に俺は七瀬の教室に行って、七瀬の荷物を一通り保健室に持ってきた。 七瀬の着替えなどは保健の先生が持ってきてくれていた。
それからしばらくすると七瀬のスマホが鳴った。 どうやら七瀬の両親が学校の校門に到着した連絡がきたようだ。
「……先輩」
「うん? どうした?」
七瀬はスマホを確認し終えると俺の方を見てきた。 でもなんだか七瀬はちょっと緊張しているような感じだった。
「あ、あの……いつでも頼っていいって言ってくれましたよね?」
「うん、確かに言ったけど、それがどうした?」
「じゃ、じゃあ……その、お願いがあるんですけど……」
「あぁ、出来る事なら何でもするぞ」
俺がそう言うと、緊張気味だった七瀬は覚悟を決めたような目をして俺にお願い事を言ってきた。
「え、えぇっと……そ、その……私を校門まで運んでもらえないでしょうか?」
それが七瀬のお願いだった。
「……え? 頼みってそれだけ?」
俺は思わず聞き返してしまった。 もっと重大なお願い事をされるのかと思ってたので、なんだか拍子抜けしてしまった。
「だ、駄目でしょうか?」
「え、いや、そんなのお安い御用だけど……でもなんでそんなに緊張してるんだ?」
「えっ!? えっと……そ、その……」
「うん? その?」
「そ……その……さっきみたく……お、お姫様抱っこで運んでもらいたくて……」
七瀬は顔を真っ赤にしながらそう言ってきた。
「あぁ、なんだそんな事か」
「そ、そんな事って……! 私にとってはとても重大な事なんです!」
「そ、そうなのか。 それはその……すまんかった」
「い、いやこちらこそすいません……って、別に怒ったわけじゃなくて。 さっきして頂いた時は気が動転していて、せっかくのお姫様抱っこを堪能出来なかったので……もう一度お願いしたいんです」
俺が謝ると七瀬は顔をぶんぶんと横に振りながら説明をしてきた。 まぁつまりお姫様抱っこをされたいって事なんだよな。
「わかったよ。 じゃあ……ほら」
俺はそう言って七瀬の前で屈んで、そのまま両手を広げて七瀬の背中と膝裏を支えるように触れた。
「え、えぇっと……私はどうすれば?」
「七瀬は手を俺の肩にかけて……うん、そうそう。 もっと抱きつくような感じでいいぞ」
「だ、抱きつく感じですか……!? え、えっと、こうですか?」
「あぁ、それで大丈夫だ。 じゃあこのまま立ち上がるぞ……よっと!」
「わっ、わわっ!」
俺が立ち上がると七瀬はビックリしたような声を上げた。 七瀬が俺の肩にかけている手の力も少し強くなった。
「大丈夫か? 怖くないか?」
「い、いえ全然です!」
七瀬は興味深そうにキョロキョロと辺りを見渡していた。
「す、凄いですね……はは、何だか本当にお姫様になった気分です」
「こんなことで良ければいつでもやってやるよ」
「ほ、本当ですか!?」
七瀬はそう言って嬉しそうな笑顔を俺に向けてきた。
「期待……しちゃいますからね、先輩」
「あぁ、約束するよ。 だからこれからはちゃんと俺の事を頼ってくれよな」
「……はい、ありがとうございます先輩。 これからは……いや、これからも頼りにさせて貰いますね、先輩……」
そう言う七瀬の表情はとても可愛らしい女の子の笑顔をしていた。 七瀬は顔を真っ赤にしながらも……とても嬉しそうに笑ってくれたのであった。
最後までご覧いただきありがとうございました。
今回は少女漫画っぽい感じのラブコメを作りたくて書いてみた作品でした。
いつか時間をとれたらオマケとして七瀬視点+アフター話を書こうかなと思っています。
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