第八話:高物見の法王と、蠢く四国 〜成増の静観〜
千代田がチーかま軍の天下となり、本蓮沼が泥まみれで再起を誓っていた頃。
都の喧騒から遥か西、重厚な歴史と格式を誇る宗教都市・成増は、まるで別世界のような静けさに包まれていた。
1. 高物見の主・ちくわぶ法王
成増の山頂に聳え立つ巨大な寺院。
その最上階からは、都(千代田)から北区、さらには遥か埼玉の荒野までが一望できた。
豪華絢爛な絹の衣を纏い、高欄にもたれかかってお茶をすすっているのは、成増の主・ちくわぶ法王である。
「ほっほっほ……。千代田の街がえらい騒ぎになっておるのう」
ちくわぶ法王は、先祖代々から受け継がれた絶大な宗教的権威と、圧倒的な自警軍勢を背景に持つ大物であった。しかし、彼自身は戦に参加する気など微塵もない。
「法王様、チーかま軍がちくわ天皇を確保し、政権を樹立いたしました。我ら成増も、朝廷へ祝賀の使者を送るべきでしょうか?」
控えめに尋ねる側近に対し、ちくわぶ法王はモチモチとした顔を揺らしてフッと笑った。
「送る必要などないわい。チーかま風情の天下など、長続きするはずがなかろう。練り物の中でも『ちくわぶ』は煮込めば煮込むほど味が染みる……つまり、最後に残る者が勝者なのだよ。今は高物見と決め込むのが一番じゃ」
2. 敗北した「四国」の夜会
一方、千治の乱でチーかま軍に大敗し、天皇の「慈悲」によってなんとか領地を保った四国(豊島国・台東国・中央国)の首脳陣は、密かに夜会を開いていた。
「くそう……チーかまの狐どもめ! 朝廷の威光を傘に着て、偉そうに!」
「文京国が潰された今、我ら三国で耐えるしかないが……このままチーかま軍の支配に甘んじるつもりか!?」
悔しさに震える三国の大名たち。だが、彼らにはもはやチーかま軍と真っ向から戦う力は残っていない。
「噂では……常盤台のサ・バ・ンナは埼玉の未開地に流されたとか」
「埼玉だと……? あのような化け物や野犬しかおらぬ極寒の地に……? ならば、もう生きてはおらんか」
三国の大名たちは溜息をつき、暗闇の中でただチーかま政権の隙を探すしかなかった。
3. 埼玉へ届く視線
成増の寺院の頂から、ちくわぶ法王はふと北の空——未開の地・埼玉県の方角へ視線を向けた。
「……だがのう。追放されたあの若者……サ・バ・ンナと言ったか。あやつの目は、死んではおらんかったぞ」
ちくわぶ法王の呟きに、側近が首をかしげる。
「埼玉の荒野で生き残れる人間などおりませぬが……」
「そうかな? 世の中、何が起きるか分からんからのう。ほっほっほ、ますます面白くなってきたわい」
成増の法王が高物見を決める中、物語の舞台はついに、敗れし男が打ち捨てられた「未開の地・埼玉」へと移っていく。




