2話:周りからの評判
それから数日後の昼休み。 俺は友達と一緒に食堂で昼ごはんを食べていたら、後ろの席から喋り声が聞こえてきた。
「葵君カッコよかったねー! 今日の体育でも凄い活躍だったよね!」
「うんうん! 見た目通りスポーツ万能で、流石バスケ部のエースって感じだよね! 今日も走る姿カッコ良かったなぁ」
どうやら後ろの席に座っている生徒達は七瀬と同じクラスの女子のようで、七瀬についての話で盛り上がっているようだ。
「カッコいいし、運動神経も良いし、勉強も出来るし、もう本当に理想の王子様って感じだよね!」
「わかるわかる! それでいて気さくで優しい性格なのも良いよね。 前に私が筆箱を忘れちゃった時もすぐに気が付いてシャープペン貸してくれたりしたし、本当に凄い優しいよね葵君は!」
「うん、七瀬君本当に優しいよね! あとそれにさ、七瀬君ってあげた物とかも大事にしてくれるんだよねー」
「え? そうなの?」
「うん。 私さ、結構前に七瀬君にスポーツタオルをプレゼントしたんだけど、今でもそのタオルを部活で使ってくれてるんだよ!」
「え!? 何それズルい! 抜け駆けしてるじゃん!」
「えへへ。 しかもさ、七瀬君はちゃんとその事覚えててくれてるんだよね。 今日の体育の時間にもさ、“タオルありがとう、使いやすくて助かってるよ”……って言ってくれたんだよ! ヤバいよね! それだけでもう一生推せるって!」
(……なるほど。 そりゃあ七瀬はモテるわな)
七瀬の評価を客観的に聞いたのはこれが初めてだったので、俺はなるほど、と思いながら聞き耳を立ててしまっていた。
「あーあ、私もなぁ……七瀬君みたいな素敵な彼氏が欲しいなぁ。 あ、そういえばそっちはどうなの? 彼氏とは最近どうなの?」
「あー! ちょっと聞いてよ! 私さ、髪切ったじゃん? なのに彼氏全く気がついてくれないの! でも葵君はすぐに気が付いてくれて、可愛いねってさりげない感じで褒めてくれたんだ! あぁいうさりげなさも嬉しいよね」
「えー! 何それ羨ましい! 私も髪切って葵君に褒めて貰いに行こうかなー、あはは。 あ、そういえばさ……」
これ以上聞き耳を立てるのは後ろの女子達に悪いと思ったので、俺は友達と一緒に席を立って食堂を後にした。 知ってはいたけど、七瀬の女子人気はかなり凄いという事を再認識した昼休みだった。
◇◇◇◇
その日の放課後。 今日も七瀬は文芸部に訪れた。
「先輩、お疲れさまです」
「おう、お疲れ」
七瀬は俺に挨拶をした後は、いつものように部室の机に自分の荷物を置いて、近くの本棚から読みたい本を探し始めた。
「……」
「うん? どうしましたか、先輩?」
そんな七瀬の姿を眺めていたら、七瀬は不思議そうな顔をして俺の方を見てきた。
「あぁ、いや、女子達が七瀬のファンになる理由が何となくわかってな。 外見も中身もイケメンだから、そりゃあ皆イケメン王子様って呼ぶよな」
「ふふ、どうしたんですかいきなり? また授業中に欠伸でもしながらよそ見してたんですか?」
「え、い、いや違うんだけど……」
昼休みに女子の話し声を盗み聞きしていたとは流石に言えないので、俺は言葉を濁しつつ話を反らした。
「そういえば七瀬って、いつくらいから王子様って呼ばれるようになったんだ?」
「うーん、いつくらいですかね……中学生になった時には既に呼ばれてたかもしれません」
「そ、そんなに昔からなのか?」
「えぇ。 私、身長が伸びるの凄い早かったですし、それに見た目もあまり女子っぽくは無かったので、中学の友達にはよくそう言われてました」
七瀬は昔を思い出しながら笑顔でそう喋った。 でも何だかその笑顔は……気のせいかもしれないけれど、俺には少し寂しそうにも感じた。
「ふぅん、そうなのか。 なんだか七瀬は昔から大変そうだったんだな」
「いえそんなことは全然無いです。 理由はどうであれ私の事を慕ってくれる人がいるのは、普通に嬉しいなと思っていますし」
「あ、そうなのか?」
それじゃあやっぱり、さっき七瀬が寂しそうに見えたのは気のせいだったのかな?
「はい。 だから、私の事を王子様だと慕ってくれる人達が少しでもいるのなら、私はその人達のため王子様を頑張って演じてみようかなって思うんです。 いや、まぁ……演じると言っても対した事は何もしてないんですけどね、はは」
少しだけカッコよく喋ってみようかな、とかそんな程度しかしてないんですけど……と、少し恥ずかしそうに七瀬は笑った。
「その、なんというか……七瀬は優しいんだな」
「ふふ、そうなんですかね。 でも、先輩にそう言って貰えるのは嬉しいです」
七瀬はそう言うと、嬉しそうな顔で俺に微笑みかけてきた。




