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4話:七瀬の憧れてるもの

 朝比奈にセクハラ疑惑をかけられてから数日後の放課後。 今日は久々に七瀬が文芸部の部室に来てくれた。


「お、お疲れ様です……」

「おう、お疲れ……」


 微妙な空気感が部室内に漂っていた。 いや先日セクハラ疑惑を出しまったので仕方のない事だけど。


「あの、今日も本を読みに来ました」

「あ、あぁ、俺に気にせず楽しんで行ってくれ」

「はい、ありがとうございます」


 七瀬はいつも通り部屋の机に荷物を置き、近くの本棚の物色を始めていた。 どうやら七瀬は気にしてないように振舞ってくれていたので、俺は心の中で七瀬に感謝しながら読書を再開した。


「あ……」

「ん?」


 すると突然、七瀬は声を上げた。 何だか珍しいなと思って俺は七瀬の方を見てみた。 するとどうやら、本棚から気になる本を見つけて声を出したようだった。


「こういう児童用の文学書も置いてあるんですね、先輩」

「うん? あぁ、それは……」


 七瀬はそう言って指をさしてきた本は、子供向けに改変された文学書だった。 シンデレラに白雪姫、ラプンツェル、眠りの森の美女などなどの様々な子供向けに改変された本がその本棚には入っていた。


 この部室にある本棚には小説や詩集、絵本に漫画などの様々なジャンルの本が入っていた。 それは今までの先輩達が残していった本達で作られた本棚だからだ。 それらの本達は先輩が趣味で残していった本もあるし、何か作りたい本の参考文献として残していった本もある。 そして七瀬が指さしたその本達は、後者だった。


「それは去年の先輩が子供向けの絵本を作りたいって言って参考にしていた本だな。 それで先輩が卒業する時にここに置いていったんだ」

「なるほど」


 七瀬はそう頷いて、本棚からシンデレラの本を取り出した。 グリム童話の方ではなく、子供向けに改変されてるものなので、とても読みやすい本になっているはずだ。


 七瀬はそのまま椅子に座り、早速シンデレラの本を読みだした。 読書の邪魔をするのは悪いと思ったので、俺も手に取っていた小説を再び読み進めていった。


◇◇◇◇


「ふぅ……」


 それから少し時間が経過し、七瀬は読んでいた本を閉じて一息ついた。 満足そうな顔をしていたので、俺は七瀬に尋ねてみた。


「面白かったか?」

「えぇ、とても面白かったです」

「そうか。 それなら良かった」


 七瀬はそう満足そうに言ってきた。 確かに良い話だとは思うけど、高校生がそんなに満足するような話だったか? と、若干疑問にも思ったけど、そこまで気にしない事にした。


「私、シンデレラを本で読んでみたの初めてかもしれません」

「へぇ、そうなのか?」

「えぇ。 テレビアニメは子供の頃に見た事はありましたけど、本で読むのは初めてかもしれません」


 七瀬はシンデレラの表紙を見つめながらそう言った。 表紙にはシンデレラが王子様にガラスの靴を履かしてもらっているシーンが描かれていた。


「でもやっぱり、女の子としてはこういうお姫様の話には憧れるんじゃないのか?」

「……え?」

「あ、あれ? 違ったか?」


 中2になる俺の妹はあのプリンセス作品達がとても大好きで、千葉県にある某巨大テーマパークにはパレードを見に家族でよく遊びに行ったものだ。


「い、いえ。 そうですね、憧れはやっぱりありました。 幼稚園の頃は私もお姫様になって、それで、いつか素敵な王子様と結婚したいなって思った事もありました。 でも……」

「でも?」

「小学生に上がったらすぐに身長が高くなってしまいましたし……ほら、体型とかも全然女性らしくないですから。 はは、なんというか、小学生になってすぐに現実を突きつけられてしまったといいますか。 それにいつの間にか私はお姫様じゃなくて、王子様になっちゃっいましたし」

「七瀬……」

「でも、それでいいんです。 私もお姫様よりも王子様の方が似合ってるって思ってますし、はは」


七瀬は笑ってはいたけど、俺にはどうしても無理に笑っているように見えた。 以前にも似たような出来事があったけど……やっぱり寂しそうだと感じたのは間違いでは無かったんだ。


「なぁ、七瀬。 その、なんというか……無理とかはしてないのか?」

「え? 大丈夫ですよ、無理なんてしていませんよ?」

「……そっか、いやまぁそれならいいけど。 でも、もし何かあったら、その時くらいは俺の事を頼ってくれよ」

「はい、ありがとうございます。 でも大丈夫ですよ。 本当に無理とかは一切してないので。 それに部活のおかげでメンタルとフィジカルはどちらにも自信はありますし。 ふふ、少しは王子様っぽいですかね?」


そう言って七瀬は腕を曲げながらちからこぶを出すようなポーズを取った。


「……あぁ、わかった。 それならいいんだ」

「はい、いつも親切にありがとうございます、先輩」


そう言ってその日は解散をした。

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