3話:七瀬と朝比奈
次の日の放課後。
今日は図書委員の仕事があったので、俺は図書室へと向かった。 仕事内容は新しく追加された本にカバーとラベルを貼る作業だ。 俺の他に来ている図書委員は数名いて、その中には七瀬も来ていた。
作業自体はとても簡単だったので図書委員としての仕事はすぐに終わった。 その後集まった図書委員達は早々に帰宅していったり、残って本を読んだりと自由に行動をしていた。
俺はせっかく図書室まで来たし何冊か本を借りてから帰ろうと思い、読みたい本を探し始めた。 すると本を探している途中で、近くの机で七瀬と女子の図書委員が2人で雑誌を読んでいるのを見かけた。
「私はこういうのが好きだけどな」
「えー? 七瀬君は断然こっちの方がいいよー! カッコいいしこういうのが似合うよ!」
「いや、私は美月に合いそうな服を探してたんだけど」
「え? あ、私に似合う服を探してくれてたんだね! ありがとう! でもそうだよね、こういう、ゆるふわなワンピースは七瀬君には似合わないもんねー」
「……あはは、そうだね」
「あ、じゃあこっちの服装はどう? 七瀬君にはこういうボーイッシュなコーディネートが似合と思う――」
「何読んでるんだ?」
俺は七瀬達が何を読んで盛り上がっているのか気になって声をかけてみた。
「あ、先輩」
「あー穂積先輩! ちょうど良い所に!」
「え? なんだどうした?」
声をかけるとすぐに、七瀬の隣に座っていた女子の朝比奈美月に呼び止められた。 どうやら2人が読んでいるのは女性向けのファッション雑誌のようだ。
「ってこれ図書室の本じゃないだろ」
「す、すいません……」
「まぁまぁ、穂積先輩! ひとまずその話は置いといてください」
どうやらその雑誌は朝比奈の私物らしい。 まぁ校則違反という訳でもないだろうから、別にいいか。
「それで? ちょうど良いって、何がだ?」
「そうそう先輩。 このページ見て欲しいんですけど」
「ん? どれどれ」
そのページは女子のファッションコーディネートの特集ページだった。
「今七瀬君にはこういう服が似合うよね! っていう話をしてたんですけど、穂積先輩もそう思いませんか?」
朝比奈が指さしてきたファッションは黒いデニムにジャケットを羽織ったブーツ姿の女性を指さしてきた。 メンズライク的なファッションだった。 確かに七瀬は背も高いし、男っぽい服装はかなり似合うだろうな。 でも俺としては……
「うーん、確かに七瀬は背が高いからこういうのは七瀬に似合うと思うけど」
「……」
「ですよね! 穂積先輩も七瀬君にはこういう服を着てほしいですよね?」
「え? いや、似合うとは思うけど着てほしいかと言われたら別にそこまで」
「……え?」
「えー、なんでですかー? 絶対に似合うから見てみたいのにー!」
俺がそういうと七瀬は意外そうな顔をしてきて、朝比奈は俺に対して文句を付けてきた。 いや、ああいうファッションが七瀬に似合うのはわかるのだけど、ただ、俺の好みはもう少し女子っぽい服装の方が好きだったから。
「うーん、単純に好みの問題だからなぁ。 こういう服が七瀬に似合うってのは何となくわかるけど」
「むむむ……じゃあ逆に、穂積先輩はどんな服装を七瀬君に着てもらいたいんですか?」
「え? う、うーん……」
朝比奈はそう言って俺にファッション雑誌を渡してきた。 七瀬も気になるようで、俺の方を見てきだした。 俺はファッション雑誌を受け取ってパラパラとめくっては見たが、いい感じの服装を思いつけなかった。
「いやそう言われても……俺あんまりファッションとか詳しくないからよくわかないんだけど……あ、でもさ」
俺は一旦雑誌から目を離して、七瀬の方をチラっと見ながらこう言った。
「ほら、七瀬って足がスラっとして綺麗だし、スカートとか足を出すファッションも可愛くていいんじゃないか?」
「っ……!?」
俺は七瀬の足元を見ながらそう提案してみた。 ボーイッシュなパンツ姿も似合うと思うけど、女の子らしく足を出す感じの服装も俺は七瀬に似合うと思ったからだ。
「ちょっと先輩! 目つきがいやらしいです、セクハラですよ!」
そんな事を思いながら、七瀬の足元を見てたら朝比奈から怒られた。 俺は慌てて首を横に振りながら否定しようとした。
「えっ!? い、いやちがっ……!」
「……」
俺は否定しようとしたのだけど……肝心の七瀬は顔を赤らめて俯いてしまっていた。 うん、これは完全にアウトでした。
「……すいませんでした……」
そんな七瀬の顔を見たら謝るしかなかった。 俺は素直に七瀬に向かって頭を下げた。
「い、いえ……! そ、その、ええっと……ち、違うんですけど……だ、大丈夫ですから頭を上げてください!」
七瀬は慌てながら俺にそう言ってきた。 俺も恐る恐る顔を上げたが、七瀬は怒ってるわけでは無さそうだ。 俺はホッと胸をなでおろした。
「でも確かに七瀬君はスタイル良いし、そういうのもアリかも……あ、じゃあ七瀬君、こういうのは――」
そこからまた女子トークが始まりそうになったので、俺は急いでその場から退散した。 またセクハラ疑惑をかけられそうで怖かったから……というわけでは決してない。




