第七話:泥と陀下門と「いい国」 〜本蓮沼・陀下門陣営〜
千治の乱」でチーかま軍の狐どもに一杯喰わされ、ほうほうの体で本陣へと撤退した陀下門。
彼らの拠点である本蓮沼は、華やかな千代田や煌美な北区とは対極に位置する、深々と濃霧が立ち込める泥と湿原の地であった。
1. 泥の中の朝稽古
「一、二! 一、二!」
掛け声とともに、泥まみれになりながら丸太を担ぎ上げて走る男たちがいた。本蓮沼の兵たちである。
その先頭に立ち、誰よりも深く泥に足を取られながら汗を流しているのが、総大将の陀下門であった。
「将軍! そろそろ休憩にしましょう! 朝から何も食べておりません!」
部下が息を切らせて叫ぶと、陀下門はピタリと足を止め、鋭い眼光で泥に濡れた太刀を引き抜いた。
「バカ者めが! 都の練り物どもは今この瞬間も高級なチーズやらパスタやらを貪っておるのだぞ! 我らが泥を噛み、己を鍛え上げねば、あ奴らの腐敗した支配を破ることなど断じてできん!」
渋い声で喝を入れる陀下門。
彼のトレードマークは、どこか某・お茶のCMを思わせるような渋く凛とした佇まいと、質素倹約を極めた頑固一徹な生き様であった。
2. 本蓮沼の名物「家門の茶」
稽古が終わり、粗末な丸太小屋の本陣に戻った陀下門たち。
「将軍、どうぞ」
差し出されたのは、本蓮沼の地下水でじっくりと淹れられた一服の緑茶であった。
湯気を立てる茶碗を両手で包み込み、ズズ……と静かに啜る陀下門。
一息つくと、その厳めしい顔がわずかに緩んだ。
「……旨い。やはり茶は、この本蓮沼の深き静寂の中で飲むに限る。千代田のチーかまどもが飲む気取ったワインなど、ただのブドウの汁に過ぎん」
「は、はあ……。ですが将軍、チーかま軍は朝廷を掌握し、完全に都の権力を握りました。我ら本蓮沼の勢力だけでは、次に攻め込まれたらひとたまりもありません」
部下の懸念に、陀下門は茶碗をそっと置いた。
3. 「いい国をつくる」という情熱
「慌てるな。チーかまの天下など、長続きはせん。奴らの権力は『ちくわ天皇』という虚飾の看板の上に成り立っているに過ぎんのだ」
陀下門は立ち上がり、湿原の向こう、南の空を見つめた。
「見よ、この泥を。この泥こそが民の汗であり、生きる糧なのだ。上皇だの天皇だのチーかまだのに怯えず、すべての民が腹一杯の茶と米を食える世……『いい国』を、わしは作らねばならんのだ」
「将軍……ッ!」
部下たちはその熱い言葉に目頭を熱くした。
千治の乱で敗北し、泥に塗れながらも、本蓮沼の武士たちの絆と「いい国づくり」への執念は、ますます強固なものとなっていたのである。
「よし! 次の訓練だ! 全員、湿原に飛び込めぇい!」
「「「おーっ!!!」」」




