第十話:荒涼の埼玉と、深海の盟約
千代田から遠く離れた、未開の地・埼玉県(北)。
凍てつく風が吹き荒れる荒野で、血と泥に塗れたサ・バ・ンナは、力尽きて膝をついていた。
都での敗北、チーかま軍による極秘の追放。領地も仲間も奪われ、身一つで放り出された極寒の地で、彼の意識は今にも途切れかけていた。
(俺は……ここで終わるのか……。常盤台へ……帰ることもできずに……)
その時――。
ズズズ……と、凍てつく大地の下から重低音が響き渡った。
地表が割れ、立ち上る湿気と磯の香りとともに姿を現したのは、異形の鱗と誇り高き眼光を持つ異能の民――「海底民族」であった。都の者たちが「未開の地の怪物」と恐れ、誰も足を踏み入れなかった埼玉の地の底には、彼らの巨大な勢力が広がっていたのだ。
「陸の武士か。このような果てで果てるか」
海底民族の長が、冷ややかな視線でサ・バ・ンナを見下ろす。だが、死に体でありながらも、サ・バ・ンナの瞳の奥に宿る揺るぎない火光は消えていなかった。
「……俺は……まだ死ねん……。北区の狐どもに……奪われた全てを取り戻すまでは……!」
泥を噛みながらも立ち上がろうとするサ・バ・ンナの意志の強さに、長の眉が動いた。
「面白い。追われし者よ、我らと手を結ぶ覚悟はあるか。我らの力を貸す代わりに、お前が目指す新たな世に我らの居場所を示せ」
「望むところだ……! 常盤台へ……そして千代田へ、共に攻め込むぞ!」
極寒の荒野で結ばれた、一人の武士と海底民族の固い盟約。
埼玉のどん底で力を蓄えたサ・バ・ンナは、ついに反撃の牙を研ぎ始めるのだった。




