第二十八話:傷痕の常盤台と、千代田の暗雲
「ハァ……ハァ……。すまん、ゆるる。俺の不覚だ……」
常盤台の本陣。深海の鎧を脱ぎ捨てたサ・バ・ンナは、湿布と包帯で全身を固められながら、悔しそうに拳を握りしめていた。
練馬ヶ原で引き分けに持ち込まれた挙句、盟友であった陀下門の不意打ちに近い猛攻を受け、軍勢は文字通り満身創痍。常盤台と前野町への撤退を余儀なくされた兄弟連合軍は、重い沈黙に包まれていた。
「滅相もございません、兄上。陀下門殿の粘り強さと本蓮沼の執念を読み切れなかったのは俺も同じです。……ですが、我らは生きて本土へ戻れた。生きている限り、何度でも立ち上がれます!」
ゆるるが兄の手を強く握り返す。その瞳には衰えぬ闘志が宿っていた。
「ああ……。練馬の資源は惜しいが、まずは兵の傷を癒やし、陣地を固める。チーかま軍も朝廷のゴタゴタで身動きが取れんはずだ」
サ・バ・ンナの予想通り、その頃の千代田・朝廷本部は、外部と戦うどころではない極度の緊張状態に包まれていた。
千代田の大広間。
「ちょっと、ちくわ。そっちのチーかま風情の物陰に隠れてないで、さっさと私のもとへ来なさい」
品川の重装パスタ兵団を背後に従え、冷徹な笑みを浮かべるペンネ上皇。その鋭い視線の先には、ガタガタと震えながらチーかま軍の盾の裏に隠れるちくわ天皇の姿があった。
「ひ、ひぇぇぇっ! 母上、ごめんなさい! でもチィさんたちが
『上皇様のところに行ったらパスタの具にされる』って言うからぁぁ!」
「あら、余計な知恵を吹き込む狐がいるみたいね……」
ペンネ上皇の威圧に対し、参謀・紋派は一歩前に出ると、一切の感情を殺した声で告げた。
「上皇様。ちくわ天皇陛下、ならびに皇位継承権を持つかまぼこ親王殿下は、朝廷の正統な庇護下におられます。品川の独断専行による朝政への過度な介入は、武士の道に反するものとみなします」
「ハッハー! そうよババァ! 天皇もお子様(親王)もアタシたちの味方なの! 官軍の正統性はこちらにあるのよ!」
陣輿の上で強気に出るモ・ト・ハ・チィ。
その横で、かまぼこ親王は「ちーかま美味しいです、もぐもぐ」と呑気にチーズをかじっている。
「……ふん。いい気気になったものね、練り物ども。朝廷の威光など、この品川の圧倒的な武力の前にはただの紙切れ同然だということを、近いうちに思い知らせてあげるわ」
ペンネ上皇はフォークをカチリと鳴らし、冷たい一瞥を残して去っていった。
「チィ様……上皇様との全面対決は時間の問題です。都の勢力図が完全に二分される前に、手持ちの駒を増やさねばなりません」
「分かってるわよ……! サ・バ・ンナたちが倒れている今こそ、都の真の覇者を決める時ね!」
傷を癒やす常盤台のサ・バ・ンナ兄弟と、ついに決定的な亀裂が入った「ペンネ上皇 vs チーかま軍&天皇派」の政治的暗闘。
静かなる前哨戦が、着々と進行していくのだった。




