第二十九話:千代田冷戦と、暗躍する影
「上皇様、品川からの追加兵装、ならびに重装パスタ砲の陣頭配置が完了いたしました」
千代田の南に位置する陣地にて、ペンネ上皇の側近が深く頭を下げた。
「上皇様、いつチーかま軍へ総攻撃を仕掛けますか? 奴らはちくわ天皇とかまぼこ親王を人質同様に囲い込み、朝廷の正統性を主張しております」
ペンネ上皇は上質なフォークを指先で弄びながら、冷ややかな笑みを浮かべた。
「焦る必要はないわ。チーかま軍は練馬ヶ原での失敗と補給線の崩壊で、すでに青息吐息。あんなハリボテの政権、力で押し潰すのは容易いけれど……朝廷の権威ごと灰にしてしまっては意味がないでしょう?」
上皇の狙いは単なる武力行使にとどまらず、朝廷の完全なる掌握にあった。
「ちくわを力で脅し取っても、都の原住民どもが反発するだけ。チーかま軍が自滅し、自ら天皇を手放すまで圧力をかけ続けるのよ」
一方、千代田の朝廷本部内。
「ひ、避難命令!? 紋派さん、品川の砲口がこっちを向いてるよぉぉっ!」
ちくわ天皇は部屋の隅で頭を抱えてガタガタと震えていた。窓の外を見れば、品川軍の重装歩兵が整然と包囲網を狭めているのが見える。
「落ち着きなさい、ちくわ。アタシたちがついているんだから!」
チィが大声を上げるものの、その顔には隠しきれない焦燥がにじんでいた。
参謀の紋派は、北区や足立からの補給ルートの地図を睨みつけながら、淡々と現状を分析する。
「チィ様、品川軍による経済封鎖と威嚇砲撃により、千代田への補給は完全に途絶しかけています。このままここで籠城を続ければ、上皇と戦う前に我らが飢え倒れます」
「じゃあどうするのよ!? 成増のちくわぶのジジイはアテにならないし、常盤台のサ・バ・ンナはボロボロだけど生きているのよ!?」
「……選択肢は二つ。品川軍と刺し違えるか、あるいは……この千代田を一旦捨て、ちくわ天皇と親王をお連れして北区の本陣へ撤退するか」
「えぇっ!? 朝廷(千代田)を捨てるっていうの!?」
「『都を追われた正統な朝廷』として北区に拠点を置き、品川を『朝敵』として討伐する大義名分を得るのです。それしか、我がチーかま軍が生き残る道はありません」
紋派の冷徹な提案に、チィは息をのんだ。
千代田を巡る「ペンネ上皇」と「チーかま軍」の冷戦は、ついに破局のときを迎えようとしていた。
そして、この朝廷の分裂劇を、常盤台で傷を癒やすサ・バ・ンナたちが静かに見守っていた——。




